中国経済新論:中国の産業と企業

ブランドの確立を目指すハイアールの海外戦略

盛洪
天則経済研究所 所長

ハイアール集団は中国で最も早く海外戦略を展開し、そして非常に立派な成功を遂げた企業の一つである。しかし、その戦略を従来の比較優位の理論によって分析することは難しい。例えば、アメリカにおける労働力のコストが中国の10倍であるにもかかわらず、ハイアールはあえてアメリカに投資し、工場を設けた。当初、それは見栄のためではないかと批判を受けた。しかし、ハイアールはアメリカ市場で大きな成功を収めたと発表している。1999年のハイアールのアメリカ市場における売上高はわずか3千万ドルに過ぎなかったのに対して、2002年にはそれが2億5千万ドルまで拡大した。この成功の裏側には何があるのだろうか。ハイアールの海外戦略の背後には、経済学によって解釈されるロジックが果たして存在しているのであろうか。

一、ブランド製品とノーブランド製品

経済学では、二つの商品の外観、品質、性能が全く同じであっても、ブランドが異なるだけで、完全に異なる商品であると見なされる。ブランドには、品質、信頼性、アフターサービスの水準など、商品に関する総合情報が含まれていると考えているのである。こうした情報に価値がある理由は、「良い」情報だという点にはなく、それが信頼に値するからである。ブランドのない商品であるからといって「悪い」商品であるとは限らない。しかし、ノーブランド商品を購入することは、ブランドに代表される品質、信頼性とアフターサービスが保証されないことを意味する。従って、ブランドの価値は、人々が情報を集めるためのコストを節約できることにある。すなわち、情報収集にはコストが必要であり、必要な情報を集めるためのコストがブランド商品とノーブランド商品との価格差より高い場合、ブランド商品を選択する意味がある。競争性市場においては、ブランド商品とノーブランド商品との間に明らかな価格差が存在している。

ノーブランド商品とブランド商品を異なる商品と見なすこの見方は、「ブランド」を二つの商品を見分けるための重要な要素であると考えている。また、「ブランド」という特徴を増加することを、ブランド製品の生産における一つの生産過程であると見なすこともできる。一つの生産過程である以上、企業内で生産することも、市場で取引することもできる。こうした選択は、このように表現することができる。

企業内生産:(ノーブランド商品+ブランド)=ブランド商品
市場から購入:(ノーブランド商品)+(ブランド)=ブランド商品

ここで使われている括弧は企業の境界を表している。現実には、市場契約によって、ノーブランド商品とブランド商品を結合させる例が多く存在している。例えば、格蘭仕のOEM戦略は、ノーブランド商品をブランドを持つ企業に売り、後者のブランドで販売に出す。この戦略によって、双方にメリットがもたらされている。特に重要なのは、大量に格蘭仕のノーブランド商品を仕入れる販売会社が、規模の経済性によって、製品の品質を判断するコストが節約できることである。ノーブランド商品を生産しているとはいえ、格蘭仕自身も企業パートナーの信頼を獲得するために資源を投入しなければならない。しかし、大勢の消費者からの信頼を得るよりはコストをかなり安く抑えることができる。このように、格蘭仕がパートナーとの間で情報コスト節約によるメリットを分け合っていることは間違いない。これに対して、いわゆる企業内でブランドを「生産」する例も多く見られる。ハイアールがその一例である。しかし、なぜ異なる選択が行われるのだろうか。その理由の大半はコースの企業理論によって説明することができる。すなわち、ブランド取引のコストが非常に重要な役割を果しているのである。

国際経済活動を議論する際、従来の伝統理論はコストの多寡をもって経済活動を分析する傾向がある。たとえば、比較優位説にしても、収穫逓増の理論にしても、同質製品の価格は同じであることが仮定されている。しかし国際貿易あるいは投資にかかわるブランド戦略に関していえば、付加価値あるいは収入という観点から分析を始めることになる。これは全く逆の発想である。しかし、いずれも経済学の分析手法を使っていることには違いはない。一方ではどちらの製品の生産コストがより安いかを問題にし、もう一方はどの地域で、どちらの製品の市場価格がより高いかに関心を持っているという点で異なるのみである。

