中国経済新論:実事求是

中国の台頭をビジネス・チャンスとして捉えよ

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

多くの日本企業は、中国の生産力の拡大を脅威として感じているが、その市場としての魅力は感じないと嘆く。GDPの三面等価に示されているように、中国に限らず、どこの国でも、本来生産が拡大すれば、その分だけ所得と支出も増えるはずである。しかも、日中両国の間では補完性が高く、日本は中国市場へ参入するに当たり、有利な立場にあるはずである。儲かっている企業は黙り、損している企業が大きい声を出すという情報面のバイアスが、悲観論を増幅させている面もあるであろうが、中国の市場拡大のペースが本当に生産の伸びに及んでいないのであれば、それに対して次の3つの理由が考えられる。

まず、中国における生産のうち、外資系企業のシェアと収益率がともに高く、これを反映して、中国のGNPがGDPを大幅に下回っている。外資系企業に支払う配当金などは中国人の所得にはならず、その大半は海外に送金されるため、経済成長は国内需要の拡大につながらない。この場合、中国は、日系企業を含め外国企業にとって、市場としてではなく、輸出のための生産基地として魅力的である。もし欧米企業の中国での事業展開が順調に進んでいるのに、日本企業だけが上手くいっていないのであれば、従来の経営戦略を見直さなければならない。

第二に、中国は国全体(家計、企業、政府)として、貯蓄率が高く、支出が所得を大幅に下回っている。その差額は、財の需要ではなく、主に通貨当局の外貨準備の増加という形で海外の資産に向かうことになる。この場合、日本は、その資金の受け皿となり、中国の通貨当局に日本の国債を買ってもらうことをお勧めする。残念ながら、こうしたチャイナ・マネーの大半は米国債市場に流れてしまい、日本はほとんど投資の対象になっていない。

第三に、中国が輸出を拡大させればさせるほど、交易条件は悪化してしまう。輸出の量が増えれば増えるほど、輸出価格が下がり、交換できる輸入の量はどんどん下がっていき、一種の豊作貧乏という状況に陥ってしまっている。これを反映して、人民元が益々弱まり、ドル換算で見て国民の所得が生産量ほど増えないのである。この場合、日本は中国から安い製品・中間財を輸入することが可能であり、消費者はよいものを安く入手し、企業もコストを削減することができるのである。残念ながら、中国からの輸入の急増に対して、一部の国内産業を保護するために、輸入制限を求める声が高まってしまっている。

このように、仮に中国の市場が生産ほど伸びていなくても、日本企業にとって、中国の経済成長を活かす方法は多く存在しているはずである。今のところ、OEMなどを通じて中国で生産を行い、その製品を日本に逆輸入する形態は比較的順調であるが、日本の対中投資が依然として低水準に止まっているなど、両国間の補完性が十分に活かされているとは言えない。

これに対し欧米では、中国経済の台頭を脅威というよりも積極的にビジネス・チャンスとして捉え、成功を収める企業が続出している。実際、中国での外資系企業の売上ランキングを見ても、欧米企業が上位をほぼ独占しており、トップ10に入っている日系企業は一社もない。主要な業種のリーディング企業を見ても、自動車ではドイツのフォルクスワーゲンが独走し、携帯電話ではモトローラ(米国)やノキア(フィンランド)、エリクソン(スウェーデン)というように、欧米企業の活躍が目立ち、日系企業の影は非常に薄い。エレクトロニクスにおいても中国企業の台頭が著しく、日系企業のシェアは下がっている。このように、日本が心配すべき事は、対中投資が増えれば国内産業が空洞化してしまうということではなく、日系企業が成長する中国市場の蚊帳の外に置かれてしまうことである。

2002年5月31日掲載

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