中国経済新論:中国の産業と企業

躍進する中国におけるデジタル・エコノミー
― インターネット産業の発展を中心に ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー
野村資本市場研究所 シニアフェロー

情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド(digital divide)」論の主張に反して、中国は海外からの技術を積極的に導入することを通じて後発の優位性を発揮し、デジタル先進国の仲間入りを果たしている。2017年、中国におけるデジタル・エコノミーの規模は27.2兆元と、GDPの32.9%を占めていると推計されている(中国国家インターネット情報弁公室「デジタル中国建設発展報告[2017年]」、2018年5月9日)。特に、ネットを通じた通販や決済といったサービスが庶民の生活の隅々にまで浸透するなど、存分に情報通信技術の進展によってもたらされた恩恵(digital dividend)を享受している。

中国では、デジタル・エコノミーの中心となるインターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが大勢いる。また、BATと呼ばれる、インターネット業界の御三家であるバイドゥ(百度)、アリババ(阿里巴巴)、テンセント(騰訊)が優れたプラットフォームとエコシステムを構築しており、これは業界全体と周辺ビジネスのインフラとして活用されている。そして、新しい分野において、政府は規制よりも企業による試行錯誤を優先させている。これらの好条件は、デジタル・エコノミーの更なる発展に良い環境を与えている。

テンセントとアリババは、世界的に見てもすでに業界のトップ企業になっており、中国国内においてはバイドゥを振り切って「二強体制」を成している。それらに続くユニコーン(推定市場価値が10億ドル以上の未上場企業)と呼ばれる新興企業も輩出されており、その多くは、資本提携などを通じて、両社と関係を深めている。

中国では、デジタル・エコノミーの発展は、政府が掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という理念に合致しており、また進行中の「供給側改革」と「イノベーション駆動型発展戦略」を実現するための重要な手段である。さらに、デジタル・エコノミーの発展は、国家の競争力を高めている。デジタル・エコノミーの更なる発展に向けて、政府はインターネットと他の産業の融合を目指す「インターネット・プラス」行動計画を進めている。

米国に迫るデジタル先進国となった中国

阿里研究院(アリババ系)とKPMGが、150ヵ国を対象に、デジタル分野における①基礎インフラ、②消費者、③産業エコシステム、④公共サービス、⑤研究開発という五つの指標に基づいて算出したグローバル・デジタル・エコノミー発展指数では、中国は米国に次ぐ世界第二位となっている(図1)。この五つの指標において、中国は、消費者では第一位、産業エコシステムと研究開発では米国に次ぐ第二位となっている(図2)。グローバル・デジタル・エコノミー発展指数は一人当たりGDPと深く関連しており、トップ20カ国の中で、中国を除けば、すべて所得の高い先進国である。

図1 グローバル・デジタル・エコノミー発展指数ランキング(トップ20)
図1 グローバル・デジタル・エコノミー発展指数ランキング(トップ20)
(出所)阿里研究院・KPMG「グローバル・デジタル・エコノミーの新しい潮流を迎えて-2018グローバル・デジタル・エコノミー発展指数-」2018年9月より筆者作成
図2 グローバル・デジタル・エコノミー発展指数の構成項目の米中比較
図2 グローバル・デジタル・エコノミー発展指数の構成項目の米中比較
(出所)阿里研究院・KPMG「グローバル・デジタル・エコノミーの新しい潮流を迎えて-2018グローバル・デジタル・エコノミー発展指数-」2018年9月より筆者作成

中国は、後発の優位性と巨大な国内市場を生かし、独自の特徴を持つデジタル・エコノミーを形成している。まず、インターネット企業は、一件当たりの取引額が小さいものの数が膨大な消費者によって構成されたロングテール市場も、積極的に取り込もうとしている。また、インターネット企業は、消費者と緊密にコミュニケーションを行う一方で、他の企業と提携することなどを通じて、外部の資源を最大限に生かしながら商品とサービスを提供している。さらに、ビッグデータ、AI(人工知能)といった新しい技術を、積極的にビジネスに応用している。

