中国経済新論:実事求是

自社ブランドの確立を目指す中国企業
― メイド・イン・チャイナの更なる飛躍につながるか ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

近年、中国は、世界の工場と呼ばれるほど工業化が進み、廉価な消費財を中心に中国製品が世界市場に溢れているようになった。しかし、中国のブランドは海外では殆ど知られていない。中国が「走出去」(出て行く)というスローガンを掲げ、企業の海外進出を奨励しているが、自前のブランドが確立できるかどうかが、その成否のカギとなる。

ブランドとは、ある企業の製品及びサービスを識別し、競合相手の製品及びサービスと差別化することを意図した名称、言葉、サイン、シンボル、デザイン、あるいはその組み合わせのことである。企業がブランドを通じて製品等に対する顧客の愛顧、信頼を獲得し、継続した顧客関係を維持できるようになると、顧客はもはや製品等の物理的または機能的側面よりも、ブランドを拠りどころにして製品等を購入する意思決定を行うようになり、その結果ブランドによる競争優位性がもたらされることになる。ブランドの競争優位性は、ノーブランド製品より高く売れるという価格の優位性、顧客が当該ブランド製品等を反復、継続して購入することで安定した販売数量の確保、そして海外を含む地理的展開、類似業種および異業種展開力等のブランド拡張力として具現化され、企業に現在および将来のキャッシュ・フローの増加をもたらす(注)

近年、中国企業の間でも、企業の競争力の源泉として、ブランドの重要性が広く認識されるようなってきた。これを背景に、「北京ブランド資産評価会社」が1995年以来、毎年「中国の最も価値のあるブランド」を発表している。2003年(同年12月5日発表)のトップ10はハイアール(家電)、紅塔山(タバコ)、五糧液(中国酒)、聯想(コンピュータ)、第一汽車(自動車)、TCL(家電)、長虹(家電)、美的(家電)、解放(自動車)、青島(ビール)となっている。しかし、これら中国を代表するブランドも、一歩も海外に出ると、全く通用しなくなるのが現状である。実際、米国のビジネスウィーク誌が毎年発表する世界トップ100のブランドのうち、上位のコーカコーラ、マイクロソフト、IBMをはじめとする米国のものは62、日本のものはトヨタ(11位)、ホンダ(18位)、ソニー(20位)、任天堂(32位)、キャノン(39位)、パナソニック(79位)、日産(89位)が含まれているが、中国のブランドは一つも入っていない(2003年8月4日発表)。

中国企業にとって、海外市場に参入するためには、ブランドの力に頼る必要がある。技術と同様、ブランドも自力で開発するか、それとも市場から調達するかという選択肢に直面している。後者と比べて、前者は巨額な投資を必要とする上に高いリスクを伴う。こうした考慮から、今のところ、大半の中国企業は、輸出に際してOEM(相手先ブランド生産)という形で、外国のブランドを「利用」せざるを得ない。その結果、多国籍企業のサプライチェーンに組み込まれても、安い労働力だけが「利用され」、僅かな加工料しか稼ぐことができない。その一方で、自社ブランドの確立を目指して海外に進出しようとする企業も現れ始めている。そのパイオニアとして、中国国内ですでに体力をつけてきたハイアールが、積極的に対外進出に取り組んでいる。その一環として、米国をはじめとする先進国に直接投資を行い、サンヨーなど多国籍企業と提携することに積極的に取り込む一方、ニューヨークの繁華街における不動産を購入し、東京銀座に大きなネオンサインの広告を出している。

NHKの「プロジェクトX」という人気テレビ番組にも取り上げられるように、60年代において、ソニーやホンダなど多くの日本企業が、欧米市場を開拓するときには、多くの苦労を経験した。努力を積み重ねた結果、「安かろう、悪かろう」という当時のメイド・イン・ジャパンのイメージを変え、自社ブランドを確立することに見事に成功した。今度は、中国企業の番になるが、これはメイド・イン・チャイナの更なる飛躍につながるかどうか、注目される。

2003年3月8日掲載

脚注
  • ^ 「ブランド価値評価研究会報告書」、経済産業省・経済産業政策局産業組織課、平成14年6月24日を参照。

2003年3月8日掲載