中国経済新論:実事求是

通商白書に描かれた対外開放を模索する日本の姿

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国が70年代末以来、改革開放を梃子に高成長を遂げているのに対して、日本では失われた十年を経てなお、回復の見通しが開けていない。これを受けて、日本においても、官民とも、経済の再活性化を目指して、国際化を梃に改革を加速させようとしている。これまで日本経済の国際化といえば、モノ、ヒト、カネが海外に流れることが中心だったが、近年、これらが国内へ流れる逆方向の「対外開放」の動きも活発化している。このほど発表された2003年度の『通商白書』では、対外開放を模索する日本の姿が焦点となっている。

まず、これまで低調であった対内直接投資が、近年、政府の奨励の対象となったこともあり、M&Aを中心に増えている。直接投資の流入が技術や経営ノウハウの導入、雇用創出やスキルの開発、競争の促進による生産性の上昇や消費者利益の拡大を通じて、日本経済の活性化につながることが期待されている。現に、白書で具体的に紹介されているように、フランスのルノーによる日産の買収をはじめ、大きな成果を収めつつある事例がたくさんある。しかし、日本の対内直接投資が近年増えているとは言え、残高ベースでGDPの1.2%に留まっており、米国の25%には遠く及ばない。その一方で、国内の不況が長引くなかで、一部の外資企業が、業務を縮小し、また日本から撤退する動きも見られることを考えると、まだ楽観的な見通しは立てにくい。

また、外国人労働者、特に専門的・技術的労働者の受け入れについても、白書では「経済活動の高度化に資するものであり、基本的には経済の活性化が図られる」と積極的姿勢が打ち出されている。しかし、現状では、対内直接投資と同様、労働力の受け入れに関しても、日本が先進諸国の中で、最も低い水準に留まっている。ITなどの先端分野においては、国内の人材不足を補うために、インドなど海外の人材を活用することも一案だが、いつまで経っても、旧態依然の大学が、新しい産業を支える人材を提供できていない(提供しようともしていない)現状を改めなければならない。米国では、留学生の受け入れを通じて、世界中から優秀な人材を獲得しているが、日本の大学は国際競争力が欠如しているため、国内の人材を育成する機能も、海外から人材を集めてくる機能も十分に発揮していない。

一方、対外直接投資に関して、白書では、米系企業に比べ、日系企業の収益率は大幅に下回っており、中でも、現地市場参入型投資の収益率が低くなっていると指摘されている。この原因は、日系企業には経営の現地化が遅れていることにより、優秀な人材が集まっていないことが大きいと見られる。実際、最近発表された中国の大学生を対象とするアンケート調査によると、外国企業の中で最も人気のある就職先として米系企業がその上位を独占し、トップテン入りを果たした日系企業は一社もない。研究開発といったハイテク分野や、マーケティングにおいて、人材が事業の成功のカギを握っているだけに、現地化の推進が日系企業にとって緊急の課題になっている。

このように、白書では対外開放の進展をアピールしようというスタンスが随所に見られるが、実際には一部の分野における変化の兆しが見えただけで、大きい成果を上げるには至っていない。日本経済全体の活性化を達成するためには、更なる対外開放と構造改革の加速の好循環を定着させなければならない。白書にも強調されるように、「東アジアビジネス圏」の構築を通じて、中国を始めとする近隣諸国の活力を活かすことは、その一つのきっかけとなろう。

2003年7月4日掲載

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