中国では、一部の産業の発展レベルがまだ低く、長い間満たされなかった人々のニーズが、デジタル・エコノミーの独創的ソリューションによって解決された。電子商取引とフィンテック(中国では「インターネット金融」という)は、まさにこのようなニーズに応えることで急成長を遂げた分野である。2017年の中国におけるネット通販の規模は1兆627億ドル(小売売上の19.6%)に達して、米国の4,535億ドル(同8.9%)を大きく上回っている(図3)。その上、2018年の「独身の日」(毎年11月11日)に、電子商取引最大手のアリババグループのネット通販サイトの取引額は、前年比26.9%増の2,135億元(約308億ドル)に達した。また、KPMGが選んだ世界をリードするフィンテック企業トップ50社(2018年)の中で、中国企業は、米国の13社に次ぐ9社がランクインしている上、上位10位の中の4社を占めている(表1)。

図3 中国におけるネット通販の販売額の推移
-米国との比較-
図3 中国におけるネット通販の販売額の推移
(出所)U.S. Department of Commerce、中国国家統計局、中国インターネット情報センター(CNNIC)のデータより筆者作成
表1 KPMGが選んだ世界フィンテック企業のトップ50社(2018年)
順位 会社名 業務分野
1 アント・フィナンシャル 決済 中国
2 京東金融 レンディング 中国
3 Grab マルチ シンガポール
4 度小満金融(元百度金融) マルチ 中国
5 SoFi レンディング 米国
6 Oscar Health 保険 米国
7 Nubank ネオバンク ブラジル
8 Robinhood 資産運用 英国
9 Atom Bank ネオバンク 英国
10 陸金所 レンディング 中国
11 金融壹帳通 その他 中国
12 51信用卡 資産運用 中国
13 Revolt 決済 英国
14 Compass 決済 米国
15 Stripe 決済 米国
16 Clover Health 保険 米国
17 Adyen 決済 オランダ
18 Policybazaar 保険 ドイツ
19 Klarna 決済 スウェーデン
20 ACORN Oaknorth Holdings レンディング 英国
21 Kreditech Holding レンディング ドイツ
22 Monzo ネオバンク 英国
23 我来貸 レンディング 中国
24 Number26 (N26) ネオバンク ドイツ
25 WealthSimple 資産運用 カナダ
順位 会社名 業務分野
26 AfterPay Touch 決済 オーストラリア
27 点融 レンディング 中国
28 VivaRepublica (Toss) 決済 韓国
29 QUOINE 資産運用 日本
30 Kabbage レンディング 米国
31 Affirm レンディング 米国
32 OurCrowd 資産運用 イスラエル
33 SolarisBank ネオバンク ドイツ
34 Future Finance レンディング アイルランド
35 Neyber 資産運用 英国
36 衆安保険 保険 中国
37 TransferWise 決済 英国
38 Pushpay 決済 ニュージーランド
39 League Inc. 保険 カナダ
40 Circle 決済 米国
41 Lendingkart レンディング インド
42 Opendoor 決済 米国
43 Metromile 保険 米国
44 Folio 資産運用 日本
45 Lendix レンディング フランス
46 GuiaBolso レンディング ブラジル
47 Starling Bank ネオバンク 英国
48 Coinbasse 決済 米国
49 Airwallex 決済 オーストラリア
50 Lemonade 保険 米国
(注)順位は各社の①資金調達累計額、②年間資金調達額、③地理・業種上の多様性、④消費者及び市場における牽引力、⑤製品、サービス、ビジネスモデルのイノベーションの程度に基づく。
(出所)KPMG「2018 Fintech 100」(2018年10月23日)より筆者作成

中国において、デジタル・エコノミーをリードしているのは、急成長してきたインターネット企業である。時価総額(未上場の場合、推定市場価値)ベースでは、世界のインターネット企業のトップ20社のうち、11社の米国企業とともに、BAT三社を含めた9社の中国企業がランクインしている(図4)。

図4 世界のインターネット企業のトップ20社
(市場価値順、2018年5月29日)
図4 世界のインターネット企業のトップ20社
(注)市場価値は、上場企業の場合が時価総額の実績値、未上場の場合が推計値。
(出所)Mary Meeker, "Internet Trends Report 2018," Kleiner Perkinsより筆者作成

