日中関係が深まる中で、中国の動向が日本の景気を考える上でも重要なファクターであるという認識が高まっている。中でも、両国間の貿易と直接投資に大きく影響する人民元の行方が注目されている。面白いことに、ついこの間まで主流だった人民元の切り下げ観測が切り上げ待望論に取って代わられている。
人民元レートを見通す時には、対外収支の動向がもっとも重要である。中国の輸出が減速しているものの、好調な直接投資の流入を反映して、人民元の切り上げ圧力が高まっている。しかし、対ドル上昇が現実のものになるには、世界経済の回復が前提である。
ところが、足元のマイナス面として、先進国の景気の悪化に伴い、輸出の伸びの鈍化が顕著になっており、貿易黒字が縮小している。ドルベースで見た通関輸出は、2000年前半には前年比40%近い伸びを示していたが、2001年第2、第3四半期には、5%を下回る伸び率に鈍化している。これを受けて、貿易黒字額は、2001年1-9月の間に、前年比56億米ドルも減少している。日本や欧州諸国に加え、テロ事件以降、米国経済の低迷が一段と深刻化しているため、今後も短期的には、輸出、ひいては貿易黒字の回復は難しいと見られる。
逆にプラス面では、WTO加盟を契機として、中国への海外直接投資の流入が今後も増加を続けると予想される。アジア通貨危機の影響を受けて、中国への直接投資実行額(ドルベース)の伸びは、1998年に大きく鈍化し、1999年にはマイナスに転じていた。しかし、2000年の終わりから回復に転じ、2001年第2、第3四半期には前年比30%近い伸びを示している。
貿易収支が元々黒字であることに加え、資本収支の黒字の拡大を反映して、中国の外貨準備は増え続け、2000億ドルを突破するに至っている。国際収支黒字の増大は為替上昇圧力につながると考えられる。ただし、輸出業者からの抵抗を避けるために、現実に元レートが上昇する時期については、世界経済の回復に伴い、中国の輸出が回復に向かう時期になるものと予想される。
そのとき、人民元の大幅な平価変更よりも、規制されている相場の変動幅を段階的に広げる形で、管理変動制に移行すると予想される。こうした為替制度の変更を考えるときに、国際金融の三位一体の原則を考慮しなければならない。すなわち、どんな国においても、マクロ経済運営に当たって、自由な資本移動、為替の安定、金融政策の独立の3つは同時に達成できない。これまで中国は、自由な資本移動を放棄する代りに、実質上のドルペッグという固定相場制と金融政策の独立性を堅持してきた。今後仮に資本移動の自由化が進めば、金融政策の独立性を保つために、ドルペッグから、ある程度の為替レートの変動を認める必要がある。
ここで注意すべき点は、WTO加盟は中国に対して、銀行、証券、保険といった金融サービスの自由化が義務付けられているが、必ずしも資本移動の自由化を求めるものではないということである。勿論、参入してくる外国金融機関は、外為業務の自由化を求めてくるだろう。しかし、アジア通貨危機の教訓から、国内の金融システムが脆弱である場合、投機の対象となりやすいと考えられる。中国では、四大銀行の不良債権問題が未解決のままとなっている。国内金融システムに不安材料を抱える中では、資本移動の規制を本格的に自由化することを急ぐべきではないことは当局も分かっているはずである。そのため、資本の自由化を義務とする中国のOECDへの加盟はまだ時期尚早であろう。
2001年11月22日掲載