中国経済新論:中国の産業と企業

新しい段階を迎える銀行業の対外開放
― 「来てもらう」から「出て行く」へ ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

1980年から始まった銀行業の対外開放は、中国経済全体の対外開放を促進するとともに、国内銀行業の改革を推し進める重要な力となっている。このプロセスにおいて、外資銀行の進出先が一部の地域から全国へ、業務範囲が外貨業務のみから人民元業務へ、サービスの対象が外国人から中国人へと拡大してきた。外資銀行は、拠点網が次第に拡充され、業務規模が速やかに拡大した上、中国資本の銀行との間に広範な業務提携と資本提携が行われ、中国銀行業におけるプレゼンスが高まっている。その一方で、中国資本の銀行も、株式上場を経て、海外進出が目立つようになってきている。このように、中国における銀行業の対外開放は、一方的に外資銀行に「来てもらう」段階から中国資本の銀行も海外へ「出て行く」という相互参入の段階に入りつつある。

外資銀行の対中進出の拡大と深化

1970年代末に中国が改革開放路線に転換してから、政府は、外資銀行を誘致することを通じて外資企業向けの金融サービスの改善、ひいては投資環境の向上を目指した。その方針にしたがって、1980年に日本輸出入銀行の北京事務所や、1981年に香港の南洋商業銀行の深セン支店が相次いで設立された。また、銀行業の対外開放地域は、経済特区から沿海都市、地方主要都市へと、徐々に拡大された。1993年末までに、外資銀行は中国の13の都市で76の営業店舗を設けたが、その業務範囲は、外資企業や外国人向けの外貨業務に限定されていた。

1994年に、外資銀行が中国市場に参入する条件と外資銀行に対する管理監督の基準を定めた「中華人民共和国外資金融機構管理条例」が公布された。これにより、開放地域は全国に拡大され、外資銀行は中国のすべての都市に拠点を設立することが可能となった。また、1996年に、上海市において外資企業と外国人向けの人民元業務が試験的に許可された。その後発生したアジア金融危機の影響で、外資銀行が中国市場から撤退した事例もあったが、これに対して中国政府は、1998年8月に上海に次いで深センを二番目の外資銀行の人民元業務の取り扱い都市として許可し、また、1999年7月に外資銀行のインターバンク市場への参加を認めるなど、規制緩和に乗り出した。

2001年12月11日に中国が世界貿易機関(WTO)への加盟を果たし、加盟時の約束に従って、2006年までの経過期間において、(1)外資銀行支店の外貨業務の対象顧客制限の廃止、(2)人民元業務の取り扱い地域を上海、深セン、天津、大連の四都市から、中国全土に拡大、(3)人民元業務の対象を外資企業と外国人個人から、中国企業と中国人にまで段階的に拡大、(4)「人民元負債が外貨負債の50%を超えてはいけない」という制限の撤廃、といった規制緩和が行われた。

同じ時期に、約束の履行とともに、経済の成長と金融改革のニーズに合わせて、政府はその他一連の開放措置を積極的に行った。まず、外資銀行の中西部と東北部への進出を促すために、西安、瀋陽、ハルビン、長春、蘭州、西寧などの都市における人民元業務の解禁時期を繰り上げた。第二に、外資銀行に求められる最低資本金が引き下げられた。第三に、外資銀行にも中国資本の銀行と同様に、デリバティブ商品の取引、適格外国機関投資家(QFII)の受託業務、海外での財産運用及び管理業務、保険代理業務などを許可した。第四に、香港及びマカオと結んだ「中国本土と香港の経済貿易緊密化協定」(CEPA)に従い、香港及びマカオでの銀行の拠点設立と業務展開を優遇した。最後に、中国資本の銀行の改革に外国戦略投資家が参加することを認め、外資金融機関の中国資本の銀行への出資比率の上限を引き上げた。

2006年12月にWTO加盟の経過期間の終了に合わせて、「外資銀行管理条例」が施行された。同条例は、現地法人として進出する外資銀行には「内国民待遇」を与える一方で、支店形態での進出の場合にはより厳しい健全性の基準とリテール業務への制限が適用されることから、外資銀行の支店の現地法人化を促すきっかけとなった。中国当局も、監督の強化と(外資銀行の親銀行が破綻した場合の)預金者保護という観点から、外資銀行の現地法人化を奨励している。