これらのリーディング企業に加え、中国のデジタル・エコノミーの次世代の担い手となるユニコーン企業も急速に成長している。CB Insightsの調査によると、2018年11月1日現在、世界全体で確認されたユニコーン企業285社(推定市場価値は8,940億ドル)のうち、中国企業は83社(推定市場価値が2,690億ドル)に上っている。中国は米国(133社、推定市場価値が4,810億ドル)に次ぐユニコーン企業の「生息地」となっており、その大半はインターネット関連の民営企業となっている。

中国におけるデジタル・エコノミーの更なる発展にとって有利な条件

中国におけるデジタル・エコノミーは、次の好条件に支えられ、今後も飛躍が続くと予想される(McKinsey Global Institute,“Digital China: Powering the Economy to Global Competitiveness,” December 2017)。

まず、中国のインターネット市場は巨大で、若いネットユーザーが多い(BOX参照)。2016年、中国のネットユーザー数は7.31億人で、EUと米国の合計を超えた。中国には6.95億人のモバイルユーザー(ネットユーザー全体の95%を占める)がいるが、EUでは3.43億人(同79%)、米国では2.62億人(同91%)だった。モバイル端末を通じた注文は、中国の場合ネット通販の売上高の70%を占めているのに対し、アメリカでは30%にとどまっている。また、中国では68%のネットユーザーがモバイル決済を利用しているのに対し、アメリカはわずか15%にすぎない。

次に、BAT三社が築いた優れたプラットフォームとエコシステムは、周辺ビジネスに共通のインフラを提供している。アリババのアリペイ、テンセントのWeChatといった「スーパーアプリ」は、消費者に対し教育からヘルスケア、情報サービス、娯楽、電子商取引、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)まで、色々なサービスをワンストップで提供している。また、BAT三社の出身者は多くのベンチャー企業を興している上、多くのベンチャー企業はBAT三社と資本関係で結ばれている。

そして、規制よりも企業による試行錯誤を優先させるという中国政府のインターネット産業に対する姿勢は、新しい事業を展開するベンチャー企業に十分な自由度を与えている。中国政府が積極的に高速通信ネットワークなど、世界トップレベルのインフラを整備していることも、デジタル・エコノミーの発展を後押ししている。

企業から見たインターネット産業の現状

中国におけるインターネット産業の全貌について、政府の公式統計ではまだ十分把握されていないが、中国インターネット協会と工業・情報化部情報センターがまとめた『2018年中国インターネット企業トップ100社発展報告』(2018年7月27日)から、その概略を窺うことができる。同報告に登場しているトップ100社は、2017年のデータに基づいて、規模、利益、イノベーション、成長性、影響力、社会的責任の六つの基準によって選ばれ、アリババ、テンセント、バイドゥ、京東、網易、新浪、捜狐、美団点評、三六零、小米がそのトップ10社を占めている(表2)。

表2 中国におけるインターネット企業トップ10社(2018年)
順位 会社名 ブランド/サービス内容
1 アリババ 淘宝網、支付宝、アントフィナンシャル、優酷
2 テンセント 微信、QQ、騰訊網、騰訊游戯
3 バイドゥ バイドゥ、愛奇芸
4 京東(JD.Com) 京東商城、京東物流、京東云
5 網易 網易游戯、網易新聞、網易云音楽
6 新浪 新浪網、新浪微博
7 捜狐 捜狐、捜狗、暢游
8 美団点評 美団、大衆点評、美団外売、美団打車
9 三六零 360安全衛士、360殺毒、360手機衛士
10 小米 小米商城、小米手機
(出所)中国インターネット協会、工業・情報化部情報センター「2018年中国インターネット企業トップ100社発展報告」(2018年7月27日)より筆者作成

同報告によると、インターネット企業トップ100社(以下では「トップ100社」)には、次の特徴が見られる。

まず、2017年、トップ100社の売上高合計は1.72兆元(前年比50.6%増)、総利益は2,707億元(前年比82.6%増)に上っている。このことは、インターネット産業全体が高成長を続けていることを示している。

