中国経済新論:実事求是

中国の経済成長は幻か
― 中国のGDP統計の信憑性について ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

最近、中国経済成長の信憑性について、内外から数多くの疑問が投げかけられている。ピッツバーグ大学のトーマス・ロウスキー教授が最近発表した論文に要約されているように、その疑問の主な根拠は次の通りである。

(1)高い経済成長率を達成したにもかかわらず、エネルギー消費が逆に減少したこと。
(2)部門ごとの成長率と、全体の成長率との間に整合性が見られないこと。例えば、主要工業製品の大部分で生産が減少したにもかかわらず、工業製品全体では生産が大幅に増加していること、また、農業が停滞しているのに、GDP全体が高い伸びを示していること。
(3)輸出の変動が非常に大きいのにもかかわらず、安定した経済成長を達成したということ。

これを以て、彼は、中国の統計データには信憑性がないと批判し、実際の経済成長率は、当局の目標によって左右される公式の数字を大幅に下回っていると主張している。

これに対して、中国側は次のように反論している。

まず、(1)に対し、経済の成長過程において技術レベルが向上し、また産業の中心がサービス業にシフトしているため、エネルギーを節約しながらの経済成長が可能である。

次に(2)について、そもそも批判を行っている人達は、古い産業が新しい産業に取って代わられるという中国の産業構造の大きな変化を認識しておらず、事実を誤認している。

最後に(3)に対して、GDPを決めるのは輸出から輸入を引いた純輸出であり、そのGDPに対する割合は小さい。加工貿易を中心としている中国の貿易構造を反映して、輸出が大幅に増加すると、輸入も比例して上昇するので、GDPの成長に与える影響は非常に小さい。

しかし、中国側が提示しているのは、指標間の整合性を説明するためのいくつかのシナリオに過ぎず、それによって疑問が完全に払拭されたわけではない。組織ぐるみの不正ということは考えにくいが、末端からの集計の各段階において、水増し報告などの統計法違反行為が横行していることは否定しがたい事実であろう。その上、予算不足による統計システムの不備から、中国の公式統計が先進国ほど正確ではないことも何ら不思議はない。実際、GDP統計の信憑性を主張する一部の中国の経済学者さえ、エネルギー消費量の統計が大幅に過小評価されている可能性を指摘するなど、経済指標に関して大いに改善の余地があることを認めている。

しかし、中国のGDP統計の信憑性が低いことは、決して中国の近年の経済発展が幻であることを意味しない。なぜなら、公式統計が中国経済を過小評価している側面も無視できないからである。公式統計では、長期にわたって不振に陥っている国有部門の状況が比較的よく把握されているのに対して、好調な非国有部門の状況は十分に反映されていない。急成長していると見られる地下経済に至っては、全く調査の対象になっていない。実際、改革開放以来、ほとんどの経済指標は一貫して国民生活の改善と生産規模の拡大を示しており、ロウスキー教授らが取り上げている一部の指標はむしろ例外的である。今回のように、中国のGDP統計の信憑性に対し、海外からも強い関心が寄せられていること自体、中国経済の国際的地位の上昇を反映していると言っても過言ではない。

2002年5月24日掲載

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