生産コストからみると、中国の家電産業にはコスト面での比較優位だけでなく、中国の巨大な市場に由来する規模経済の優位性も持っている。しかし、グローバルな角度から見ると、これは決して中国企業の独自の優位性ではない。なぜなら、海外の多国籍企業が中国に進出し、生産拠点を設け、そのコストと市場の優位性を活かし、中国企業と全く同じ条件で競争することができるからである。しかもブランドに関していえば、多国籍企業の方が規模の優位性を持っている。通常、中国企業のブランド価値を多国籍企業と比較すると、相対的に小さい。例えば、2000年の時点で、アメリカで最も価値の高いブランドであるコカ・コーラのブランド価値は中国最大のブランドである「紅塔山」の13.5倍にも達している。また、ハイアールのブランド価値も競争相手であるGEの九分の一に過ぎない。ブランドは多くの製品で共有することができるため、ブランドへの投資は強い規模の経済性を持ち、ブランド競争はその規模の競争そのものである。従って、ブランド市場においては、中国企業が決して優位を持っていない。この状況に対応する戦略は、ブランドを拡張することである。

二、ブランド拡張の手段選択

ブランドを拡張することは、企業自らのブランドを本国の外へ拡張することである。生産規模にしても、ブランド規模にしても、最終的には国際経済活動の拡大を通じて実現されなければならない。従って、ブランド拡張の最終目的は、グローバル市場においてブランドを確立することである。本来、ブランドを拡張しなくても、企業の製品を輸出することはできるが、この場合、輸出されるのは、ノーブランド商品に過ぎない。こうしたノーブランド商品をブランド商品に変えようとする場合、ブランドに対する投資が必要となる。もし投資額がそのブランドの価値(ブランド製品として販売する場合と、ノーブランド製品として販売する場合の売上格差の現在価値)より低ければ、その投資は合理的である。しかし投資にも様々な形がある。

まず考えられるのは、現地の一つのブランドを直接購入することである。いわゆる「購入」という方法を採る場合、現金による買い上げや、一定期間のリース契約、ブランド所有者と共同で出資して販売会社を設立して、一定の割合で利潤を分配することも可能である。このような方法は、簡便性に優れ迅速に実行できるというメリットはあるが、しかしブランドには規模の経済性があることを考えると、このような投資には問題がある。ブランド価値は規模の経済が働くため、二つのブランドに投資するより、一つのブランドに投資した方がその潜在価値が高まるためである。従って、もし企業がすでにブランド戦略を採用し、しかも国内市場において名の知られたブランドを持っている場合、外国のブランドを使用することは、非効率になる。その場合、ブランドをつけて生産、販売を行う過程で築き上げたブランド効果は最終的にブランドの使用者ではなく、その所有者に帰属してしまう。そのため、企業はブランド戦略を採用しなくても、前述した「ノーブランド商品+ブランド=ブランド商品」の形を取ることもあり得る。例えば、格蘭仕がその一例である。この方法であればブランドの重複投資の問題を避けることができる。

しかし、他社のブランドの独占使用権を購入するか、あるいはブランドの所有者と共同で合弁会社を作るといった手段ではなく、ブランドを賃貸したり、あるいはブランドの使用権の一部を購入する場合、そのような取引は非常に不安定である。なぜならブランドのような寡占市場では、売り手が市場を支配する力を持ち、取引条件は買い手にとって不利だからである。ブランドの売り手と買い手のいずれも巨大企業で、片方がノーブランドのメーカーであり、もう一方がブランドを持つ販売会社である場合、「双方独占」に非常に近い状況になる。この状況においては取引がその他の様々な条件に左右されてしまうことになる。さらにブランド取引の双方が相手側に対して、ある程度の資産特殊性を持っている。すなわち、一旦契約が解除された場合、双方の資産(製品の生産能力とブランド)を他の使い方に転用しても、資産価値が大幅に減少したり、あるいはコストが極めて高く計上されることがあり得る。従って、双方がいわゆる「契約後の機会主義的行動」を採用すること、例えば契約の中断を示唆することによって相手を牽制し、価格など有利な取引条件を引き出すといった行動に出る可能性は否定できない。取引を行う当事者の間に何らかの実力差があった場合、このような行為は、実力が相対的に弱い買い手の側に向けられることが多い。それが契約の不安定性と予想の不確実性をもたらし、取引コストを増大させることになる。もちろん、逆に言えば、もしブランド取引の双方の規模がいずれも小さく、ブランド市場の競争が十分であれば、ブランド契約に関する契約が非常に安定し、取引コストも比較的小さくなる。