第二に、各社が提供しているサービスは、広い分野に浸透し、生活の質の向上に貢献している。トップ100社は、新しい業種やビジネスモデルを次々と創出しており、人々の衣、食、住、交通、エンターテイメント、教育など、あらゆる生活分野を網羅し、サービスを提供している。無人販売という新しい小売り形態も模索されており、アリババ、京東、蘇寧などは、無人販売+有人販売+ネット上の販売を結びつけ、三者の融合を図っている。

第三に、インターネット企業の研究開発投資は巨額に上っており、コア技術も世界一流の水準に近づいている。2017年のトップ100社の研究開発への投資は1,060億元と、前年より41.4%も増えた。研究開発に従事する者は19.7万人と、トップ100社全体の雇用者数の19.4%を占めている。

第四に、トップ100社の多くは、消費関連だけでなく、工業用インターネットプラットフォームの構築と実用化を積極的に推進し、製造業のデジタル化、ネット化、スマート化に貢献している。トップ100社のうち、主に企業を相手にビジネスを展開している企業は20社で、顧客数が3,000万社を超え、売上高がトップ100社全体の10%を超えている。

テンセントとアリババからなる二強体制の形成

中国のインターネット産業において、アリババとテンセントを中心とする二強体制が形成されつつある(中国情報通信研究院「中国インターネット産業の発展状況と景気指数報告(2018)」2018年7月)。

テンセントとアリババの時価総額は2017年に倍増し、BATを構成するもう一社のバイドゥとの差が開いている(図5)。2018年3月末時点の、テンセントとアリババの時価総額はそれぞれ4,961億ドル(注1)と4,642億ドルに上り、両社の合計は、主に中国でビジネスを展開し、上場している(海外上場を含む)インターネット企業全体の62%を占めている。売上高においても、テンセントとアリババの優位性は明らかである。上場しているインターネット企業の2017年の売上高の合計は1.4兆元を超え、前年より38.2%増えた。そのうち、テンセントとアリババの売上高はそれぞれ2,378億元と2,269億元と、合わせて全体の約三分の一を占めており、伸び率も業界他社よりはるかに高い。

図5 BAT三社の時価総額の推移
図5 BAT三社の時価総額の推移
(注)テンセントは香港取引所に上場しており、時価総額は1ドル=7.8香港ドルで算出。
(出所)Bloombergより筆者作成

テンセントとアリババの業務範囲は拡大しており、新規事業も急速に成長している。テンセントは、決済ソリューション、金融サービス及びクラウドサービスの成長を背景に、従来のオンラインゲーム事業の売上高は50%以下に減少している。アリババは、越境電子商取引とともにクラウドサービスが急速に発展している。特に、傘下のアリクラウドは、アマゾンのAWSとマイクロソフトのAzureに次ぐ、世界3番目のIaaS(Infrastructure as a service)提供者になっている(注2)。アリペイとWeChatペイは、モバイル決済分野でもリーダーになっている。月間アクティブ・ユーザー数は、それぞれ5.2億人と10億人に達し、2社合わせて市場の90%のシェアを占めている。

また、両社は日常生活、企業サービス、インターネット金融、AI、エンターテイメントといった分野を中心に、投資活動を展開している。テンセントは特にエンターテイメントに注力しており、傘下の閲文グループが2017年末に香港市場に上場を果たし、H. Brothers(映画配給)、Ximalaya(ネットラジオ)、bilibili(動画共有サイト)などの大手コンテンツ会社にも出資している。一方、アリババは、AI分野に注力しており、商湯テクノロジーや曠視テクノロジー、寒武紀などのAI企業に出資している。

さらに、テンセントとアリババは多くのユニコーン企業に出資している。テンセントとアリババから出資を受けているユニコーン企業の推定市場価値は、それぞれ1,568億ドルと3,028億ドルに達している。その中には、科学技術部火炬高技術産業開発センターなどがまとめた『2017年中国ユニコーン企業発展報告』(2018年3月23日)でユニコーン企業トップ10社にランクインしているアント・フィナンシャル、滴滴出行、アリクラウド(アリババ)、美団点評、寧徳時代、菜鳥網絡、陸金所の7社が含まれている(表3)。

