中国経済新論:中国の経済改革

二期目に入る習近平政権の経済政策の課題

関志雄
経済産業研究所

強国を目指す「新時代」に入る中国

2017年10月に開催された中国共産党第19回全国代表大会(党大会)を経て、習近平政権は二期目に入った。次期の後継者として有力視されていた50歳代の胡春華(1963年生まれ)と陳敏爾(1960年生まれ)の常務委員入りが見送られたことで、習近平総書記が2022年以降も続投する可能性は濃厚になってきた。また、中国共産党の規約に、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」が、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、「三つの代表」の重要思想、科学的発展観と同列に党の行動指針に盛り込まれた。毛沢東は中華人民共和国の建国を通じて中国を立ち上がらせ、鄧小平は改革開放を通じて中国を豊かにさせたが、両氏に並ぶ権威を獲得した習近平総書記は、強いリーダーとして、中国を強国に導こうとしている。

具体的に、習近平総書記は、今回の党大会における報告(以下では「習近平報告」)において、2020年までの小康社会(いくらかゆとりのある社会)建設の全面的な完成を踏まえて、今世紀半ば(2050年)までに、「富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国を築き上げる」という目標を掲げている(表1)。その達成は、「中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現」を意味する。2020年と今世紀の半ばは、それぞれ2021年の中国共産党創立100周年と、2049年の中華人民共和国建国100周年という節目に対応している。また、この「二つの百周年の奮闘目標」の間に、今世紀の半ばに合わせて設定された目標を15年前倒しする形で、2035年までに「社会主義現代化を基本的に実現する」という中間目標が新たに加えられた。

表1 「習近平報告」で描かれた中国の現代化に向けての道筋
表1 「習近平報告」で描かれた中国の現代化に向けての道筋
(出所)習近平「小康社会の全面的完成の決戦に勝利し、新時代の中国の特色ある社会主義の偉大な勝利を勝ち取ろう」中国共産党第19回全国代表大会における報告(2017年10月18日)より筆者作成

「二つの百周年の奮闘目標」を実現するためのカギとなる経済改革

「習近平報告」は、「『二つの百周年』の奮闘目標と中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現し、人民の生活水準を絶えず高めるには、いささかも揺るぐことなく発展を党の執政・興国の第一の重要任務とし、あくまでも社会的生産力を解放し発展させ、社会主義市場経済の改革方向を堅持し、経済の持続的で健全な発展を推し進めていかなければならない」という認識に立って、次の六つの経済政策の課題を挙げている。

①供給側構造改革の深化
経済発展の重点を実体経済に置き、供給体系の質的向上に主力を傾け、経済の質的優位性を著しく高める。そのために、「過剰生産能力の解消、過剰在庫の解消、過剰債務の解消、コストの低減、脆弱部分の補強」を引き続き進めていく。

②イノベーション型国家の建設の加速
世界の科学技術の最先端に照準を合わせ、基礎研究を強化し、展望性のある基礎研究と先導的なオリジナル成果での重大なブレークスルーをはかる。また、応用型基礎研究を強め、科学技術強国・品質大国・宇宙開発強国・インターネット強国・交通強国・デジタル中国・スマート社会の建設に強い支えを提供する。

③農村振興戦略の実施
都市・農村の融合発展を目指す体制・仕組みと政策体系を確立して充実させ、農業・農村の現代化推進を加速する。また、土地請負関係の長期的安定を保ち、二期目の土地請負契約の終了後にさらに30年延長させる(注1)。

④地域間の調和的発展戦略の実施
地域格差と各地域の優位性を考慮し、より効果的な地域間の調和的発展の新しい仕組みを確立する。また、北京の首都機能以外の諸機能の分散を糸口として、京津冀(北京市、天津市、河北省)地区の共同発展を促し、北京から約100キロ離れた河北省保定市東部の「雄安新区」の建設を進める。

⑤社会主義市場経済体制の整備の加速(後述)