上述した二つの原因を考慮すると、ブランド戦略を実施し、生産規模が巨大である企業(例えば、ハイアール)は「OEM戦略」ではなく、自らのブランドを拡張する戦略を徹底すべきであることがわかる。広告は、こうした戦略における比較的単純かつ「純粋」な形であるが、ほかの形と比べると、巨額の費用がかかる。ブランドは一種の観念であり、一種の名誉である。ブランドに対する投資には、他により安い方法、場合によってはコストの殆どかからない方法もある。例えば、(1)商品が広く使用され、品質が認められることによって、口コミでその商品の情報が行き渡り、ブランドの名誉が築き上げられること、(2)ある製品を生産する企業の責任者に対する現地の新聞報道と評論、(3)現地企業の従業員が企業に対して持つイメージと評論、(4)その企業の現地の証券市場における存在とパフォーマンス、(5)その商品のアフターサービス、(6)現地の学術界からのその企業に対する評価、(7)企業の現地における慈善活動、などである。広告を展開することとあわせて、これらの活動が企業ブランド戦略を構成している。これらの方法は、それぞれのメリットとデメリットを抱えるが、投資を行う目的に合わせてどの活動に重点をおくかが決められることになる。企業は、多くの活動が組み合わされたブランド戦略を採用することで、はじめて外国市場においても比較的安いコストで自分のブランドを確立することができる。

三、海外でブランドに投資する順序

海外戦略を展開する前には、ハイアールのように国内でよく知られているブランド企業であっても、海外市場では、殆ど人に知られていない。仮に現地の人々がハイアールのブランドが貼られている商品を見かけたとしても、ノーブランド製品と同様に見なされる。もしハイアールが海外市場に自社ブランドを拡張することにあるなら、まず何をすべきであろうか。

前述したように、ノーブランド商品に対する消費と評価がブランドの形成に有益である場合、海外市場においてブランドを確立させる最初の一歩は、その市場にその企業のブランドが貼られた製品を輸出することであろう。その目的は、現地の消費者に企業の製品とブランドを理解してもらうことにある。ブランド戦略の角度から見ると、製品の輸出は本来の目的ではなく、むしろブランド戦略の一つの手段であり、一つの段階である。従って、表面的には同じように見えたとしても、ノーブランド戦略と簡単に見なされるわけにはいかない。言い換えれば、仮にある企業が企業内において、ブランドを「生産」しようとしても、前述した「ブランド製品=(ノーブランド製品+ブランド)」であるように、時間の順序から言えば、まずノーブランドの製品が前提となって、その上にブランドが存在する。決してその逆ではない。これこそハイアールのやり方である。当初、海外市場の消費者は、ハイアールのブランドを知らず、彼らにとってその製品はノーブランド製品にすぎなかった。現地の消費者に短期間でその企業の製品を受け入れさせるために、最も良い戦略は低価格戦略である。事実、ハイアールの一部製品は低価格製品として海外市場でのスタートを踏み出したのである。このとき、中国の労働コストが安いという比較優位性、そして中国家電市場が巨大であることから生まれた規模の経済性が、ハイアールのこうした市場戦略を支えていた。中国の平均生産性はアメリカの25分の1しかないと見られているが、中国のトップ企業であるハイアールの場合、それほどの格差がないことから、労働コスト上の優位性を充分に発揮することができる。また、前述したように、他国企業も中国で工場を設け、ハイアールと同様に利益を図ることもできるが、それには時間がかかる。このタイムラグが、戦略の角度から見ると、ハイアールにとって有利に作用している。

もちろん、低価格戦略は、ハイアールがブランド戦略を展開するための手段の一つにすぎず、また唯一の手段でもなかった。海外市場への新規参入者として、ハイアールは市場の隙間から突入する戦術(ニッチ戦略)を採用した。つまり現地にすでに展開していた企業と真正面から衝突することを避けるために、新しい商品を開発し、すばやく成果を上げることを図った。そうすることで、すぐに販売収益を獲得できたばかりではなく、目立つ存在として知名度を上げることもでき、ブランドの確立に成功したのである。例えば、ハイアールがアメリカで販売した宿舎用の小型冷蔵庫とワインセラーがその一例といえるだろう。

製品が海外市場において一定の市場シェアを獲得した場合、戦略の第二段階、すなわち、現地化によって海外市場においてブランドを形成させることを開始してもよい。前述したように、広告を展開することは非常にコストがかかる。従って、広告への投資はあくまでもブランド投資の一部にとどめなければならない。広告のほかに、海外市場におけるブランドを確立する一つの重要な手段とは、「現地化」、すなわち、その地域において拠点を設けることを通じて、自分の「存在」をアピールすることである。「存在」しているからこそ、現地のメディアや公衆からの注目を受けることができ、「ただ」で宣伝することが可能となる。そして「存在」しているからこそ、現地の人々がその企業を自国の企業であると見なすようになる。文化上の親近感が生まれることで、ブランドの形成に微妙な影響を与える。しかし「存在」にも様々な形があり、例えば、代理店、駐在員事務所、合資もしくは100%子会社である販売会社、技術センター、あるいは製品を生産する工場、地域本部、会社総本部など、様々な形があり得る。それぞれのコストと収益は異なるため、どのような形を採用するのかにあたっては、具体的な分析が必要となる。