表3 中国におけるユニコーン企業トップ10社(推定市場価値順、2017年)
―アリババとテンセントとの資本関係―
順位 会社名 推定市場価値
(億ドル)
業種 アリババ/テンセント
による出資
1 アント・フィナンシャル 750 インターネット金融 アリババ
2 滴滴出行 560 配車サービス アリババ/テンセント
3 小米 460 スマホ製造・販売 -
4 アリクラウド 390 クラウドサービス アリババ
5 美団点評 300 Eコマース テンセント
6 寧徳時代 200 新エネルギー自動車 アリババ
6 今日頭条 200 ニューメディア -
6 菜鳥網絡 200 物流 アリババ
9 陸金所 185 インターネット金融 テンセント
10 借貸宝 108 インターネット金融 -
(注1)滴滴出行はアリババとテンセントの双方から巨額の出資を受けている。
(注2)その後、小米(2018年7月)と美団点評(2018年9月)は香港メインボードに、寧徳時代(2018年6月)は深圳創業板に上場した。
(出所)科学技術部火炬高技術産業開発センターなど『2017年中国ユニコーン企業発展報告』(2018年3月23日)および各種報道より筆者作成

中国の新しい成長エンジンとなるデジタル・エコノミー

中国経済は、労働力不足や、対米貿易摩擦などを背景に、成長率は従来の10%程度から大幅に低下し、2015年以降は7%を下回っている。産業のレベルでは、これまでの高成長を支えてきた鉄鋼をはじめとする重厚長大産業が過剰設備を抱えるようになり、繊維といった労働集約型製造業も国際競争力を失ってきている。こうした中で、インターネット産業を中心とするデジタル・エコノミーは、従来の製造業に取って代わる有望産業となり、また次のように、中国経済に新しい活力をもたらすと期待されている(張新紅「デジタル・エコノミー:中国におけると構造転換と成長の新要素」『経済日報』、2016年11月24日)。

まず、デジタル・エコノミーの発展は、中国政府が第13次五ヵ年計画で掲げている「イノベーション、調和、グリーン、開放、共有」という五つの理念を体現している。デジタル・エコノミーは新技術革命の産物であり、新しい経済形態、新しい資源配分の方法でもある。また、情報伝達コストの低下、資源の流動化の加速、需要と供給をマッチさせる効率の向上、都市と農村間や地域間の調和的発展に大きな力を発揮している。さらに、資源の利用効率を高め、グリーンな発展に寄与している。インターネットをベースにしているデジタル・エコノミーは開放・共有という特徴もあるため、経済的に遅れている地域や低所得者層にも経済活動に参入し、発展の成果を分かち合うチャンスを提供している。

次に、デジタル・エコノミーの発展は、「供給側改革」を推進する鍵でもある。次世代情報技術と製造技術の融合を特徴とするスマート製造(製造およびサプライチェーン全体に統合されたインテリジェントな情報システムを適用すること)は、新たな産業革命を引き起こしている。また、スマート農業(ロボットやドローン、AI、情報通信技術などの先端技術を農業に活用して省力・高品質生産を実現すること)といった新しいモデルは、農業の近代化の大きな力となる。サービスの分野では、デジタル・エコノミーは、すでに電子商取引、インターネット金融、インターネット教育、遠隔医療、オンラインエンターテイメントといった形で、人々の生活を大きく変えている。

そして、デジタル・エコノミーは、「イノベーション駆動型発展戦略」を実践し、「大衆創業、万衆創新」(大衆による起業・万人によるイノベーション)を推進する最適な実験場である。デジタル・エコノミーの発展は、イノベーションの担い手となる多くのインターネット企業に成長のチャンスを与えている。

最後に、ポスト工業社会において、データや、情報、ネットワークを生かす力は、国や地域の競争力の決め手となる。

デジタル・エコノミーの更なる発展を目指すべく、2015年3月に開催された全国人民代表大会の「政府活動報告」において、李克強首相は、「『インターネット・プラス』行動計画を策定し、モバイル・インターネット、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、モノのインターネット(Internet of Things、IoT)などと、現代製造業との結合を推進し、電子商取引、工業インターネット、インターネット金融の健全な発展を促進し、インターネット企業を国際市場の開拓・拡大へと導く」という方針を明らかにした。

