中国経済新論:実事求是

「第一回全国経済センサス」が映しだす中国経済の真の姿
― 国有企業の凋落と民営経済の発展 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー
野村資本市場研究所 シニアフェロー

中国では、第二次産業と第三次産業を対象とする「第一回全国経済センサス」の結果が相次いで発表されている。これまで中国の経済統計の信憑性が疑われてきた中で、今回の調査は、中国経済の実態を把握するための貴重な情報を提供している。その中には、経済規模を示すGDPだけでなく、経済発展と体制移行に伴う中国経済の構造変化を示す指標も多く含まれている。

今回の経済センサスの結果によると、2004年の中国のGDP規模は15兆9878億元と、これまで発表された数字より16.8%大きい。それに合わせて、一人当たりGDPも、従来の1276ドルから1490ドルに上方修正された。その結果、中国(1.93兆ドル)はイタリア(1.67兆ドル)を抜いて、世界第六位のGDP大国になった。中国の高成長がその後も続いていることを合わせて考えれば、2005年にはフランスを抜いて、世界第五位となるだろう。今回の数字を基準に、93年以降のGDP統計が遡って見直される予定だが、近年のGDP規模だけでなく、経済成長率の実績も大幅に上方修正されることになろう。中でも、過熱と言われた2003年以降の中国経済の成長率が、実際には、二桁台に乗っていた可能性が高い。

これまでの公式統計で発表された中国のGDP規模を巡って、過大評価説と過小評価説が対立している。過大評価説は、各省では所管地域の経済成長率が地方幹部を評価する重要な指標になっているため、「粉飾決算」ともいうべき過大申告という傾向が強いことに、その根拠を求めている。その一方で、過小評価説は、公式統計では長期にわたって不振に陥っている国有部門の状況が比較的よく把握されているのに対して、好調な非国有部門の状況は十分に反映されていないことを強調する。今回の調査結果は、一部の過大申告があったことを認めながらも、過小評価説に軍配を上げる格好となった。

今回のGDP規模の改訂は、主にサービス部門の規模が大幅に上方修正されたことを反映している。GDP規模が2.3兆元ほど上方修正されたが、そのうち、サービス部門による分はその93%に当たる2.13兆元にも上る。その大きな原因の一つは、これまでの統計ではサービス部門における個人経営事業の急成長が十分捉えられていなかったことにある。今回の改訂により、GDPに占めるサービス部門のシェアは従来の31.9%から40.7%に上方修正される一方で、工業を中心とする第二次産業のシェアは逆に52.9%から46.2%に下方修正された。一般には、経済発展にしたがって、経済の中心が第一次産業(農業)から第二次産業(工業)へ、さらに第三次産業(サービス産業)へとシフトしていくという現象が広く観測されると言われている(いわゆる「ぺティ=クラークの法則」)。これまでの公式統計から判断して、中国が例外のように見えていたが、今回の調査が示しているように、これは単に事実の誤認に過ぎなかった。

一方、今回調査は、市場経済の担い手としての非国有企業の台頭を端的に示している。2001年に行われた「第二次全国単位センサス」の結果と比べると、民営化の進展を反映して、国有企業の数は48.2%減り、19.2万になったのに対して、私営企業の数は49.7%増え、198.2万に達しているという対照的結果になっている。また、2004年の個人経営事業の数は、3922万に上り、主に卸売・小売業、工業、交通運輸業、個人向けサービス業、宿泊・飲食業に分布している(表)。個人経営事業の(所有者と従業員を含む)就業者数は9422万人と、これまで把握されていた4587万人(『中国経済年鑑』による)を大きく上回り、第二次産業と第三次産業における就業者の30.5%を占めるようになっている。また、工業部門では、私営企業における就業者数は3371万人に上り、外資(台湾、香港、マカオを含む)企業の2058万人を合わせると、全体の56.3%を占めるようになり、国有企業(国有独資企業を含む)の13.4%を大きく上回っている。

表 個人経営事業の業種別構成
表 個人経営事業の業種別構成
(注)採掘業、製造業、電気・ガス・水の生産と供給を含む
(出所)中国国家統計局

このように、中国において国有企業が凋落し、その代わりに民営経済が急成長してきた。社会主義の柱とも言うべき「生産手段の公有制」を堅持するという政府の建前とは裏腹に、市場経済を目指す中国はすでに「もはや社会主義ではない」段階に来ていると言っても過言ではないだろう。

2005年12月27日掲載

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