⑥全面的な開放の新たな枠組みづくりの推進
中国の開放の扉は閉ざされることはなく、ますます大きく開かれていくだけである。「一帯一路」建設を重点とし、海外から引き入れることと海外に出て行くことの両方の重視を堅持する。また、高いレベルの貿易・投資自由化・円滑化政策を実行し、「参入前内国民待遇とネガティブリスト管理」制度を全面的に実施し、市場参入条件を大幅に緩和し、サービス業の対外開放を拡大し、外商投資の合法的権益を保護する。

この六項目は、2012年11月の前回の党大会の胡錦濤総書記の報告において挙げられた五項目の大枠に沿っている(図1)。

図1 今回と前回の党大会における経済改革の課題に関する記述の比較
図1 今回と前回の党大会における経済改革の課題に関する記述の比較
(出所)新華社資料より筆者作成

ただし、前回の「経済構造の戦略的調整の推進」が、今回は一番目の「供給側構造改革の深化」と四番目の「地域間の調和的発展戦略の実施」の二項目に分けられたため、経済改革の課題は六項目となったのである。また、前回の「経済構造の戦略的調整の推進」と内容が大きく重なる「供給側構造改革の深化」は、今回一番目の項目として挙げられている。その一方で、前回一番目の項目として挙げられた「経済体制の改革の全面的深化」に当たる「社会主義市場経済体制の整備の加速」は、今回、五番目に下げられている。このように、経済政策の優先順位として、「体制改革」は「構造改革」を下回るようになった。

未完の市場化改革

2012年11月の第18回党大会を経て誕生した一期目の習近平政権は、当初、市場化に向けた経済改革には積極的であると見られていた。特に2013年11月の中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議で審議・採択された、習近平政権の経済政策の綱領ともいうべき「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」において、「市場に資源配分における決定的役割を担わせる」ことを訴えるなど、市場化改革を推進しようとする指導部の決意が伺われた。しかし、振り返ってみると、一期目の習近平政権において市場化改革は総じて、停滞していたと言わざるを得ない。

今回の党大会における「習近平報告」は、「社会主義市場経済体制の整備の加速」について、市場化改革を推進し、民営企業の発展を支援しながらも、経済における国有企業の支配的地位を維持するという方針を示している。

具体的に、市場化改革に関しては、「経済体制の改革は財産権制度の充実化と生産要素の市場化配分に主眼を置いて、財産権による効果的なインセンティブ、生産要素の自由な移動、価格の柔軟な調整、公平で秩序のある競争、企業の優勝劣敗を目指して進めなければならない」、また、民営企業に関しては「市場参入ネガティブリスト制度を全面的に実施し、統一市場と公平な競争を妨げるさまざまな規定や慣行を整理・廃止し、民営企業の発展を支援し、各種の市場主体の活力を引き出す」と述べられている。

その一方で、国有企業に関しては、「各種の国有資産の管理体制を整え、国有資本の授権経営体制を改革し、国有経済の配置の最適化、構造調整、戦略的再編を速め、国有資産の価値維持・増大を促し、国有資本の強大化・優良化をはかり、国有資産の流失を効果的に防ぐ。国有企業の改革を深化させ、混合所有制経済を発展させ、グローバル競争力を持つ世界一流の企業を育成する」という方針である。

しかし、「市場化改革を推進し、民営企業の発展を支援すること」と「経済における国有企業の支配的地位を維持すること」は明らかに矛盾しており、両立できるものではない。高成長を持続するために、民営化などを通じて、労働力、資本、土地など、資源を生産性の低い国有企業から生産性の高い民営企業に移さなければならないが、残念ながら、今回の党大会における「習近平報告」を見る限り、このような改革が行われる可能性は極めて小さいと言わざるを得ない。

脚注
  1. ^ 中国の農地は、集団所有となっており、農民は集団(各種の合作社などの農民の集団経済組織)から農地を請け負うことになっている。その期限は1983年頃から始まった第一期では15年だったが、1997年から始まった第二期になると30年になり、2027年に満期を迎える予定である。今回の方針は、請負契約が2027年以降さらに30年間延長されることを意味する。
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2017年11月30日掲載