中国経済新論:実事求是

世界的金融危機で存在感を増す中国

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

米国発の金融危機が拡大と深化の一途を辿る中で、中国経済は比較的に良好なパフォーマンスを保っており、世界経済における存在感を増している。高まる中国の世界経済成長への寄与度や、日米独と上位を争う貿易とGDP規模、世界一の外貨準備と米国債の保有額などは、その現れである。

2009年の世界の経済成長の約半分に寄与

米国発の金融危機の影響を受けて、世界経済は、2008年に続いて2009年も更なる景気の減速が避けられないと見られる。11月に発表されたIMFのWorld Economic Outlook(改訂見通し)によると、2009年の日米欧は軒並みマイナス成長になり、世界経済成長率も2008年の3.7%から2.2%に低下するが、中国は減速基調が続くものの、2009年も8.5%という比較的高成長を維持できると予想される。中国のGDP規模が購買力平価(PPP)ベースで世界の12.0%に当たることを合わせて考えれば、中国による世界経済成長への寄与度は、全体(2.2%)の半分近くに相当する1.02%(8.5%×12.0%)に上り、インドやロシアといった主要新興国を大きく上回ることになる(表1)。

表1 主要国・地域の世界経済成長率への寄与度
表1 主要国・地域の世界経済成長率への寄与度
(出所)IMF, World Economic Outlook Update, November 6, 2008より作成

世界一の輸出大国と第三位のGDP大国へ

2007年の中国の輸出は1.22兆ドルに達し、ドイツ(1.33兆ドル)に次いで世界第二位であったが、2008年に入ってからも年率20%のペースで増えており、7月以降、ついにドイツを抜いた(図2)。

一方、IMFによると、2007年の中国のGDP規模は3.25兆ドルと、米国(13.84兆ドル)、日本(4.38兆ドル)、ドイツ(3.32兆ドル)に次いで世界第四位であり、第三位のドイツとの差は僅かである。2008年には、中国の成長率は9%を超え、ドイツの1.7%を大幅に上回ると予想される上、インフレ率がドイツより高く、人民元もユーロに対して上昇したことから、GDP規模がドイツを抜いて世界第三位になることは確実である。

図2 ドイツを抜いて世界一となった中国の輸出規模
図2 ドイツを抜いて世界一となった中国の輸出規模
(出所)ドイツ連邦統計局と中国商務部より作成

世界一の外貨準備と米国債の保有額

中国の外貨準備は、2006年2月に日本を抜いて、世界一の規模となり、その後も増え続け、2008年9月には1.9兆ドルに達している。すでに中国投資有限責任公司に移った2000億ドルを合わせれば、さらに高水準となる。その相当の部分は、米国債を中心にドル資産で運用されている。実際、米国当局の統計によると、2008年9月に、中国が保有する米国債の残高は、5850億ドルに達し、初めて日本の保有額を上回るようになった(図3)。

図3 日本を上回った中国の外貨準備と米国債保有残高
図3 日本を上回った中国の外貨準備と米国債保有残高
(注)年末値、2008年は9月
(出所)U.S. Department of the Treasury、中国国家外為管理局より作成

米国は今後、金融の安定化と景気対策のために巨額に上る財政支出が必要であり、それを賄うために大量の国債を増発しなければならない。中国がこれまで通り米国債を中心に運用し続けるかどうかは、米国の金利や、ドルの対外価値を左右する要因としてますます重要になってきている。

地域大国からグローバル経済大国へ

このように、今回の米国発金融危機を経て、世界経済の勢力図が大きく変わろうとしている。振り返ってみると、1997年7月のタイバーツの切り下げを発端に日本を含む近隣諸国の通貨が急落し、深刻な金融危機に見舞われたが、中国は、財政拡大によって7%成長を維持でき、97-98年のアジア金融危機は地域経済大国としての中国の台頭を象徴する出来事となった。それから10年経った今回の世界的金融危機において、震源地の米国にとどまらず、EUや日本といった先進地域も大きな打撃を受けている中で、中国が高成長を持続させることに成功すれば、そのグローバル大国としての地位は不動のものとなろう。

2008年12月26日掲載

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