目下流行している「中国脅威論」は中国がすでに巨大な工業力を持つ経済大国であり、広範囲にわたって両国製品が競合しているという認識に立っている。しかし、現実の世界ではこれが議論の前提条件として、必ずしも成り立たない。
最近の日中関係をめぐる議論は、次の図によって整理することができる(図1)。すなわち、もし産業をローテク産業からハイテク産業の順で並べることができれば、日中の輸出構造は、それぞれ一つの山のような形をとる分布として表すことができる。山の大きさは輸出規模に比例し、その位置が右に偏っているほど輸出構造の高度化が進んでいることを表している。この二つの山の重なる部分が日本の輸出全体に対して大きいほど、日本にとって、中国との競合性が強く、逆に小さいほど補完関係が強いことになる。
今のところ、日本の輸出規模が中国より大きく、その構造も中国より進んでいる点に関して異論はないであろう。しかし、中国の工業化の進展を反映して、中国の山は規模を拡大しながら、急ピッチで右にシフトしつつある。これに対して、日本の山は止まったままで、高度化の展望も開けていない。これを背景に、中国がすでに日本の手強い競争相手となっており、そう遠くない将来、日本の山はいずれ中国の山の裏に隠されてしまうであろうと、多くの日本人が懸念している。中国脅威論はこの恐怖感の現れに他ならない。
しかし、現状は、中国の輸出が伸びているとはいえ、その中身はいまだ労働集約型製品が中心で、日本との競合性は必ずしも高くない。これを確認するために、米国の輸入統計を使って、米国市場における日中両国の輸出品目の重なる度合いを調べてみた(図2)。これによると、米国市場において、日本と中国が競合している品目が拡大しているとはいえ、金額ベースでは、まだ16%前後に過ぎない(1990年には3%、1995年には8%)。
ここで得られた結果はあくまで日中間の輸出品目の重なる度合いを表すもので、より正確に両国間の競合の度合いを測るためには、次の二点も考慮しなければならない。まず、同じ商品に分類されても、多くの場合日本は高級品、中国は汎用品にそれぞれ特化している。例えば、テレビの場合、中国産の標準型と日本産のハイビジョンの単価は一桁も違う。また、日本と比べ、中国は中間財や部品の輸入依存度が非常に高い。中国の輸出に含まれる輸入コンテンツは50%前後と報告されているが、同比率はハイテク製品ほど高いと見られる。このように、日中間における本当の競合の度合いは先の推計で得られた16%をさらに大幅に下回ると見るべきであろう。しかも、両国の間に競合している業種は、もっぱら日本がもはや比較優位を持たない付加価値の低い衰退産業に限っているといっても過言ではないだろう。
競合関係がゼロ・サム・ゲームの世界であるとすると、補完関係はプラス・サム・ゲームを意味するはずである。日本は日中間の補完性を発揮すべく、国内の構造改革を恐れずに、自由貿易圏構想を含め、中国と分業体制を組むべきである。
2001年12月14日掲載