中国経済新論:実事求是

幻想にすぎない連休の景気浮揚効果
― ラッファー曲線から学ぶべき教訓 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国では間もなく旧正月を迎えようとしている。この旧正月を含めて中国は年に三回も大型連休を導入し、中国人の年間休日数は今や先進国の水準に達している。当局は、連休による内需の拡大、さらにはその景気浮揚効果を期待しているようである。しかし、供給側への影響に着目すると、連休に象徴されるような労働時間の短縮は、中国の経済発展にとってマイナスであることは明らかである。こうした主旨の小論文を、昨年、国慶節の連休前に当たる9月26日付けの「中華工商時報」で発表したところ、大きな反響を呼んだ。中でも、労働者を休ませれば生産性が高まり、逆に生産量が増えるのではという反論が多かった。そのロジックは、80年代の初めに米国のレーガン政権が実施した減税政策の理論的根拠となった「ラッファー曲線」と類似している。また、同じように政策を誤らせる危険性も秘めているのである。

ラッファー曲線は、横軸に税率、縦軸に税収をとって図に表したもので、山のような形状をしている(図1)。つまり、政府が税収を増やすために税率を上げていくと、ある一定の率までは税収が増加するのであるが、それ以上になると、経済主体は所得の多くを税金として取られてしまうため、一生懸命に働こうとするインセンティブを失ってしまうのである。その結果、生産、ひいては所得が低下し、逆に税収が減少してしまうのである。最悪の場合、税率が100%になれば、働く人は一人もいなくなり、税収もゼロになる。このように、ラッファー曲線の右側に相当する高い税率という状況下では、逆に税率を下げることによって税収を増やすことは理論的にはあり得るのである。

図1 ラッファー曲線
図1 ラッファー曲線

労働時間と生産量の関係も同様の曲線で表すことができると考えられる(図2)。労働時間を増やせば増やすほど、ある一定水準までは生産量が増加するのであるが、それ以上になると、働き過ぎることによって生産性が低下してしまい、逆に生産量が減少すると考えられるのである。極端な例として、長時間労働によって「過労死」が起きると、生産量はゼロになってしまうのである。

したがって、労働時間を短縮することの生産性に対する効果は、対象国が曲線の左側にあるか、それとも右側にあるかによって対照的になる。前者の場合、労働時間を減らせば生産量も減るが、後者の場合、生産量が逆に増えることになる。中国は、すでに週休二日制が定着しているなど、休日の多い国になっていることを考えれば、現状として曲線の右よりも左側にあると考えた方が自然であろう。その場合、連休による労働時間の短縮は、生産、ひいては所得の低下をも意味するため、需要の拡大につながるかどうかは疑問である。仮に需要が増えても、各家計は貯蓄を取り崩すか、さもなければ借金をしてその資金を賄わなければならない。

図2 労働時間と生産量の関係
図2 労働時間と生産量の関係

1980年代前半、米国のレーガン政権は、当時の税率と税収の関係がラッファー曲線の右側に相当すると誤認して減税に踏み切った。その結果、本来の意図に反し、税収は増えるどころかむしろ大幅に減少し、財政赤字が急拡大し、高金利と対外債務の累積を招いてしまったのである。この経験が示しているように、誤った状況判断に基づいて政策を策定すると、非常に高いコストを伴うことになる。中国はまだ発展途上にあり、後発性のメリットを活かすことができれば、生産性を大きく伸ばす余地があることは確かである。しかし、これは労働時間の短縮ではなく、最終的には教育やインフラ、研究開発に投資するなど、供給側の強化策を通じて初めて達成できるものである。経済を発展させていくためにも、国民の一人一人が努力を重ねていく以外に道はなく、「不労而獲」という甘い考え方を捨てるべきである。

2003年1月30日掲載

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