中国経済新論:中国の産業と企業

中国におけるプラットフォーム業界の独占的行為に対する規制強化
― アリババへの取締りを中心に ―

関志雄
経済産業研究所

Ⅰ.はじめに

アリババやテンセントといったオンライン・プラットフォーム企業(以下、プラットフォーム企業)に牽引され、中国におけるデジタル経済が急成長してきた。しかし、これらの企業が巨大化するにつれて、消費者の利益が損なわれるなど、独占に伴う弊害も現れている。市場の健全化を目指して、中国政府は、オンライン・プラットフォーム業界(以下、プラットフォーム業界)における独占的行為への規制を強化している。これを象徴するように、2021年2月に「プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドライン」が公布・施行されたことに続き、同年4月に当局は、電子商取引の最大のプラットフォーム企業であるアリババに対して、市場における支配的地位の濫用を理由に、行政処罰の一環として巨額の罰金を科した。

Ⅱ.規制が強化された背景

近年、中国におけるプラットフォーム業界は急成長し、新しい業態、新しいビジネスモデルが次々と現れた。これは経済発展を促進し、国民の生活水準の向上に寄与している。しかし、その一方で、創業時は一つの分野からスタートしたプラットフォーム企業が、技術、データ、インフラの優位性を利用して、徐々にいくつかの分野を跨ぐエコシステムを形成し、市場における支配力を強めている。

プラットフォーム業界の健全な発展は、公平な競争の環境を前提としている。しかし、巨大になったプラットフォーム企業は、その市場における支配的地位を濫用する独占的行為を行いかねない。それにより、関連市場の競争が排除・制限され、プラットフォーム内の事業者と消費者の利益が損なわれることが懸念される。これを背景に、世界各国で、Google、Apple、Facebook、Amazonといった巨大なプラットフォーム企業に対する規制を強化する機運が高まっている。

中国においても、政府は、2019年以降、プラットフォーム業界における独占的行為に対して断固として反対するスタンスを鮮明にしてきており、一連の対策を講じている(図表1)。特に、2020年12月16日に開催された中央経済工作会議において、大型プラットフォーム企業を念頭に、「独占禁止の強化と資本の無秩序な拡張の防止」を2021年の八つの重点課題の一つとして掲げた。

図表1 中国のプラットフォーム業界における独占禁止を巡る動き
・2019年8月8日
「国務院弁公庁によるプラットフォーム経済の規範的かつ健全な発展の促進に関する指導意見」が公布され、その中で、国家市場監督管理総局がプラットフォーム業界における公平な市場競争の維持の責任を持つと定められている。
・2020年1月2日
「独占禁止法改正案(意見募集稿)」が公布され、その中にインターネット事業者の市場における支配的地位の認定に関する規定が追加された。
・2020年11月10日
国務院独占禁止委員会は「プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドライン(意見募集稿)」を公表した。
・2020年12月14日
国家市場監督管理総局は、企業連結の申告を怠ったとして、アリババ傘下のアリババ投資、テンセント傘下の閲文集団など3社に対し、それぞれ(「独占禁止法」で定められている最高額である)50万元の罰金を科した。
・2020年12月16日
中央経済工作会議は、大型プラットフォーム企業を念頭に、「独占禁止の強化と資本の無秩序な拡張の防止」を、2021年の八つの重点課題の一つとして掲げた。
・2020年12月24日
国家市場監督管理総局は、「二者択一」などの独占的行為の疑いで、アリババへの調査に着手したと発表した。
・2021年2月7日
「プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドライン」が正式に公布・施行された。
・2021年3月12日
国家市場監督管理総局は、テンセント、バイドゥを含む12社のプラットフォーム企業に対して、企業連結の10の案件について、申告を怠ったとして、それぞれ50万元の罰金を科した。
・2021年4月10日
国家市場監督管理総局は、アリババの「二者択一」という独占的行為に対し、182億2,800万元の罰金を科した。
・2021年4月13日
国家市場監督管理総局などは、アリババとテンセントをはじめとする大手プラットフォーム企業34社を集め、行政指導の会議を開いた。
・2021年4月26日
国家市場監督管理総局は、「二者択一」などの独占的行為の疑いで、美団への調査に着手したと発表した。
・2021年4月30日
国家市場監督管理総局は、テンセントなど、11社に対して、インターネット分野における企業結合の9つの案件について、申告を怠ったとして、それぞれ一件につき、50万元の罰金を科した。
(出所)各種資料より筆者作成

