中国経済新論:実事求是

なぜ日本企業は人気がないのか

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国のWTO加盟を経て、日本の対中投資が急速に増えている。投資の目的は、中国の安い労働力を活かして輸出を拡大することから、現地市場へのアクセスと研究開発に広がりを見せている。このような投資の成否は、優秀な人材が集まってくるかどうかにかかっているが、残念ながら、この点については全く保証がない。

実際、中華英才網が最近、中国の大学生を対象に行った「就職先として最も人気の高い企業」に関するアンケート調査結果は、日本企業の不人気を端的に示している。これによると、上位50社の内、外資系企業が33社を占めているが、日本企業はソニー(第17位)、松下(第32位)、トヨタ(第46位)の三社だけである。外資企業に限ってみても、IBM、マイクロソフト、P&G、GE、モトローラをはじめ、米系が上位を独占しており、日本企業の中で首位となったソニーは韓国の三星電子の第8位にも及ばず、第11位に留まっている(表)。

同調査によると、大学生が就職を考える際、最も重要視している点は給料よりも発展の機会である。中国人にとって、日系企業が就職先として人気がない理由は、まさに、経営に携わる現地社員に出世の見込みがないという点にある。これは、経営の現地化において、日本企業が欧米企業に後れを取っていることを反映している。中国が単に輸出のための生産基地であれば、こうしたハンディは優れた生産管理システムでなんとかカバーできたが、これから、現地のマーケットへの参入の段階に入れば、市場開拓、売上金の回収など、本社からの派遣社員では到底こなせない仕事がどんどん増えていく。

現地化を推進するにあたり、日本と中国の双方の事情を理解できる留学生(いわゆる「NEC」 -- Nippon Educated Chinese)をもっと活かすべきである。しかし現状では、留学生の採用こそ増えているものの、仕事の内容は通訳や旅行の手配が中心で、実力を発揮できないままのケースがほとんどである。中国の経営者からよく耳にする話だが、中国企業が外国企業と商談する時に、相手側が米系企業の場合、全員中国語ができることが多いのに、日本企業の場合、中国語ができるのは常に一人しかいない――それは通訳のことであるという。また、現地の管理職のほとんどが本社から派遣され、しかも二、三年ごとに異動が行われる。その一方で、現地採用の中国人社員は大体課長止まりで、いつまでも出世できない。

こういう状況を改めようとする動きも一部には見られるようになったが、成功例がないから優秀な人材が集まってこない。そして優秀な人材が集まってこないから、社内には任せられる人材がいないという悪循環をいまだ断ち切ることができていない。その上、終身雇用、年功序列に特徴付けられる日本企業の人事制度は、中国人の目には、従来の国有企業の親方日の丸というシステムにしか映らず、能力主義を好む優秀な人材を確保しにくくなっている。このことも、本社派遣の日本人から現地の経営者に権限を委譲することを難しくしている。

日本企業は中国における人材戦略に関して、欧米企業から学ぶべきである。例えば、北京の中関村にあるマイクロソフトでは、北京大学や清華大学といった一流大学の学生用のコンピュータ・コーナーを用意し、彼らに無条件でアカウントを与えている。その後、その中から優秀な学生を絞り込み、奨学金を与えたり、海外留学をさせたりする。留学から戻ってきたら、マイクロソフトで仕事をさせ、いずれは幹部、所長、最終的には本社役員にも昇格させる。これはただ約束するだけではなく、すでに実行しており、成功例も数多く存在している。

これと比べて、日本企業ではまだ場当たり的な対応しか行われておらず、中長期の人材戦略に欠けていると言わざるを得ない。日本企業が中国市場において本気で勝負しようとするのなら、即急に「NEC」を軸とした経営の現地化を進めなければならない。

表 米国市場におけるアジア各国の中国との競合度
全体の順位外資のみ企業名
1ハイアール
21IBM
32マイクロソフト
4聯想
53P&G
64GE
75モトローラ
8華為
9中国移動通信
106シーメンス
11TCL
12中国電信
137インテル
148サムスン
159ノキア
1610ヒューレット・パッカード
1711ソニー
1812コカコーラ
1913デル
20中国聯通
2114ウォルマート
22中国銀行
2315Unilever
2416PricewaterhouseCoopers
2517HSBC
2618シティバンク
2719マッキンゼー
2820上海フォルクスワーゲン
2921ベル
30長虹集団
3122Cisco Systems
3223松下電器
33中国一汽
34万科集団
3524Nestle
36中興科技
3725LG電子
38中国石化
3926Shell
4027Amway
41中国人民銀行
4228ogilvy
4329ジョンソン&ジョンソン
4430フィリップス
45娃哈哈
4631トヨタ
4732BenQ
48神州数碼
4933Oracle
50海信集団
(出所)中華英才網によるアンケート調査

2003年4月2日掲載

2003年4月2日掲載