中国経済新論:実事求是

中国の経済発展のためにならない大型連休の導入

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国では、終わったばかりのメーデーに加え、旧正月と10月の国慶節を合わせると、実に年三回もそれぞれ一週間にわたる大型連休がある。1995年に導入された週休二日制を合わせると、中国人の年間の休日数はすでに先進国並みの水準に達している。休日を増やす目的は、国民生活の質を向上させる一方、娯楽など消費の拡大を通じて、景気を刺激するという「假日経済」の効果である。しかし、当局の意図に反して、大型連休の導入は生産の拡大に結びつくとは思えない。

需要さえ増やせば、景気が良くなるという考え方は、ケインズの「有効需要説」に基づくものである。これは30年代における世界大恐慌のように供給側が景気拡大の制約にならないという前提に立っているが、「假日経済」を考えるときに、この条件は明らかに満たされていない。休日が多くなることは年間の労働時間の短縮を意味する。その結果、国民生産、ひいては国民所得は増えるどころか、むしろ減ってしまうのである。経済全体のパイが小さくなるので、そのツケは労働者または企業のどちらかに回されることになる。

労働者に回される場合、家計の給料が減ることを意味し、消費にマイナスの影響を及ぼすであろう。確かに、連休になれば、人々は旅行に出かけたり、外食したり、ショッピングを楽しんだりするので、一時的には消費が拡大し、特に、観光や、交通、小売といった一部の業種はその恩恵を受けるだろう。しかし、給料が減る以上、休暇中の消費が一時的に増えても、平時の消費が抑えられる可能性が高く、年間を通した消費はむしろ減少しかねない。一方、無理して消費を増やそうとすると、これまで蓄えた貯金を崩すか、新たに借金するかのどちらかしか方法がなく、家計の収支が益々厳しくなってしまうのである(注)

一方、給料が下がらない代わりに、企業の利潤が減る場合は投資が抑制されるであろう。その上、労働時間が減っているのに、給料が下がらないことは、時給でみた労働コストが上昇することを意味し、企業の国際競争力にも響いてくることになる。

このように、休暇が増えることは直接に労働力の投入量の減少を意味する上、家計貯蓄や企業収益を減らすことを通じて、投資、ひいては資本形成をも抑える。その結果、現在の生産が落ち込むだけでなく、国と企業の将来の成長性も損なわれることになる。

確かに先進国には休暇が多いが、休暇さえ増やせば、簡単に先進国になれると誤解しては困る。そもそも、経済発展は「先苦後楽」の過程であり、努力もせずに先進国の仲間入りを果たすことはありえない。「先楽」を求める風潮を助長する「假日経済」は、「後苦」をもたらし、経済発展の妨げになりかねないものである。中国はまだ一人当たりGDPが1000ドル未満の発展途上国である。これを考えれば、今求められていることは、労働時間を短縮し、消費を刺激することではなく、国民ひとりひとりが一生懸命に働き、将来の消費拡大のために現在の貯蓄を増やすことである。

2002年5月10日掲載

脚注
  • ^ マクロ的に捉えると、生産が増えない中で、連休中の消費の拡大は一時的には在庫の減少をもたらし、最終的には海外からの(純)輸入の拡大によって賄われなければならない。これは貿易収支の赤字の拡大(または黒字の減少)、ひいては対外債務の増加(対外資産の減少)をもたらすことになる。

2002年5月10日掲載