中国経済新論:実事求是

活気を呈する対中ビジネス
― 景気回復で収束に向かう中国脅威論 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

日本では、これまで、対中投資と中国からの輸入の拡大が国内経済のデフレを深刻化させ、産業の空洞化をもたらすと懸念されてきた。しかし、景気回復の基調が鮮明になり、しかも対中輸出の急増が景気を支える要因の一つになっていることから、一時猛威を振るっていた中国脅威論とそれを象徴する人民元切り上げ要求も収まりつつある。

失われた十年を経て、日本経済はようやく長い不況のトンネルから脱出し始めている。2003年第3四半期は実質成長率が前期比2.2%に達し、プラス成長はすでに7期連続となっている。景気回復に伴って、完全失業率が2003年年初の5.5%から9月には5.1%まで低下しており、企業収益も上向いている。

今回の景気拡大を牽引しているのは、民間設備投資と輸出である。中でも、対欧米の輸出が伸び悩む中で、堅調な対中輸出は、輸出全体の上昇に大きく寄与している。日本側の通関統計によると、対中輸出の伸び(ドルベース)は2003年1-9月期には43.9%(前年比)と急増しており、対中輸入の伸び(21.9%)を大きく上回っている。中国では投資拡大を中心に景気が上向いている中で、日本の得意分野である機械や化学製品などへの需要が高まっているのである。対中輸出の伸びが対中輸入の伸びを大幅に上回っていることを反映して、2002年来、これまで拡大し続けた対中貿易赤字が低下傾向に転じている。中国はすでに日本の最大の輸入相手国かつ米国に次ぐ第2位の輸出相手国となっている。

貿易に加え、日本の対中直接投資も増えている。中国側の統計によると、2003年1-9月期の日本の対中投資は実行ベースで36.7億ドルに達し、通年では2001年の43.5億ドルというこれまでの記録を更新する勢いである。すでに中国に進出している日系企業の事業展開も軌道に乗りつつある。国際協力銀行・開発金融研究所が行った『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告――2003年度 海外直接投資調査アンケート結果(第15回)』(2003年11月)によると、中国事業の評価は、生産設備の稼動本格化により、収益性満足度と売上高満足度がともに大幅に改善している。マーケットの今後の成長性と安価な労働力と部材・原材料などを理由に、調査対象企業(すでに海外現地法人を三つ以上有している製造業企業)のうち、93%が中国を中期的(今後3年程度)に見て有望な事業展開先国と考えており、その中で70.8%が中国において具体的な事業計画を持っている。

こうした中で、中国脅威論を象徴する人民元問題に対する世論も変調を示し始めている。「日本経済新聞社」が日本の主要企業を対象に9月上旬に行ったにアンケート調査(日本経済新聞、9月20日の付け)の結果によると、人民元の切り上げによる自社への影響について、マイナスと答える企業が全体の37%を占めており、プラスと答える企業(全体の16%)を大幅に上回っている(表)。確かに、人民元切り上げによって、一部の日本製品の国際競争力が高まり、中国市場のみならず、第三国市場においても売上の拡大が期待できるが、その反面、中国から製品や部品のアウトソーシング(自社の生産拠点からの調達を含めて)を行っている多くの企業が、中国製品の輸入価格の上昇に伴う生産コストの上昇を懸念しているのである。

このように、日中関係は競合的より補完的であることを反映して、日本にとって、中国の台頭は絶好のチャンスであり、また人民元の切り上げはメリットよりもデメリットの方が大きいというこの我々の一貫した主張が、ようやく広く理解されるようになったのである。

表 元切り上げによる自社への影響
プラス(16%)対中輸出の増加が見込まれるため
競合する中国製品の競争力低下
保有している人民元の価値が上がる
どちらとも言えない(47%)中国関連ビジネスの規模が小さい
対中輸出・輸入の金額が均衡している
為替変動を吸収しやすい
マイナス(37%)中国製品の輸入価格が上昇
中国の自社の生産拠点の競争力低下
日本人従業員のコストが割高になる
元高が中国国内の景気を冷やす可能性
(出所)日本経済新聞(2003年9月20日付)

2003年11月21日掲載

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