Special Report

トランプ関税米国最高裁判決とトランプ関税の今後

川瀬 剛志
ファカルティフェロー

昨春から法廷闘争が続いたトランプ関税だが、ついに米国連邦最高裁判所が下級審判断を支持し、トランプ大統領が累次発動してきた国際経済緊急権限法(IEEPA)を根拠とする相互関税、および中国、カナダ等に対する国別関税を、同法違反とする判断(注1)を示した。結果は6-3であり、多数意見は保守派のロバーツ最高裁長官が執筆、リベラル派のジャクソン、ケイガン、ソトマイヨールに加え、保守派からもバレット、ゴーサッチの各判事が賛同した。これに保守派のアリート、カバノー、トーマスの3名が反対した。昨年11月の口頭審問のスタンスがそのまま反映された格好だ(注2)。

それぞれの賛否をもう少し詳しく説明すると、第I部(事実概要、手続概要)、第II部A-1(憲法上の関税賦課の権限)および同B(IEEPAの解釈とトランプ関税の法令整合性)については、多数派6名全員が賛同、ただし第II部A–2(重要問題法理)についてはバレット、ゴーサッチのみが賛同した。バレット、ゴーサッチは同意意見を提出、ケイガンも同意意見を提出し、後者にはソトマイヨールとジャクソンが賛同、ジャクソンも別途同意意見を提出した。他方、トーマスとカバノーがそれぞれ別個に反対意見を提出し、後者にはアリート、トーマスが賛同している。

法的議論に鑑みれば、結果は妥当で予想されたものであり、アリートらの反対意見はむしろ党派性の表れである(Khardori 2026)。また、本件判断によって、判事の多数を保守派が占めていることで最後は最高裁が政権を救う、というトランプ政権運営の前提が崩れたこと、そしてトランプ大統領も最高裁は無視できなかったことが明らかになった(Khardori 2026)。

I. 判決概要

判決全体は170ページに及ぶ大部だが、多数意見はその1割強の21ページでしかなく、その概要は以下のとおり要約できる。なお、読みやすさのために若干言葉を補い、再構成している箇所があるので、適宜原典を確認されたい。判決には個別の意見ごとにページ数が振られているが、以下のページ数は、特に別途明記されない限り、全て多数意見(Opinion of the Court)のものである(第II部A–2のみロバーツ長官の個別意見)。

■第I部A(事実概要)

トランプ大統領は就任後まもなく、違法麻薬の流入と貿易赤字という、外国に起因する二つの脅威に対応すべく、IEEPAを援用した。IEEPA の下で大統領は主に海外を起源とする米国の安全保障、外交、経済への「異常かつ特別な脅威(unusual and extraordinary threat)」を特定し、緊急事態を宣言する。そして指示、許可、その他の手段によって当該脅威に対処すべく、輸出入の規制等の措置を取ることができる(p.2)。

トランプ大統領は麻薬流入・貿易赤字を異常かつ特別な脅威とみなし、緊急事態を宣言した。その結果、麻薬流入についてカナダ、メキシコに25%、中国に10%の関税を課した。また、相互関税については、全世界に最低10%の関税を課した。その後、中国については頻繁に税率を改定した。また、後日、牛肉やコーヒーなど一定の産品を除外した。そのほかに中国の高関税を停止するなど、さまざまな調整を繰り返した(pp.2–3)。

■第I部B(手続の概要)

Learning Resources 事件原告(中小企業2社)は連邦ワシントンDC地裁に、またV.O.S. Selections事件原告(中小企業5社とニューヨーク州ほか計12州)(注3)は国際貿易裁判所(CIT)にそれぞれ本件を提訴した(pp.3–4)。

政府はLearning Resources 事件のCITへの移管を試みたが、連邦ワシントンDC地裁はこの申し立てを退けた。地裁は原告が申し立てた課税の仮差し止めを認容し、IEEPAが大統領に関税課税を許容していないと判断した。V.O.S. Selections事件ではCITは略式判決を行い、連邦高裁大法廷はこれを支持した。高裁は、範囲、額、期間において制限のない関税の賦課をIEEPAは認めないとしたCIT判決を支持した。カニンガム判事は同意意見において、IEEPAはいかなる関税の賦課も大統領に認めないと説示している(p.4)。