これを受けて、同年6月24日に国務院会議において、「『インターネット・プラス』行動指導意見」が可決された。同意見は、インターネット・プラスを推進し、起業・イノベーション、共同製造、現代型農業、スマート・エネルギー、金融包摂、公共サービス、高効率物流、通信販売、至便な交通、グリーン・エコロジー、人工知能といった新しい産業モデルを形成し得る11の重点分野の発展を促進するという目標・任務を明確にした。具体的な支援措置も打ち出し、発展を阻害する不合理な制度・政策を整理し、インターネットと各産業との深い融合を推進し、インターネット企業の上場を後押しとするという。

中国では、インターネット産業の発展は、近年、民間主導で進んでいるが、政府による「インターネット・プラス」行動計画の実施にも促され、他の産業を巻き込む形でデジタル・エコノミーの拡大に拍車をかけ、中国経済に新たな活力をもたらすだろう。

BOX 中国におけるインターネットの最新利用状況

中国インターネット情報センター(CNNIC)がまとめた最新の「第42回中国インターネット発展状況統計報告」(2018年7月)によると、2018年6月現在、中国におけるインターネットの利用状況は以下の通りである。

ネットユーザー数は8.02億人で、インターネットの普及率は57.7%である。そのうち、モバイル端末を利用してインターネットへアクセスしているユーザーの数は、7.88億人に上っている。

都市部のネットユーザー数は5.91億人(普及率は72.7%)で、農村部のネットユーザー数は2.11億人(普及率は36.5%)で、それぞれ全体の73.7%と26.3%を占めている。

年齢別では、10~39歳のネットユーザー数はネットユーザー全体の70.8%を占めている。

ネットユーザーのうち、98.3%がモバイル端末、48.9%がデスクトップPC、34.5%がノートPC、29.7%がテレビを利用してインターネットにアクセスしている。

用途別のネットユーザー数と利用率では、インスタントメッセージ、検索エンジン、ネットニュースサービス、動画、音楽、決済、通販、ゲーム、ネットバンキングが上位を占めているが、資産運用、教育サービス、タクシー予約、リムジン予約、シェアバイクが高い伸びを示している(表)。

なお、以上のいくつかの用途を兼ねた国内SNS最大手であるWeChatのユーザー数は、ネットユーザー全体の86.9%に当たる6.97億人に達している。

表 各種インターネットサービスの利用状況(2018年6月)
サービス 利用者数
(万人)
全インターネット利用
者に占める割合(%)
伸び率
(2017年12月比、%)
インスタントメッセージ 75,583 94.3 4.9
検索エンジン 65,688 81.9 2.7
ネットニュースサービス 66,285 82.7 2.5
動画 60,906 76.0 5.2
音楽 55,482 69.2 1.2
決済 56,893 71.0 7.1
通販 56,892 71.0 6.7
ゲーム 48,552 60.6 9.9
ネットバンキング 41,715 52.0 4.5
文学 40,595 50.6 7.5
旅行予約 39,285 49.0 4.5
eメール 30,556 38.1 7.5
資産運用 16,855 21.0 30.9
微博(ミニブログ) 33,741 42.1 6.8
地図検索 52,419 65.4 6.4
デリバリー注文 36,387 45.4 6.0
教育サービス 17,186 21.4 10.7
タクシー予約 34,621 43.2 20.8
リムジン予約 29,876 37.3 26.5
ネット中継 42,503 53.0 0.7
シェアバイク 24,511 30.6 11.0
(出所)CNNIC「第42回中国インターネット発展状況統計報告」(2018年7月)より筆者作成
脚注
  1. ^ テンセントは香港取引所に上場しており、時価総額は1ドル=7.8香港ドルで算出。
  2. ^ IaaSは、コンピューターシステムの構築・稼働に必要なサーバー・ストレージ・ネットワークといった、従来ハードウェアとして提供されていた機能を、インターネット経由で提供するサービスのことである。
関連記事

2018年11月20日掲載