代理店または販売会社は、企業間では、単に商業契約に過ぎず、コストが非常に低いが、しかしその「存在」の影響も小さい。例えば、ハイアールが海外でカバーしている拠点は四万以上にも及ぶが、その殆どがこのような形のものである。販売会社を設立するには、大量の資源だけではなく、現地化の特徴も持たなければならず、そのコストが非常に高い。その影響は代理店や販売会社よりも大きいが、製造を中心とした企業では、販売会社の規模も、その影響も自ずから限界がある。比較的良い方法は、その企業の本国の販売ルートという資源を、海外企業が持つ現地での販売ルートという資源と交換することにある。このやり方では、双方が各自の市場資源を共同で使用することだけではなく、要素賦存の優位性(例えば安い労働力)を持つ側に有利となる。すなわち、比較的安い労働力で構成された販売ルートで、比較的高い労働力で構成された販売ルートと交換することができる。これこそ、ハイアールが三洋と合資し、販売会社を設けたモデルそのものである。一方、技術開発センターに関しては、現地の技術資源を利用する最も良い形であるが、人員規模が小さいため、大きな影響を作り出すことができない。最後の選択肢は、生産工場を設立することである。

現地で工場を設立することは、いつくかの有利な点がある。(1)「本国製造」のマークをつけることができる。例えば、「Made in USA」といったマークである。それは現地の消費者の心理に著しい影響を与える。調査によると、アメリカにおける35歳以上の消費者が製品の産地に非常に注意を払っている。(2)通常、製造業の規模は大きく、多くの従業員の雇用を実現するため、現地に大きな影響を及ぼす。(3)現地生産によって、現地の人々に企業の管理レベルを誇示することができ、商品の品質に対する市場の信頼を向上させることに有利である。(4)現地で工場を設ける結果、現地の業界団体などにも参加しやすくなり、現地の主流社会への参入に有利となる、といった点である。

しかし、現地で工場を作ることも高いコストを負担しなければならない。(1)資源優位性を持たない国家(例えば、労働コストが高いアメリカ)において、工場を設けることは、高い生産コストを負担することになる、(2)投資の金額が巨大であるため、市場が確実ではない情況では、大きなリスクと隣り合わせることを意味する。もっとも、この点については、タイミングを上手く選ぶことによってリスクを回避することが重要である。例えば、ハイアールのCEOである張瑞敏は次のように語っている。現地に輸出する製品の数量が、工場を設け生産を展開した場合の採算規模を上回ると、現地における工場の建設が考えられる。そうすることによって、市場のリスクを回避することができる。この点で、輸出と直接投資は決して表面上の代替関係だけではなく、むしろ時間上での前後関係にあるとも言える。

労働力コストに関しては、仮にアメリカの労働力が中国の十倍である場合、その他の要素によってアメリカでの労働コストの劣位性をカバーできてはじめて、アメリカにおける工場建設が有利になる。こうした要素の一つは、運賃の節約である。通常、アメリカ式の冷蔵庫は大型であり、その他の商品より輸送費が割高である。中国からアメリカまでのコンテナ一つあたりの輸送価格は約2650ドルであり、しかもそれには28個の冷蔵庫しか詰めることはできない。結局、冷蔵庫一台あたりの輸送費は94.6ドルにも及んでいるため、中国の安い労働力の優位性を失ってしまうのである。ハイアールが発表した価格によると、一台のアメリカ式大型冷蔵庫の価格は約700ドルで、業界の利潤率を25-30%で計算すると、そのコストは約500ドルである。労働力コストが総コストに占める割合は20%で計算すると、約100ドルであり、運賃とほぼ同じ金額である。従って、労働コストを考慮に入れても、ハイアールがアメリカにおいて冷蔵庫工場を設けることは有利になる。事実、運賃が高いことから、アメリカで販売されている冷蔵庫の95%以上がアメリカ本土で生産されている。