政府はV.O.S. Selections事件について、最高裁に迅速審理及び上告の申立てを行った。また、Learning Resources 事件原告は高裁判決前の上告を申し立てた。最高裁はこれらを認容し、2件の審理を併合した(pp.4–5)。

■第II部

大統領はIEEPA1702条(a)(1)(B)の二つの単語「規制する(regulate)」と「輸入(importation)」に基づいていかなる国からの、いかなる産品の輸入に、いかなる率で、いかなる期間において関税を課すことができると主張するが、この二つの単語はそのような重要性を担うものではない(p.5)。

■第II部A-1(憲法上の関税賦課の権限)

合衆国憲法第1条8節の冒頭に課税権が議会にあることが明記されるが、これは偶然ではなく、それが連邦に付与された最も重要な権限であるからだ。関税は課税権の一部であり、歳入をもたらす。課税権独自の重要性と代表なき課税がアメリカ独立の動機になっていることに鑑み、憲法起草者(“the Framers”)は合衆国憲法第1条7節1項によって政府を支えるのに必要な歳出は下院だけが提案できることを確保することによって、他部門の権限の肥大化を抑止した。起草者は行政に課税権を与えなかった。政府も、大統領には関税賦課の固有の権限がないことを認め、また問題の関税が交戦権の行使であるとも抗弁していない。よって政府はもっぱらIEEPAに依拠し、同法にある「規制する」および「輸入」を大統領に際限のない額および期間において関税を課す権限を議会が与えるものとして解釈している(pp. 5–7)。

■第II部A–2(重要問題法理)

われわれ最高裁はかねてより、法律の曖昧な文言に議会によるその権限の特別な委任を読み取ることに消極的であった。われわれはこうした先例を「重要問題事案(major question cases)」と称した。これらの事案では、政府は定義上の問題として自らが主張する広範な権限を与えるものと法令を解釈するが、解釈対象以外の法令上の文言、憲法上の構造、常識を含む文脈(context)に照らして、われわれは懐疑的にならざるを得なかった。権力分立および立法意図は、議会が重大な帰結をもたらす権限を曖昧な文言によって委譲することはないことを示唆する。同様に考えれば、議会にとって最も完全かつ実効的な強みになる国庫に関する権限を他の部門に委譲する場合、合理的な解釈者であればこれが明示的に行われることを期待するであろう。他の通商法令(合衆国法典(U.S.C.)第19章所収)を参照すれば、この常識が示唆するところは議会の慣行とも一致する(pp.7–9)。

行政府はIEEPAが大統領に一方的かつ無制限な関税を課す権限を与えると解し、その解釈によれば、大統領は他の関税法にある手続的制約もなく、目まぐるしく修正を行うのも自由である。議会の審査もなく、唯一の制約は、両院の3分の2の多数決による、大統領の拒否権に服さない緊急事態終結の両院決議のみである。これは大統領の関税政策、ひいてはより広範な経済に関する権限の変革的拡大である。IEEPAの半世紀に及ぶ歴史において大統領は同法を援用して関税を課したことはなく、他の法令によって行ってきた。それらは規模や範囲において問題のIEEPA関税には全く及ばないものであった。これらのことはIEEPA関税が大統領の正当な権限を超えていることを示唆する。大統領が主張する権限の経済的・政治的重大性についても、政府によれば関税が国家赤字を4兆ドル削減し、関税に依拠して締結した通商協定は15兆ドル相当に及ぶなど、IEEPA関税の経済的・政治的帰結は驚愕(きょうがく)すべきものがあり、これまでの重要問題事案を凌駕する。先例と同様、合理的な解釈者は議会がかかる重大な政策判断を他の部門に委ねるとは予期しないであろう(pp.9–11)。

