中国経済新論:実事求是

回避されたセーフガードの本発動
― 「中国脅威論」の収束につながるか ―

関志雄
経済産業研究所 上席研究員

2001年4月、日本がネギなど農産物3品目に対してセーフガードの暫定措置を発動した。その対抗措置として、中国政府は6月22日より、日本の自動車、携帯電話、クーラーに対して100%の特別関税を課した。貿易摩擦がエスカレートするにつれて、日本では「中国脅威論」が新聞の紙面を賑わせる一方、中国では日中関係における世論が時には歴史問題と結びつき日本の「挑発」に対する批判が絶えない。その間、双方の対話による事態の打開が図られたが、それぞれの国内における利害関係の対立もあって、解決の糸口がなかなか見つからなかった。困難を極める交渉の末、12月21日に、対象となる農産物3品目の生産枠を決める貿易協議会の設立を条件に、日本がセーフガードの正式発動を見送り、中国が日本製自動車などに課した報復関税を解除することで合意した。生産枠を如何に設定するかなど、未解決の問題が残ってはいるものの、双方の自制によって、日中貿易摩擦の第一ラウンドは峠を超えたと見ていいだろう。

これと時を前後して、日中両国のマスコミにおける相手国に関する論調が微妙な変化を見せ始めている。

まず「人民日報」には、中国社会科学院日本研究所の張舒英氏による「日本経済を全面的に評価しよう」という論文が発表された(12月10日)。同論文は、日本経済は深刻な危機に直面しているが、世界第二位の経済大国である地位が根本から揺らぐものではないと、その実力を認めた上で、国民の勤勉さや豊富な資金、さらに非常に強い科学技術のR&D能力といった潜在性を発揮すれば、日本経済の回復が十分可能であるという楽観的見通しを示している。このような論調は、自信喪失に陥っている日本人から見ると、「誉め殺し」に映るかもしれないが、人民日報は中国政府の公式見解を代弁する新聞であるだけに、論文の行間から、国民の自信過剰に歯止めをかけるとともに対日関係改善のための世論形成を狙うという当局の意図が伺われる。

張氏の論文が中国で話題を呼び、各人気サイトに相次いで引用されたのとほぼ同時に、日本では、日本経済新聞の「経済教室」での連載シリーズ「中国と競う」の中で、これまでの「中国脅威論」と一線を画す形で、中国と対立するのではなく、共存共栄の道を探るべきであるという積極的姿勢が打ち出されている。特に、最終号(12月25日)における「今、必要なのは短絡的な中国脅威論ではなく、両国産業の相互関係を客観的に見つめ直すことである」という指摘は我々の主張と一致している。

日中間の経済関係が深まるにつれて、摩擦が生じる場面もその分だけ多くなってくるであろう。両国は、摩擦を避けながら補完関係を発揮するために、互いに不健全な民族感情を乗り越えて、自分と相手の実力と立場を冷静に見極めることが益々重要になってくる。今回のセーフガード問題の決着とそれに伴う両国における世論の変化がそのきっかけになることを祈る。

2001年12月28日掲載

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