ハイアールはアメリカの南カリフォルニアに投資し、冷蔵庫工場を設立したが、すでに黒字を確保できている。ブランドに投資する角度から言うと、その工場に関する報道、及びその後現地に「ハイアール通り」が設けられたことは、更なる「収穫」である。こうした宣伝効果を狙うという考え方がハイアールの海外戦略のあらゆる具体的ステップに貫かれていたかもしれない。例えば、ニューヨーク・マンハッタン36番町に1400万ドルで「ハイアール・ビル」を購入したことも、採算性の取れた不動産に対する投資と見なされるべきである。しかし、アメリカ最大の商業中心地に作り出した文化的心理的影響、さらにメディアによる報道による知名度の向上も、ブランド価値の向上に寄与しているに違いない。このように、南カリフォルニアにある「ハイアール園」、マンハッタンにある「ハイアール・ビル」、そしてアメリカでの二つの研究センター、さらに何千何万にも及ぶブランド販売店まで、ハイアールというブランドの立体構造を共に築き上げたのである。こうした投資にそれぞれ直接のリターンがあるので、ブランドに対する投資額はほとんどゼロと見なされても良いのであろう。

海外市場の選択に関して、ブランド戦略の角度から見ると、明らかに市場規模の大きい市場を選択すべきである。なぜなら、前述したように、ブランドに対する投資自身が規模の経済性という性質を持っているからである。この規模の経済性は、特にメディアにおいて顕著である。例えば、Business WeekやTime、Fortune 、Forbesなど、そのいずれも大きな発行数を持ち、全世界に影響を与える雑誌である。一旦、企業に関するニュースがこうした雑誌に報道されると、それは明らかに小さな国のメディアより大きな影響を及ぼすことになる。しかも、前述したように、ブランドには多くの波及効果がある。国家の大きさが異なる場合も、波及効果は違ってくる。大きな国のブランドは小さな国に受け入れられやすい、しかし逆の場合は成立しない。さらに、アメリカのような国は、グローバル経済の中心かつ先頭的地位にあり、その市場におけるブランドの影響をそのほかの国に影響を及ぼしやすいが、その逆は成立しない。さらに、大きな市場では、企業がより細かな分業体制とさらなる安い中間財を利用することができる。これこそ、ハイアールの「先難後易」原則の背景である。もちろん、企業自身の規模の大きさが、その前提であることは言うまでもない。

ブランドの確立に加え、現地生産に伴うメリットとして、次のものがある。

1)本土企業の業界団体に加入することによって、企業は現地政府による技術基準と規制規定の変更を早く入手でき、迅速に対応できること
2)一部の発展途上国における関税障壁を回避すること
3)一部の先進国における非関税障壁を回避すること
4)国際政治と戦争のリスクを回避すること
5)港湾労働者のストライキによる予想外の損失を減少すること
6)現地企業として、所在国政府調達の入札に参加できること。

もちろん、こうした項目は海外のブランド戦略の角度と比べて、より低いレベルの問題である。

四、結論

従来の国際貿易の理論は国家を単位にしており、比較優位が議論の中心である。直接投資を合わせて考えると、その意義を失ってしまう。なぜなら、企業が海外直接投資を行う際、他国の優位な資源を活かすことができるからである。伝統的な国際貿易理論では、価格が同じであることが想定され、生産コストの分析が重視されている。しかし、企業のブランド戦略は逆に製品の市場価値の向上に焦点を当てている。このことはわれわれに新たな研究方向を示唆している。

本文の結論は以下のとおりである。

(1)ブランドが製品の価値を向上させることが可能であることを考えると、国際経済活動を分析する際、コストだけではなく、市場価格にも十分注意を払う必要がある。

(2)ブランド投資だけではなく、ブランドの使用の面から見ても、ブランドは非常に強い規模の経済性を持っている。従って、収穫逓増の国際経済理論をもって、ブランドの海外戦略を分析することができる。

(3)ブランド投資の規模経済性ならびにブランド取引のコストが非常に高いことから、規模が大きく、国内においてブランド戦略に成功している企業が、海外へもブランド戦略を実行すべきである。

(4)広告の他に、企業の製品や拠点が海外市場にもたらす「存在」も、ブランドを形成させる重要な手段である。

(5)海外におけるブランド戦略を分析する際、ブランド戦略と個別項目という二つのレベルがある。個別項目のレベルにおいてできるだけ損失が生じないように努力すべきであり、ブランド戦略のレベルでもより大きなブランド価値の拡大を求めるべきである。もちろん、極めて特殊な場合、ブランド戦略のため、個別項目の利益を一時犠牲にすることが考えられる。

(6)従って、企業の海外戦略を考える際、ブランドに関する国際経済理論を基礎に置き、比較優位と、収穫逓増の国際経済理論を総合的に運用し、分析と政策策定に取り組むべきである。

2003年7月28日掲載

出所

盛洪氏からの寄稿

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2003年7月28日掲載

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