中国において、企業の独占的行為への規制に法的根拠を与えているのは「中華人民共和国独占禁止法」(2007年8月30日に公布、2008年8月1日施行、以下、「独占禁止法」)である。同法はプラットフォーム企業にも適用されるが、プラットフォーム業界のビジネスモデルとエコシステムが複雑である上、関連する分野が広範囲に及ぶという特徴に鑑み、同業界において「独占禁止法」を執行する際の原則をより明確化する必要がある。そのため、国務院独占禁止委員会は2020年11月10日に「プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)の意見募集稿を公表し、その最終版を2021年2月7日に正式に公布・施行した。

Ⅲ.「プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドライン」の施行

「独占禁止法」に合わせる形で、「ガイドライン」では、規制すべき独占的行為として、「独占合意」、「市場における支配的地位の濫用」、競争の排除・制限につながりかねない「企業結合」が挙げられている。それぞれの要旨は次のようにまとめられる。

1.独占合意

独占合意とは、競争を排除もしくは制限する合意、決定またはその他の協調行為のことである。「ガイドライン」は、「独占禁止法」に盛り込まれている従来の「水平型独占合意」と「垂直型独占合意」に加え、新たに「ハブ・アンド・スポーク型独占合意」に対する規制の方針についても説明している。

水平型独占合意とは、競合関係にあるプラットフォーム企業同士、またはプラットフォーム内の事業者同士が、価格の固定、市場の分割、生産販売量の制限、新技術の制限、取引拒絶などの合意を持つことである。

垂直型独占合意とは、事業者と取引先の間で締結される独占的協定のことである。その典型例として、プラットフォーム企業とプラットフォーム内の事業者の間で結ばれる再販価格の維持に関する合意や、プラットフォーム企業がプラットフォーム内の事業者に対し、商品の価格や数量などについて競合他社のプラットフォームと同等またはより有利な取引条件を提供することを要求する行為が挙げられる。後者は、垂直型独占合意だけでなく、市場における支配的地位の濫用にも該当する可能性がある。

ハブ・アンド・スポーク型独占合意とは、プラットフォーム内の競合関係にある事業者同士が、それぞれと垂直関係にあるプラットフォーム企業による協調などを通じて、水平型独占合意と同じ効果を持つ合意に達することである。水平型と垂直型独占合意の双方の要素を持つハブ・アンド・スポーク型独占合意は、プラットフォーム業界の特徴を反映したものであると言える。

また、プラットフォーム業界において、ある合意が「独占禁止法」で規制されている独占合意に当たるかどうかを判断する際に、事業者の間で書面や口頭といった明確な合意が結ばれているかだけでなく、技術、データ、アルゴリズム、プラットフォーム規則などを利用し、合意に至る可能性も考慮すべきであるという。

2.市場における支配的地位の濫用

「独占禁止法」では、「市場において支配的地位を有する事業者は、その市場支配的地位を濫用して、競争の排除または制限をしてはならない」(第六条)と定められている。これについて、「ガイドライン」は、プラットフォーム企業の市場における支配的地位の認定方法と、同業界でよく見られる市場における支配的地位の濫用のパターンを示している。

まず、プラットフォーム業界での市場における支配的地位の濫用を認定する際に、「独占禁止法」の第三章と「市場における支配的地位の濫用を禁止する暫定規定」(国家市場監督管理総局、2019年6月26日公布、2019年9月1日施行)を適用する。一般的には、関連市場を定め、事業者が関連市場で支配的な地位にあるかどうかを分析した上、それを濫用しているかどうかを事案別に分析するという手順に従う。

また、事業者のマーケットシェア、関連市場における競争状況、事業者が市場をコントロールする能力、事業者の資金力と技術力、他の事業者の当該事業者に対する取引依存度、他の事業者による関連市場への参入の難易度といった観点から、事業者が市場における支配的地位を有しているかを認定、推定することができる。

さらに、市場における支配的地位を濫用する具体例として、「不公平な価格設定行為」、「コストを下回る廉価販売」、「取引の拒否」、「取引の制限」、「商品の抱き合わせ販売、または不合理な取引条件の付加」、「差別的待遇」などが挙げられる。プラットフォーム企業が取引先に対し競合他社のプラットフォームで出店などをしないように迫る「二者択一」と、「ビッグデータを用いた新旧ユーザー間の差別的待遇」は、それぞれ「取引の制限」と「差別的待遇」に該当しうるという。