本件に重要問題法理の適用を回避する政府および本件反対意見の議論も説得的でない。第一に、政府は緊急事態法制に当該法理の適用はないと主張する。未知の緊急事態に対応する裁量を与えることが重要であるから緊急法制は広く解釈する、との議論は先例において却けられたが、本件でも同様である。例えばIEEPA1号案件のイラン大使館人質事件の緊急事態さえ今日まで継続するなど、緊急権限が緊急事態をあおる傾向にある。先例で述べたように、緊急事態は自らの権限を収奪する口実となることを議会が懸念しているので、議会は無制限な権限の委譲には明確な文言を用いると予期できる(p.12)。

外交問題例外については、確かに大統領には外交・防衛の文脈で実質的な裁量を付与するが、関税についてはもっぱら議会が権限を有している以上、外交に関係する権限のいかんにかかわらず、曖昧な文言によって議会が関税に関する権限を大統領に委譲すると期待することはできない。政府・反対意見の中核的な主旨は、最重要の重大問題を扱う曖昧な委任規定は広く解釈されるべきとのことのようだが、むしろその場合にこそ、包括的な権限委譲が曖昧な文言に潜むとするとする主張に警戒すべきである(pp.12–13)。

よって、関税賦課権限の特別な権限行使を正当化するため、大統領は明確な議会の授権を示す必要があるが、できなかった(p.13)。

■第II部B(IEEPAの解釈とトランプ関税の法令整合性)

IEEPA1702条(a)(1)(B)は大統領に「輸入または輸出を調査し、調査継続中はこれを差し止め、規制し、指示を与え、強制し、無効化し、取り消し、防止し、または禁止する」権限を賦与するが、関税に言及はなく、議会が特に明示した権限との対比でこの省略は際立つ。当然のことながら、議会が関税賦課の権限を付与する意図があったならば、明示的にそう定めていたであろう(p.14)。

「輸入を…規制する」の文言もこの空白を埋めるものではない。「規制する」の辞書上の定義によれば、政府が日常的に行うことの多くを捕捉する広いものだが、課税は含まない。政府は連邦法において規制が課税権を含む例を示せず、IEEPAにおいてのみ議会が「規制する」に課税権の移譲を込めたとする解釈には、当法廷は懐疑的である。課税は規制目的を達成するが、議会は規制権と課税権の両方に言及する場合、別個かつ明示的に行ってきた。また、これに反する解釈は部分的に違憲である。IEEPAは「輸入または輸出を規制する」と規定しており、(仮に規制が課税を含むと輸出税を課すことになるが)合衆国憲法1条9節5項は輸出税を禁止している。「規制する」の前後の動詞からして、IEEPAには収入を生じる明確かつ特別な権限は含まれていない。いかなる大統領もIEEPAにそのような権限を見出したことがないという事実も、そのような権限が存在しないことを強く示唆する(pp.14–16)。

本件の争点でないので、当法定は大統領の「輸入を…規制する」権限の画定を試みるものではない。本件での当法廷の任務は、「輸入を…規制する」権限が関税賦課の権限を含むか否かを判断することのみだが、当法廷は含まれないと判断する(p.16)。

政府はさらに論拠を提示している。まず初期の学説・最高裁判例は、州際通商条項の文脈で関税を論じているとの指摘だが、これは本件での問題は関税が通商規制の手段たりうるかではなく、大統領が関税賦課権限を有しているか否かなので、誤った問いへの回答である。また、政府は文脈として、(IEEPA1702条(a)(1)(B)に規定される大統領の行為の範囲の中で)「規制する」が両極端、つまり「強制」という積極的な極と「禁止」という消極的な極の中間に位置するため、より穏健で柔軟な手段として関税を含むと論じる。しかし、収入を生じる関税は性質が異なるもので、この両極の間に位置しない(pp.16–17)。

次に政府は、IEEPAの前身である対敵国通商法(TWEA)下でのヨシダインターナショナル事件連邦税関特許控訴裁判所判決(1975)が限定的な関税賦課を大統領に認め、議会は1977年の立法時にIEEPAにも同様の権限を移入したと主張する。時に司法による意味の明確化を議会が立法に取り込んだと判断する場合もあるが、問題の用語の意味が十分確立された時のみである。専門的な控訴裁判所による単一の、明示的に限定された見解はこれに当たらない。さらに、ニクソン大統領が主張した関税権限は、敵国の制裁というTWEAの本来の目的から大きくかけ離れており、当法廷は議会がそうした新しい権限を賦与する目的でIEEPAを立法したとの主張には懐疑的である(pp.17–18)。

