中国政府は10月に「中国の民主政治建設」と題した白書を初めて発表した(注1)。「白書」では中国共産党が社会・経済の発展に果たした役割を強調し、民主政治の「主人公」は国民であるとしながらも、それを「指導」するのは共産党であるという主張が貫かれている。残念ながら、このようなロジックは国際社会では通用するはずもなく、これによって「中国(政府)の常識」は「世界の非常識」であることが露呈してしまった。
「中国特色のある民主主義」は民主主義に当たるか
「白書」では、中国の民主主義のもっとも重要な特色として、「中国共産党の指導する人民民主」を挙げている(注2)。すなわち、「中国の民主は中国共産党がなければ新中国はなく、人民の民主もない。これは歴史によって立証された客観的事実である。中国人民が主人公になることは、中国共産党の指導下の堅忍不抜な闘争を経て実現したものである。中国の民主政治制度は、中国共産党が中国人民を指導して確立したものであり、その発展と充実は中国共産党の指導の下で実現したものである。中国共産党の指導は人民が主人公になることを根本から保証している」という。
その上、「白書」では、「中国共産党の指導と執政は、中国の発展と進歩の客観的要求である」とし、中国共産党の指導と執政が、(1)社会主義現代化建設を推し進め、中華民族の偉大な復興を実現するのに必要なこと、(2)中国の国家の統一と社会の調和・安定を守るのに必要なこと、(3)政権の安定を保証するのに必要なこと、(4)十数億の人民を団結させ、共同で輝かしい未来を建設するのに必要なこと、と述べ、共産党による統治の正当性を主張している。
しかし、中国のように「共産党」という特定の政党の指導を前提にすれば、本当の民主主義ではないことは言うまでもない。本来、民主主義は、選挙と議会と複数の政党によるチェック・アンド・バランスが機能し、国民の自らの意思で政治制度と指導者を選ぶことができるという制度である。政党は、国民を「指導する」からではなく、国民に「支持される」からこそ、統治の正当性が認められるのである。民主主義の下では、現政権の政策や思想に反対の立場の人も国民の支持があれば、選挙と議会と複数の政党間の競争を通じて国政を左右でき、場合によっては政権を交代させることもできる。民主政治は常に正しい決定をするとは限らないが、選挙民が仮に間違った選択をしてしまっても、次の選挙で政権を交代させることを通じて軌道修正することはできる。
また、世界各国の経験が示しているように、長期政権は必ず腐敗するものであり、中国共産党も決して例外ではない。腐敗防止のためにも、選挙で与党と野党の入れ替えの政権交代が可能である民主的政治システムを確立すべきである。
まだ見えない民主化への道筋
一方、「白書」は、一党独裁にこだわりながらも、政治改革の必要性を完全に否定しているわけではない。それによると、現在の中国では、「民主制度がまだ健全ではなく、社会主義市場経済の条件下で人民が主人公として国家と社会事務を管理し、経済と文化事業を管理するという権利がいくつかの面でまだ完全に実現されていない。法があってもそれによらず、法律執行が厳格でなく、違法行為を追及しない現象が依然として存在している。官僚主義、腐敗現象が一部の部門や地方で発生し、蔓延している。権力の行使を制約、監督する効果的なメカニズムのいっそうの整備と、社会全体の民主観念と法律意識の更なる向上が待たれる。公民の秩序だった政治参与がなお拡大する必要があるなどの克服、解決すべき問題を多く抱えていることをもはっきりと見てとれる。中国の民主政治建設はまだ長い道を歩まなければならず、これは絶えずに充実し、発展をつづける歴史的過程である」という。しかし、これから如何に民主化を進めていくのかになると、原則論に終始しており、具体性に欠けていると言わざるを得ない(注3)。
「白書」の狙いは、10月のラムズフェルド米国防長官の訪中に続き、11月にブッシュ米大統領が訪中するのを前に、米国の対中人権批判をかわすことであると見られる。しかし、共産党の一党独裁を前提とする「中国の特色のある民主主義」は、国際基準から判断して異質にしか見えず、このような説明はむしろ逆効果である。国際社会の理解を得るためには、民主主義の意味を歪曲してまで共産党の一党独裁を正当化することではなく、早急に政治改革へのロードマップを提示し、それを着実に実施することが求められる。
2005年11月15日掲載