中国経済新論:実事求是

ビジネス・チャンスを意味する日中間の補完関係

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国の躍進は多くの日本人が脅威と受け止めているが、日中両国が競合関係よりも補完関係にあることを考えれば、日本にとって挑戦よりも機会になるはずである。ここでいう補完関係は、中国の強いところでは日本が弱く、逆に中国の弱いところでは日本が強いことを指す。中国の住宅や自動車、物流といった分野における市場の成長性や低賃金を反映した労働集約型製品における強い国際競争力は前者に当たり、技術力の遅れと環境問題の深刻化が後者に当たる。日本企業は、対中ビジネスを展開する際、中国の強みに目を奪われがちだが、自分の強みにももっと自信を持つべきである。

住宅・不動産業は今後、中国経済の柱になると期待されている。1998年に国による住宅の割り当て制度が廃止され、これにより国が国民に住宅を貸与する方式から、商品化した住宅を個人が自由に購入できる方式へと変わった。このことが高度経済成長や所得の上昇と重なり、個人の住宅取得需要を喚起した。すでにこの動きを見込んで日本の住宅関連メーカーの中国への参入も始まっている。銀行業務の対外開放も加わり、住宅ローンなどの分野での業務展開も注目されている。

もう一つ、注目を浴びている産業に自動車産業がある。個人所得の増大と高速道路網の整備を背景に、モータリゼーションが急ピッチで進んでいる。WTO加盟により自動車産業では、完成車の関税は2006年までに25%に引き下げられ、輸入数量制限も撤廃されることになる。自動車産業ではすでに今後の需要拡大を見込んだ中国への参入の動きが見られている。また、自動車の輸出や現地生産だけでなく、技術提供の他、高級車は日本で作り、大衆車は中国で作るといった形の提携も考えられる。その他、ローン、販売、保険、アフターサービスなど自動車から派生するビジネス・チャンスも見逃せない。

さらに、WTO加盟によって物流やサービス分野への参入も可能になる。出資規制、数量規制、および地域規制の撤廃によって今後中国において物流やコーディネーションの効率化が図られることになる。また、アフターサービスや関連業務にも進出が可能になる。

住宅や自動車、物流といった産業はこれまでに日本企業が一定の成功を収めてきた産業である一方で、中国ではその産業基盤は脆弱である。したがって今までの経験を応用することは有効な戦略となりうるであろう。他の産業においても、中国経済の台頭は、培ってきたビジネスのノウハウを活かして活動を行うチャンスとなる。

一方、一大消費市場としての魅力を高めているにもかかわらず、中国の賃金水準は未だに日本の30分の1という低水準に留まり、労働集約型製品の生産基地としての魅力も兼ね備えている。中国は農村部に膨大な余剰労働力を抱えているため、工業部門において労働力に対する需要が増えても、当面、賃金の上昇圧力が生じない。したがって、労働集約型製品の競争力は当面維持される。日本企業にとっては、消費市場とともに委託加工などの生産基地としての強みをも的確につかむことがビジネス・チャンスへとつながる。

今後、中国を生産基地として考えた場合、技術力の向上が課題となるだろう。中国は「世界の工場」と言われながら、世界で通用する自前の技術をほとんど持っておらず、開発能力も脆弱である。そのため、経済効率の改善や産業構造の高度化を達成する上で、海外からの技術導入は欠かせない。日中間の発展段階における依然として大きな格差を反映して、日本にとってはすでに陳腐化した技術であっても、中国にとっては重要な技術となりうる。

また、かつての日本のように中国も深刻な環境問題に悩まされている。これは国内の問題だけではなく、酸性雨のように国境を越えて日本への悪影響を及ぼすものも含まれる。こうしたことから、日本政府の対中ODAも従来のインフラ投資より、環境対策に傾斜するようになった。日本企業にとって、環境ビジネスは、まさにこれまで蓄積してきた経験と技術を最大限に生かせる分野の一つである。

日本と中国間の潜在的補完性を発揮するためには、両国がFTA構築などを通じてモノ、ヒト、カネの流れを妨げている規制を撤廃しなければならない。日中経済の一体化は、中国の一層の経済発展を促すだけでなく、日本経済の復活に向けた起爆剤ともなろう。

2003年3月14日掲載

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