中国経済新論:中国の経済改革

変貌する中国の都市発展戦略
― 重点は小都市から大都市、そして都市群へ ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国では、1949年の建国初期から1980年代まで、都市発展戦略は、小城鎮(町)をはじめとする小都市の建設を中心に進められ、大都市の規模が厳格に制限された 。しかし、90年代以降、小城鎮の弊害が明らかになり、また大都市のメリットも認識されるようになるにつれて、大都市、そしてそれを中核とする都市群を優先させる都市発展戦略が、次第に鮮明になってきた。

計画経済期には、重工業を優先的に発展させるため、資金は主に生産部門に投入された。都市のインフラ建設は非生産的投資と位置づけられ、制限の対象となった。これを背景に、1955年に「今後都市の建設は、原則的に中小城鎮を主にとし、条件が整えば少数の中規模城鎮を建設し、特別な理由がない限り大都市は建設しない」という方針が打ち出された。

改革開放に転換して間もない1980年10月に開催され全国都市計画会議でも「大都市の規模を抑制し、中規模都市を合理的に発展させ、小都市を積極的に発展させる」という都市発展方針が受け継がれた。その後、1989年に成立した「中華人民共和国都市計画法」や、第8次五ヵ年計画(1991年~1995年)においても、「大都市の規模を厳格に制限する」という方針が明記されていたが、第9次五ヵ年計画(1996年~2000年)では削除された。

2001年から始まった「第10次五ヵ年計画」では、都市化の推進方針は、「小城鎮を重点的に発展させ、中小都市を積極的に発展させ、地域中心都市の機能を整備し、大都市の波及・牽引作用を発揮させ、都市部の密集区の秩序ある発展を導く」と改められ、大都市の果たすべき役割を正面から評価するようになった。この方針は、2002年に開催された中国共産党第16回全国代表大会(党大会)における江沢民総書記の報告では、「都市化の水準を徐々に高め、大中小都市と小城鎮の調和のとれた発展を堅持し、中国の特色ある都市化の道を歩む」という表現で再確認された。

さらに、2006年から始まった「第11次五ヵ年計画」において、都市化の推進方針は、「大中小都市と小城鎮の調和のとれた発展を堅持し、都市と小城鎮の総合的な受け入れ能力を高め、漸進性、土地節約、集約的な発展、合理的配置という原則に従い、都市化を積極的かつ穏やかに推進し、都市と農村の二元構造を徐々に改める。……超大型都市と大都市を牽引車とし、中心都市の役割を活かして、土地の使用が少なく、就業機会が多く、要素集積能力が強く、人口が合理的に分布している新たな都市群を形成する。」となり、「都市群」の推進は初めて政府の政策として提起された。この方針は、2007年に開催された第17回党大会で行われた胡錦濤総書記の報告では、「中国の特色ある都市化の道を歩み、都市・農村の統一的企画(双方へ同時に配慮すること)、合理的分布、土地の節約、機能の充実、大が小を引っ張るという原則に従って、大中都市と小城鎮のつり合いのとれた発展を図る。総合受け入れ能力の増強を重点に、大都市を核として、波及効果の大きい都市群を形成し、新しい経済成長の極を育てる」という表現で受け継がれた。

大都市と小都市(小城鎮)には、それぞれのメリットとデメリットがある(表1)。当初、都市化が小城鎮を中心に進められたのは、その建設費用(住民一人当たり)が、大都市より安いからである。もちろん、これを反映して、その分だけ小都市が提供する公共財とサービスが大都市より劣ることになるが、資金不足の時代では、やむ得ない選択であった。しかし、経済が発展するにつれて、大都市による規模の経済効果と集積効果がより重要視され、中でもますます貴重になってきた資源としての土地やエネルギーの節約効果が強調されるようになった。

表1 大都市VS小都市のメリットとデメリット
表1 大都市VS小都市のメリットとデメリット
(出所)筆者作成

都市発展戦略の重点が小都市から大都市へ、そして大都市を中核とする都市群へとシフトしていることを反映して、全都市人口に占める人口100万人以上の都市に住む人の割合は、1990年の39.5%から2005年の43.0%に、中でも人口1000万人以上の都市の割合はゼロから4.8%に上昇している(図1)。すでに、上海を中心とした長江デルタと広州、深センを中心にした珠江デルタ、京津冀地域(北京、天津、河北省)という三大都市群が形成され、中国経済の牽引役となりつつある。

図1 都市規模別の人口構成
図1 都市規模別の人口構成
(出所)United Nations, World Urbanization Prospects: the 2007 Revision Population Databaseより作成

2008年5月8日掲載

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