中国経済新論:実事求是

日中間の補完関係―その後

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

改革開放政策のもと90年代に目覚しい経済発展を遂げた中国は、2000年以降も7~8%の高成長率を維持し、2001年12月にはWTO(世界貿易機関)への加盟を果たした。2002年の中国の輸出総額は2000年より3割も増加し、2002年の直接投資受入額は世界第一位となった。こうして中国が経済発展を進めていくにつれ、中国企業が輸出競争力を強め、IT製品などの高付加価値製品をも輸出するようになってきており、日本企業の輸出競争力を脅かしているという中国脅威論が高まってきている。2000年の段階では、中国は低付加価値製品、日本は高付加価値製品に特化しており、両国は競合関係にあると言うよりは、補完関係にあることを我々はすでに指摘したが、両国の競合・補完関係は、2000年以降どのように変化しているのだろうか。ここでは、米国の2002年の輸入統計を用いて作成した、2000年以降の日中間の補完・競合関係における変化を検証する。

まず、分析の枠組みについて説明しておこう。製品をローテクからハイテクの順で左から右に並べると、日本と中国の輸出は、それぞれ一つの山として表すことができる。山の大きさは輸出規模に比例し、その位置が右に偏っているほど輸出構造の高度化が進んでいることを表している。この二つの山の重なる部分が日本の山全体に対して大きいほど、日本にとって、中国との競合性が強く、逆に小さいほど補完関係が強いことになる。時系列の観点から、両国間の競合・補完関係は、両国の輸出規模を表すそれぞれの分布の大きさと分布の位置の変化によって左右される。具体的に、日本から見た中国との競合度は、中国の輸出規模の拡大と産業高度化の進展によって上昇する一方、日本の輸出規模の拡大と産業高度化の進展によって低下する。

この枠組みに沿って、アメリカの中国と日本からの輸入データを用いて具体的に数字を当てはめてみると、米国市場において、日本にとって、中国と競合している製品の範囲は2000年の16.3%から2002年に20.5%に上昇していることが分かる(表、図)。競合度が高まったことは、主に中国の輸出規模が大きくなったのに対して、日本の輸出規模が縮小してしまったことを反映している。もっとも、現時点では、両国の輸出構造を表す分布の山は離れた所に位置しており、日本が高付加価値製品を輸出し、中国が中・低付加価値製品を輸出するという棲み分けははっきりしている。ハイテク(高付加価値)分野においては日中間の競合はほとんど見られず、日本が遙かに優位に立っているという従来のパターンには変わりがない。

しかしながら、中国の輸出構造分布が拡大したことに伴い、付加価値の高い製品の輸出も、次第にではあるが増大してきている。今後中国は、輸出構造分布をシフトさせ、より付加価値の高いものを輸出するようになるであろう。日本が今後、中国と競合関係にある中・低付加価値の産業保護を行うならば、日本国内の産業構造の高度化は進まず、中国と競合する部分はさらに大きくなるであろう。それは日本にとっても中国にとっても好ましい政策ではない。日本が自身と他国のために取るべき道は、後ろから追いかけてくるものをとどめようとすることではなく、さらに前へと道を切り開いていくことである。そうすることで日中間の補完関係は今後も維持され、お互いがお互いとの貿易から共に大きな便益を受けることができるであろう。

表 米国市場における日本と中国の競合度
表 米国市場における日本と中国の競合度
(出所)米国の輸入統計より算出(HS10桁分類、工業製品のみ約10,000品目を対象)
図 米国市場における製品全体の日中間の競合関係
図 米国市場における製品全体の日中間の競合関係
(出所)米国の輸入統計より作成

2003年9月12日掲載

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