政府は戦時の大統領権限にも言及するが、その権限が何であれ大統領は関税を賦課する平時の権限を有さない。また、戦時中の判例から数回のTWEA改正を経てIEEPAに結びつけることは、わずかな起草史からの推論に依存する希薄な関係であって、平時の広範な関税賦課の権限を大統領に賦与するものとIEEPAを解する根拠とは認められない。政府は1962年通商拡大法232条に関する最高裁判例にも言及するが、同条は大統領の取る措置に包括的な権限を与えており、また明示的に関税に関する権限にも言及しているため、IEEPAの解釈には関係ない。最後に、政府が援用したデイムズ&ムーア事件判決(1981)は、「規制する」にも関税にも関係ない(pp.19–20)。

■第III部(結論)

文言の広さ、歴史、憲法上の文脈に鑑みて、大統領が額、期間、範囲に際限なく一方的に関税を課すには、議会による明示的な授権を要する。IEEPAによる「輸入を…規制する」権限はこれに満たない。当法廷は経済や外交に関する権限を有しないが、合衆国憲法3条が賦与する責務を果たし、IEEPAは大統領に関税賦課を許可しないと判示する(pp.20–21)。

II. 解説

■大統領と関税

以上のように、多数意見はIEEPAが大統領に範囲、額、期間に制限なく関税を課す権限を与えるとする政権側の解釈を退けた。その前提は憲法上関税を含む課税権はあくまで議会にある点だ。

この点は米国の通商交渉の歴史を見ても明白だ。多数意見はIEEPAで関税引き上げを行った先例がないことを指摘しているが、交渉目的の大統領による関税率決定のためには、これまでGATT・WTO交渉やFTA締結のために貿易促進権限(Trade Promotion Authority—TPA)、あるいはファストトラック(fast track)と呼ばれる時限的な権限委譲を受けなければならなかった。それゆえ、歴代政権は関税を武器化した交渉ができなかった(西山 2026)。現時点ではこのTPAは失効している。

しかるにトランプ大統領は、IEEPAを根拠に一方的に関税率を設定し、二国間交渉を経てこれを修正し、またその間もさまざまな理由で頻繁に税率や対象産品を変更してきた。さらに、明示的に交渉権限を大統領に与えるTPAの下でさえ、交渉の結果決まった関税率は他の合意パッケージとともに最終的に議会の承認を要する。しかし、今回の一連の「ディール」はこうした議会の承認を受けていない。TPAは行政府に通商交渉の裁量を与えるため、議会が後から合意内容を事細かに修正することは控え、行政府が相手国と妥結してきたパッケージをそのまま受け入れるか否かの審議にとどめることを保証するのみで、決して議会の承認なしに大統領が国際交渉で関税率を決定する権限を与えるものではない。また、今回の相互関税のように、交渉に先立って大統領が税率を設定できるものではない。

また、IEEPAの下での緊急事態宣言は数十年単位で継続し、両院決議によって緊急事態が終結した事例もない(CRS 2025: pp.65–66)。多数意見が述べるように、IEEPAにおける大統領の権限に対して議会の事後的なチェックはほとんど機能しないため、もし関税の引き上げがIEEPAに含まれると解釈すれば、実質的に関税課税権の議会から大統領への移譲につながる。

さらに、現在の米国は、関税が税収に占める比率が先進国では例をみないほど高い税収構造に変化しており、IEEPAに基づく関税収入は巨額で、安定財源化しつつある(日経電子版2025.7.17)。それゆえ、一連のトランプ関税はトランプ減税法(「ひとつの大きな美しい法案法」One Big Beautiful Bill Act)の中心的財源と位置付けられており、もはや通商政策の手段にとどまらず、実質的な税収源になっている。多数意見は建国時の「代表なくして課税なし」の原則に言及しつつ、課税権がもっぱら議会に属することを説いているが、IEEPA下の権限によって大統領に関税引き上げを認めることは、課税権全体で見ても、その実質的な部分を大統領に委譲することに他ならない。