3.企業結合

「独占禁止法」によると、企業結合とは、①合併、②株式または資産の取得による他の事業者の支配権の取得、③契約などによる他の事業者の支配権の取得、または他の事業者に対して決定的な影響を与え得るようになることとされる(第二十条)。競争の排除・制限につながりかねない企業結合及びその可能性のある企業結合については、国務院独占禁止法執行機関によって、当該結合を禁止する決定が行われる(第二十八条)。企業結合が国務院の定める届出基準に達する場合、事業者は国務院独占禁止法執行機関に事前に届出を行わなければならない(第二十一条)(注1)。「ガイドライン」は、プラットフォーム業界が関わる企業結合の届出基準と審査基準に、同業界の特徴を、以下のように明確に反映させるべきだとしている。

まず、ある企業結合が届出基準に達しているかどうかを判断する際に、ビジネスモデルによって、プラットフォーム企業を分類し、タイプ毎に異なる売上高の計算方法を採用すべきである。

また、これまで「グレーゾーン」となっていたVIE(Variable Interest Entity=変動持分事業体)スキームによる企業結合も、審査対象になりうる。VIEスキームは、事実上の出資者が、株式の保有ではなく、各種の契約で運営企業を支配する仕組みである。主に中国企業が海外で上場や資金調達を行うために、または、外国人投資家が中国国内の外資参入規制を回避するために利用されている。実際、アリババ、テンセント、バイドゥをはじめとする多くのプラットフォーム企業はVIEスキームを採用している。これらの企業が関わる多くの企業結合の案件は、取引金額が大きいため、独占につながる可能性がある。

さらに、ベンチャー企業に関わる案件を念頭に、関連市場における集中度が高く、かつ競争者が少ない場合、届出基準を満たしていなくても、市場競争を排除または制限する恐れがある場合、審査の対象となる。

そして、プラットフォーム業界に関わる企業結合について独占禁止審査を行う際には、当事者のマーケットシェアと市場をコントロールする能力や、企業結合による市場参入への影響などにおいて、他の業界と異なるプラットフォーム業界の特徴を十分に考慮しなければならない。

最後に、条件付きの企業結合の承認については、当局は、当該企業に対して、資産の分離などの「構造的措置」と、ネットワーク、データ、プラットフォームの開放などの「行動的措置」の実施を求めることができるという。

Ⅳ.巨額の罰金が科されたアリババ

プラットフォーム業界における独占的行為への規制強化を象徴するように、独占禁止法執行機関である国家市場監督管理総局(以下、当局)は、2021年4月10日に、アリババが「二者択一」という独占的行為を行っていたとして、同社に対して、「行政処罰決定書」を交付し、巨額の罰金を含む行政処罰を科すと発表した。これは、当局が2020年12月に始まった調査を通じて、アリババの市場における支配的地位とその濫用を認定したことを踏まえて取った措置である。「行政処罰決定書」で下した多くの判断は、「ガイドライン」で提示された基準に基づいたものである。

1.市場における支配的地位の認定

当局は、「行政処罰決定書」の中で、「独占禁止法」第十八条、第十九条の規定に基づき、アリババが中国国内のオンライン小売プラットフォーム(以下、小売プラットフォーム)業界において支配的な地位を有していると認定している。その根拠として、次の項目を挙げている。 第一に、関連市場の集中度が高く、その中でアリババのマーケットシェアは50%を超えている。2019年、アリババは、小売プラットフォームの売上が中国国内の同業のトップ10社の合計の71.17%、商品取引額が中国国内の小売プラットフォーム全体の61.83%を占めた。

第二に、アリババはマーケットシェアが高いことに加え、プラットフォーム内の各事業者へのアクセス数を制御することもできるため、手数料など、取引の条件交渉において、強い立場にある。その上、アリババのプラットフォームは、強いネットワーク効果とロックイン効果を有していることから、プラットフォーム内の事業者にとって、他のプラットフォームに移行するコストが高い。

第三に、アリババは小売プラットフォーム業界のパイオニアとして、大量のプラットフォーム内の事業者と消費者、大量の取引・物流・支払いなどのデータを持っている。その上、同社は先進的なアルゴリズムを持ち、データ処理技術を通じてカスタマイズされた検索結果を提供し、消費者のニーズに的確に応えることができる。

第四に、アリババは、プラットフォームや、物流システム、支払システム、データシステムなどを構築するために、膨大な資金を投入してきた。それによって形成されたエコシステムとブランド力は、同社の市場の支配力をさらに強化している一方で、他の事業者にとって新規参入の妨げとなっている。

2.市場における支配的地位を濫用する行為の認定

当局がアリババに交付した「行政処罰決定書」によると、同社は、2015年以来、競合他社のプラットフォームの発展を制限し、市場における支配的地位を維持・強化するため、中国国内の小売プラットフォーム業界において、「二者択一」という独占的行為を行った。

