近年、発展の目覚しい中国は、日本にとって、生産拠点としてだけでなく、市場としての重要性も増している。それを象徴するように、日本の対中輸出は2009年に戦後初めて対米を上回り、中国は米国にとって代わり日本の最大の輸出先となった(図1)。
日本企業が海外市場にアクセスする方法としては、「本社からの輸出」の他に、「現地生産、現地販売」も重要である。それぞれの実態について、前者は財務省が発表する「貿易統計」、後者は経済産業省がまとめる「海外現地法人四半期調査」を通じてうかがうことができる。ここでは、この二種類の統計をベースに、日本企業にとっての中国市場の規模を、米国市場と比較しながら確認する(表1)。ただし、データの制約から、中国大陸に香港を加えた「中華圏」と米国にカナダを加えた「北米」という地域分類に沿って、2002年以降の変化を中心に分析を進める(注1)。
対北米を上回った対中華圏輸出
まず、貿易の面では、2002年から2009年にかけて、日本の対中華圏輸出は652億ドルから1415億ドルに増えており、輸出全体に占めるシェアも15.7%から24.4%に上昇している。これに対して、対北米輸出は1259億ドルから1014億ドルに減少しており、輸出全体に占めるシェアも30.3%から17.5%に低下している。その結果、2009年の日本の対中華圏輸出は対北米輸出を40%ほど上回るようになっている。
1) 2002年
もっとも、中華圏向け輸出の中には、現地販売のみならず、加工してから再び海外へ輸出される部品などの中間財が多く含まれている。中国の輸入全体に占める加工貿易の比率(2009年には32.1%)が対日輸入(日本の対中輸出)にも当てはまると仮定すると、2009年の日本の対中華圏輸出のうち、454億ドルが加工してから再び中国から輸出され、残りの961億ドルが現地販売額と見なすことができる。これは、日本の対北米輸出の94.8%に当たる(注2)。
北米を追い上げる中華圏での現地生産と現地販売
一方、2002年から2009年にかけて、中華圏における日系企業の現地生産額は275億ドルから1417億ドルに、そのうち、現地販売額は97億ドルから870億ドルに急増している。これに対して、米国における現地生産と現地販売はともに伸び悩んでいる。
その結果、2009年に、中華圏での現地生産額はすでに北米の73.0%に達している。しかし、中華圏における現地販売比率(現地生産額に占める現地販売額の比率)が北米を大幅に下回っていることを反映して、現地販売額はまだ北米の49.9%にとどまっている。
もっとも、中華圏においても、現地販売比率は2009年に61.4%と、2002年の35.3%と比べて着実に高まっている。これは現地市場を目指した自動車の生産拡大によるところが大きい。2009年の中国における自動車販売台数は1364万台に達しており、初めて米国を抜いて世界一の規模となった中で、日系メーカーの活躍が目立っている。乗用車に限ってみると、2009年に日系メーカーの販売台数は全体(1033.1万台)の21.3%に当たる219.7万台に達しており、外資の中でトップのシェアを持っている(中国汽車工業協会調べ)。
中国は日本にとって最大の海外市場へ
日本企業にとっての中国と米国の市場規模は、それぞれ日本からの現地向け輸出額と現地生産額を合わせた「総売上」、または日本からの現地向け輸出の中の現地販売額と現地生産の中の現地販売額を合わせた「総最終需要」によって表すことが出来る。それによると、2002年から2009年にかけて、中華圏の「総売上」は北米の31.0%から95.9%へ、「総最終需要」は北米の16.8%から66.4%へと上昇している。
このように、日本の海外市場は急速に北米から中華圏へとシフトしている。これは、主に中華圏の経済成長率、ひいては市場拡大のスピードが北米よりはるかに高いことを反映している。このような傾向は今後も続くと予想されることから、「総売上」はもとより、「総最終需要」で見ても、中国が米国にとって代わって、日本の最大の海外市場になる日はもはや遠くない。
2010年5月19日掲載