中国経済の高成長と規制緩和を背景に、外資銀行の中国でのビジネスが急速に伸びている。2007年末現在、24の外資独資銀行、117の外国銀行支店をはじめとする外資銀行の傘下にある営業店舗数は440に上る(表1)。その総資産は1.25兆元と、銀行部門全体の2.38%を占めている(表2)。

表1 中国における外資銀行の進出状況
表1 中国における外資銀行の進出状況
(出所)中国銀行業監督管理委員会、「中国銀行業監督管理委員会2007年報」2008年4月
表2 拡大する外資銀行の店舗数と資産規模
表2 拡大する外資銀行の店舗数と資産規模
(出所)中国銀行業監督管理委員会、「中国銀行業監督管理委員会2007年報」2008年4月

外資銀行の進出による中国経済への貢献

外資銀行の進出は、中国の銀行業の発展にとどまらず、中国経済全体の発展にも貢献している。

まず、外資銀行は対外貿易の発展と外資の導入に大きな役割を果たしている。外資銀行は国際貿易の融資及び決済、シンジケートローン、キャッシュ管理及び資産運用などの面で明らかに優位性を持つ。外資銀行の進出は、中国市場に多くの金融商品をもたらし、中国銀行業のサービス機能を向上させた。同時に、外資銀行はその海外拠点のネットワークとシステムを活かして、国際貿易と投資を行う中国企業に資金調達及び他の金融サービスを提供し、中国企業の海外での事業展開を支えている。

第二に、銀行をはじめとする外国金融機関の対中投資が、中国に外貨資金をもたらしている。2007年末までに、25の中国資本の銀行が、海外の戦略的投資家から合計213億ドルの出資を受け入れている。中国資本の銀行の海外でのIPO(H株)による資金調達(累計455億ドル)と、外資銀行による直接投資(累計148億ドル)を加えれば、銀行部門における外資の利用額は、累計800億ドルを超えている。また、外資金融機関を戦略的投資家として迎えることは、中国資本の銀行にとって、コーポレート・ガバナンスの向上と経営ノウハウの導入のきっかけともなった。

第三に、外資銀行は先進的経営理念、成熟した管理技術及び商品を中国市場にもたらし、競争と提携を通じて中国資本の銀行の商品開発意識と能力の強化を促した。その結果、経営効率が改善される一方で、顧客へのサービスも大きく向上した。

最後に、外資銀行の進出は、国内の銀行業の管理監督レベルの向上につながった。監督当局は国際的ルールを参考しながら、公平で、統一された、透明度の高い管理環境の整備に努め、外資銀行と中国資本の銀行に対する管理監督基準の統一に向けて監督体制を整えてきた。また、外国の銀行監督当局との交流を深めることで、中国当局はリスク監督の能力を高めることができた。

本格化する中国資本の銀行の海外進出

このように中国における銀行業の国際化は、外資銀行の中国への進出が先行する形で進んできたが、近年、株式上場を経て、中国工商銀行や、中国建設銀行、中国銀行をはじめとする中国資本の銀行は、支店開設や合併買収(M&A)を進めるなど、海外への進出を積極的に進めるようになった。

まず、2007年には中国資本の銀行による海外での支店、事務所の設立が相次いでいる。中国工商銀行のモスクワ支店、中国銀行のイギリス現地法人、交通銀行のフランクフルト支店、マカオ支店、中国建設銀行のシドニー代表処などである。2007年11月、米国の金融管理当局は中国招商銀行のニューヨーク支店の設立を許可した。これは1991年に米国で「外国銀行監督強化法」が公布・施行されてから認可された初めての中国資本の銀行の営業機関となる。2007年末までに、7つの中国資本の銀行が海外で60の支店機構を設立しており、海外における資産総額は2674億ドルに上っている。

また、2007年の中国資本の銀行による海外でのM&Aは、交渉中の案件も含めて、6件に上った。その内訳は、中国工商銀行4件、中国民生銀行と国家開発銀行各1件である(表3)。

表3 中国資本の銀行による海外でのM&A(2007年)
表3 中国資本の銀行による海外でのM&A(2007年)
(注)※は公表時期
(出所)中国人民銀行、「二〇〇七年国際金融市場報告」2008年3月

