中国経済新論:実事求是

石油危機を如何に乗り越えるか
― カギとなる省エネルギーへの取り組み ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

9月下旬に石油価格が一時1バレル50ドルを超え、史上最高の水準に達している。中国における需要の拡大がその一因とされる一方で、石油価格の高騰は逆に中国の経済成長を制約する要因になりかねない。第一次石油危機当時、日本は生産コストを削減するために、精力的に省エネルギーに取り組んで難局を乗り越えたが、今度は中国の番になる。省エネルギーの進展は、中国における環境問題の改善にもつながるだろう。

急速な工業化とモータリゼーションの進展を背景に、中国はすでに日本を抜いて、世界第二位の石油消費国になっている。国内需要が拡大するにつれて、石油輸出が減少する反面、輸入が急拡大してきた。中国は1993年に石油の純輸出国から純輸入国に転じ、その後も年々純輸入幅が拡大し続けている。2003年には原油と石油製品の輸入は計11936万トン(金額にして257億ドル)、輸出を引いた純輸入も10310万トンと1億トンの大台に乗った(図1)。その結果、石油貿易の赤字は昨年203億ドルに達し、今年は石油価格の一段の上昇も加わって、300億ドル(GDPの約2%)を上回ると予想される。

石油価格の上昇は、次の三つのルートを通じて中国経済に影響を及ぼす(図2)。まず、中国(で生産を行っている)企業にとって、生産コストの上昇を意味するため、物価が上昇する一方、生産は逆に低下する(供給曲線の左へのシフト)。また、主要輸出先である先進工業国も同じような影響を受けるため、それに伴う世界経済の減速により中国の輸出が減り、生産がいっそう落ち込むことになる(需要曲線の左へのシフト)。さらに、石油価格の上昇は中国の交易条件(輸出の輸入に対する相対価格)の悪化を意味し、その分だけ国民所得の購買力が落ちてしまう。年間石油純輸入が300億ドルであることを考えると、石油価格が10%上昇すれば、中国の輸入代金が余計30億ドル増える計算となる。これは中国から石油輸出国への所得移転に当たり、いずれ企業収益の減少と消費者物価の上昇という形で、国民の負担となる。

石油価格の上昇は「供給側のショック」という側面が強く、需要項目への影響を通じたマクロ政策よりも、供給側の対応が求められている。その中で、日本を始めとする多くの先進国の経験が示しているように、省エネルギーの推進がもっとも効果的である。エネルギーの生産性を高めることによって、生産コストが低下し、生産も増えることになる(供給曲線の右へのシフト)。もちろん、この取り組みにもコストがかかるが、石油価格が高くなればなるほど、省エネルギー投資の採算性が向上する。その上、第一次石油危機当時の日本と比べて、現在の中国はますます成熟した省エネルギーの技術をより安い価格で国際市場から調達できるはずである。

これまで、中国では、環境保全と経済発展は二者択一の関係にあると認識されて、実際、多くの発展途上国と同じように、「環境を犠牲にしても、経済発展を優先させる」という選択をしてきた。日本のように、工業化を遂げてから環境の改善に取り組んでも遅くないという「成功例」もあり、中国では、これまで十分な環境対策が採られてこなかった。しかし、効率の悪いエネルギーの大量消費は、大気汚染と資源の枯渇などの環境破壊をもたらすだけでなく、エネルギー価格が高騰する中で、コストの上昇を通じて、産業の国際競争力、ひいては経済成長にもマイナスの影響を与えているという認識が高まっている。実際、第一次石油危機以来の日本は省エネルギーの努力により、環境の改善と国際競争力の向上を両立できた(注)。これこそ中国が日本の経験から学ぶべき教訓であろう。

図1 中国の石油の輸出入の推移
図1 中国の石油の輸出入の推移
(注)原油と石油製品の合計
※2004年の数字は上半期の前年比に基づく予測
(出所)中華人民共和国海関統計
図2 石油価格上昇の中国経済への影響
図2 石油価格上昇の中国経済への影響
(出所)筆者作成

2004年10月1日掲載

脚注
  • ^ オイルショックを受けて、日本が置かれている状況と採るべき方策について、昭和49年度の『環境白書』には、次のように述べられている。「今回の「石油危機」を通じて、石油供給源を全面的に海外に依存する我が国は、あらゆる努力を払ってエネルギー使用の効率化を図っていかなければならないことを身をもって体験したが、同時にエネルギーの大量消費は今日までの我が国の環境汚染の大きな要因をなしてきたわけであり、その意味で、環境問題とエネルギー問題は、いわば「楯の両面」として同時に解決すべき問題であるといえる。このような観点から、今後、我が国が目指すべき方向は、無公害・省エネルギーの経済構造の達成であり、環境保全を前提としつつエネルギーの有効利用を国民経済のすみずみまで浸透させ、少ないエネルギーで高度の経済社会を成立させることである。」この分析はそのまま現在の中国にも当てはまる。

2004年10月1日掲載