中国における地域格差は世界の中でも際立って大きい。31の省・直轄市・自治区(日本の都道府県に相当)を2004年の一人当たりGDP順で並べてみると、もっとも高い上海は5165ドルに達しているのに対して、もっとも低い貴州は492ドルに留まり、その格差は10倍を超えている(図1)。地域格差の是正は「全面的な小康社会」の構築を目指す胡錦濤・温家宝政権にとって重要課題である。
地域格差の拡大は、自然的・地理的な要因、歴史的・文化的な要因、経済的基礎と市場潜在力の相違といった客観的な理由に加え、経済体制や政策の選択と発展戦略をも反映している。特に、先に対外開放地域に指定され、外資流入の恩恵を受けている沿海地域は、より高い成長率と所得水準に達している。実際、2004年の数字では、東部(人口5.41億人)の一人当たりGDPを100とした場合、中部(同4.54億人)は52.0、西部(同2.99億人)は39.6と低くなっている(表1)。また、農業就業者の比重の高い地域ほど、一人当たりGDPが低いという傾向も顕著になっており、地域格差の問題が、農村と都市間の格差の問題と同じコインの両面の関係にあることが伺える(図2)。
中国におけるあまりにも大きい地域間の格差については、清華大学公共管理学院国情研究センター主任である胡鞍鋼教授が、「一つの中国」には「四つの世界」が存在していると表現している(『かくて中国はアメリカを追い抜く』、PHP研究所)。すなわち、(購買力平価による)所得水準が先進国のレベルに近づいている北京、上海、深センといった第一の世界(全国人口の2.2%)、世界の平均所得を上回る広東、江蘇、浙江といった第二の世界(人口の22%)、そして発展途上国のレベルにとどまる中部の省に代表される第三の世界(人口の26%)、さらに貧困地域に当たる貴州、チベットなどの中西部の省に代表される第四の世界(人口の約半分)が同時に存在しているのである。
こうした「四つの世界」の間では、人々の所得だけでなく、教育の水準と健康状態といった面においても大きな格差が存在している。一人当たり所得や、識字率、平均寿命などを総合した人間開発指数を基準に中国を世界各国と比較すると、調査対象である177カ国のうち85位とほぼ真ん中にランクされる。また、中国の中でもっとも経済発展の進んでいる上海と北京はそれぞれ、ポルトガル(同27位)とアルゼンチン(同34位)の水準に達しているのに対して、もっとも後れている貴州省は、ナミビア(同125位)並みの水準に留まっている(国連開発計画、『人間開発報告』、2005年版)。その中間に位置づけられる広東省はマレーシア(同61位)並みにランクされている(図3)。
このように、中国経済の目覚しい経済成長の果実は必ずしも国民全体に行き渡っていない。地域格差の是正を目指すべく、2005年10月に開催された五中全会で承認された「第11次五ヵ年規画に関する党中央の提案」では、「引き続き西部開発を推し進め、東北などの古い工業基地を振興させ、中部の崛起(勃興)を促進し、東部地域の先導的な発展を励ます」ことに加え、「東部、中部、西部間の連携や、優位の補完、相互促進、共同発展という新しい局面を形成させる」という方針が盛り込まれている。モノ、ヒト、カネの自由な移動が保証される統一市場の確立(国内版FTA)、比較優位に沿った形でも分業体制の構築(国内版雁行形態)、中央の予算を通じた地方間の財政移転(国内版ODA)は、地域間協力の柱となっている。
2005年11月29日掲載