中国の金融機関による初の海外でのM&Aは、1984年9月に行われた中国銀行のマカオ大豊銀行の株式50%の取得に遡り、その後も多く行われてきた。これまでと比べて、件数が多いことに加え、2007年に中国の金融機関が海外で行ったM&Aには次のような新しい特徴が見られる。まず、国家開発銀行はBarclays銀行に22億ユーロ(約30億ドル)資本参加し、中国工商銀行は南アフリカのスタンダード銀行の株式を買収し、取引金額は54.6億ドルに達しているように、投資規模が大きくなっている。また、これまで中国資本の銀行による海外でのM&Aは東南アジアに集中していたが、2007年以降は、米国、ヨーロッパとアフリカなどの地域に広がっている。

対外進出の促進要因と阻害要因

中国工商銀行の楊凱生頭取が指摘するように、中国資本の銀行にとって、海外進出は中国経済の対外開放の拡大と深化に対応し、コア競争力を向上させるための当然な選択である(「21世紀アジア金融年次会議」でのスピーチ、2007年11月24日)。

まず、中国資本の銀行が海外に進出する背景の一つは、中国が経済大国、貿易大国になったことである。中国企業はどんどん海外に出て行き、資金調達も販売もグローバル化している。急速に成長してきた中国の多国籍企業にとって、資金面のみならず、生産、経営、管理など、多くの面において、すでに取引関係にある中国の金融機関によるサポートが必要である。

第二に、多くの外資銀行の中国への進出により、国内市場の国際化が進み、国内と海外の取引先、国内金融と国際金融の区別は曖昧になってきている。こうした中で、中国資本の銀行は、国際的なレベルでサービスを提供できなければ、ビジネス・チャンスを逃がすことになる。

第三に、銀行資本の国際化はその経営管理の国際化を促している。すでに中国工商銀行や中国建設銀行、中国銀行といった、いくつかの中国資本の銀行は海外での株式上場を通じて資本構造の国際化を実現している。これを受けて、各銀行は業績、ひいては株価が国際基準で評価されるようになりつつある。自らの投資価値を高めるために、優れた海外の銀行をモデルに経営管理を改善し、グローバルな視野で発展していかなければならない。

最後に、業務の国際化はリスク分散につながる。中国資本の銀行にとって、国内市場がその主な利潤の源泉であるが、持続的な発展を実現するためには、経営の国際化を通じて国内外の景気変動から来るリスクを分散する必要がある。また、一部の中国資本の銀行は海外上場で多くの外貨資金を調達しており、海外でのM&Aといった外貨での資金運用を通じて、為替リスクを抑えることができる。

その一方で、中国資本の銀行にとって、海外に進出することは、相手の土俵に乗って戦わなければならないことを意味し、成功するには、多くのハードルを乗り越えなければならない。

まず、海外に進出する際、進出先の政治体制と情勢に大きく左右されるカントリーリスクに直面することは避けられない。政権の交替や法律法規の変更が、投資の失敗要因になりかねない。政治リスクは、保険などを通してある程度回避することができるが、更に重要なのは投資先国に対する理解を深めることを通じて、リスクを予測する能力を高めることである。

また、海外市場では、中国資本の銀行は、国内で享受してきた情報面の優位性を失ってしまう上、同業他社との激しい競争にさらされることになる。特に、資金や金融技術、グローバルネットワークなどの面において、先進国の銀行との差が歴然としている。国際業務に限っても、プロジェクト融資、シンジケートローンなど、大型の国際融資の分野において、中国資本の銀行は、競争相手と比べて、まだ経験もノウハウも不足している。

最後に、海外に進出する中国資本の銀行は、地理的距離、慣れない環境、言葉といった壁を乗り越えるために、出張旅費、外国駐在員の生活費、医療保険料、翻訳費用など、多くの出費を強いられることになる。

このような配慮から、中国銀行業監督管理委員会の劉明康主席は、海外進出を検討している銀行に対し、「事業戦略、管理、法律、財務、人的資源などの分野について包括的な検討を行う必要がある」と慎重な姿勢を求めている(「財経網」インタビュー記事、2007年12月10日)。

2008年6月2日掲載

文献
  • 中国銀行業監督管理委員会、「中国銀行業対外開放報告」、2007年3月
  • 中国人民銀行、「二〇〇七年国際金融市場報告」、2008年3月
  • 中国銀行業監督管理委員会、「中国銀行業監督管理委員会2007年報」、2008年4月
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2008年6月2日掲載