具体的に、アリババは、規模が大きく、有名ブランドを取り扱うなど、集客力の強い一部の事業者に対して、他のプラットフォームでの出店と販売促進キャンペーンへの参加をしないように、契約を通じて約束させたり、口頭で要求したりした。これに応じる事業者と応じない事業者を区別し、それぞれに対して、検索の順位や販売促進キャンペーンにおける支援などにおいて、優遇措置と差別措置を取った。

これらの行為は、「正当な理由なく、取引先が自己との間でのみ取引するよう制限し、またはその指定した事業者との間でのみ取引するよう制限すること」を禁止するという「独占禁止法」第十七条第一項第四号の規定に違反し、市場における支配的地位の濫用行為に当たる。これにより、プラットフォーム内の事業者と消費者の利益が損なわれ、プラットフォーム企業のイノベーションと発展の力が弱められ、プラットフォーム業界の健全な発展が阻害されるという。

当局は、このような違法行為の性質、度合い、継続期間などの要素を総合的に考慮し、「独占禁止法」の第四十七条と第四十九条の規定に基づき、アリババに対して行政処罰の決定を下し、違法行為を停止するよう命じるとともに、同社の2019年の中国国内における売上高の4%に当たる182億2,800万元(約3,000億円)に上る罰金を科すことにした。

Ⅴ.問われるプラットフォーム業界の独占禁止規制の在り方

中国において、プラットフォーム業界における独占的行為への規制強化はまだ始まったばかりで、今後、本格化すると見られる。それに当たり、企業の活力を損なわない工夫が求められる。

1.プラットフォーム業界全体が取締りの対象に

今回のアリババの案件においては、「二者択一」の行為だけが処罰の対象となっているが、今後、他のプラットフォーム企業やそれ以外の独占的行為も、取締りの対象になると見られる。

現に、当局は、アリババに対して、「行政処罰決定書」と同時に、「行政指導書」も交付した。その中で、アリババがプラットフォーム企業の主体的責任を厳格に実施し、内部のコンプライアンス体制を強化し、公平な競争を維持し、プラットフォーム内の業者と消費者の利益の保護などについて全面的な改善を行ない、今後三年間、年度ごとに当局に自主調査によるコンプライアンス報告書を提出することを要求した。

また、当局は2021年4月13日に、中央ネットワーク安全・情報化委員会弁公室、国家税務総局と合同で、大手プラットフォーム企業34社を集めた行政指導の会議を開き、市場における支配的地位の濫用を根絶し、プラットフォーム業界の新たな秩序を構築すると表明すると同時に、各企業に対し、一ヶ月以内に全面的な自己点検を実施し、項目ごとに改善を徹底し、「法令に準拠した営業の約束」を提出・公開するよう求めた。

さらに、2021年4月26日に、当局は、「二者択一」などの独占的行為の疑いで、出前などの生活関連サービスを手掛ける電子商取引大手の美団に対する調査に着手したと発表した。

2.規制がプラットフォーム企業の活力を損なわないために

本格化する当局による取締りを受けて、各プラットフォーム企業は、「独占禁止法」違反で巨額に上る罰金が科されるリスクに晒されるようになったことに加え、コンプライアンス体制を強化しながら、従来のビジネスモデルを全面的に見直さなければならない。このことは、短期的に、これらの企業の業績を悪化させ、ひいては株価を抑える要因になりかねない。

経済全体の観点から見ても、プラットフォーム業界における独占的行為への規制強化は、諸刃の剣である。プラットフォームは、ユーザーが多ければ多いほど、アクセス数が大きくなり、ネットワーク効果が強くなるという「規模に関する収穫逓増」が働くため、大型企業による「自然独占」が発生しやすい。その場合、規模の経済性がコストを下げ、資源の配置効率を高める上、独占利潤を獲得するための競争もイノベーションの原動力になる。その一方で、大型プラットフォーム企業による市場における支配的地位の濫用は、競争やイノベーションを抑制してしまう恐れがある。プラットフォームの優位性を発揮しながら独占による弊害を抑えるために、規制の焦点を、マーケットシェアなど、規模によって測られるプラットフォーム企業の市場における支配的地位ではなく、その濫用という行為に当てるべきであろう。

脚注
  1. ^ 「国務院による事業者結合の申告基準に関する規定」(国務院令第529号、2008年8月3日施行)によると、企業結合の案件は、すべての当事者の前年度の全世界の合計売上が100億元を超えかつ少なくとも2社の中国国内の売上がそれぞれ4億元を超える場合、または、すべての当事者の前年度の中国国内の合計売上が20億元を超えかつ少なくとも2社の中国国内の売上がそれぞれ4億元を超える場合、申告の対象となる。
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2021年5月21日掲載