■重要問題の法理

本件の中核的な争点はIEEPAの「輸入を…規制する」が関税を含み、大統領に関税引き上げの権限を与えるか否かである。その際、下級審は「重要問題法理(major question doctrine)」を援用し、これを否定した。重要問題法理とは、行政府が重要問題に関する規制権限を主張する場合、議会がこれを明示的に委譲していることを求めるものである。 まず重要問題事案とは、最近の判例によれば、「当該機関が主張してきた権限の『歴史的経緯と範囲』およびその主張の『経済的・政治的重大性』が、『議会がそのような権限を付与する意図があったと結論づける前に躊躇すべき理由』を提供する事例」と定義される「特別な事案(extraordinary case)」とされる(Levin 2024: p.136)。ある事案が重要問題であるか否かについては、先例は①問題となる行政府の行為の歴史(当該行為が「未知(unheralded)」か)、②変革の幅(政府の主張する権限が権力の「変革的拡大(transformative expansion)」か)、そして③経済的・政治的重大性の3点を検討してきた、とされる(Kelly 2025)。

本件も基本的にこの枠組みに沿っており、多数意見は① IEEPAにより大統領が関税を発動した先例がないこと、② 実質的に制約のない関税引き上げを大統領に認めることは広範な経済に関する権限の根本的変化であること、③ 巨額の赤字削減や貿易協定の締結は経済的・政治的に重大であることを指摘している(pp.9–11)。この結果、多数意見は本件を重大問題事案であると認定している。

次に、明示的な権限の委譲の有無については、ウェストバージニア州対環境保護局事件最高裁判決(2022)によれば、行議会の権限委譲の立証にあたり、政府がある権限を有するとの「もっともらしい」あるいは「一見正当な」法令解釈上の主張のみでは不十分であり、「三権分立…及び立法意図の実践的理解」によって、行政府は議会による明確な授権を提示することを要求される(Capozzi 2025: p.523)。

文言上、「輸入を…規制する」という表現それ自体は、必ずしも関税を排除しているわけではない。多数意見も、「規制する」の範囲が極めて広いことを認める(p.14)。また、経済的事実として輸入の規制には関税が含まれることに加え、議会の国際貿易に関する規制権限を規定した州際通商条項(合衆国憲法1条8節3項)には関税の文言こそないが、歴史的に議会は関税が輸入を「規制する(regulate)」手段であることを認識していたことが指摘されている(Hufbauer 2025; Squitieri 2026)。カバノー判事の少数意見も、文言解釈や歴史解釈に鑑み、議会が輸入の規制に関税が含まれると理解していたことを詳細に指摘している(Kavanaugh, J., dissenting, pp.9–31)。

カバノー判事は、特に上述のヨシダ判決で問題となったニクソンショック時の関税(国際収支保護目的の課徴金10%)について、議会がIEEPAにもあるTWEAの「輸入を…規制する」を根拠にこれが課税されたこと、及びヨシダ判決がこれを認容したことに言及した議会報告書に言及し、議会がこの「輸入を…規制する」に関税賦課が含まれると解釈していたことの証左であると述べた。その上で、仮に議会が「輸入を…規制する」に関税が含まれないと理解していたら、別の文言を用いたであろうと指摘する(Kavanaugh, J., dissenting, pp.15–16)。もし仮にTWEAと同じ文言を使ってもIEEPA立法時に関税を除外したのであればそれを原告が立証すべきであり、それゆえヨシダ判決と本件の関連を実質的に議論しなかった点について、多数意見は批判される(Squitieri 2026)。

しかし多数意見は、法令中の他の文言、憲法上の構造、常識を含む文脈(context)から、かように無制限な関税賦課の権限を明示的な委譲によらず議会が大統領に与えることはない、との結論を導いている(p. 8)。多数意見は上記のように議会の課税権の実質的な委譲になることに鑑みて政府の解釈に妥当性を見出さなかったのであり、米国の三権分立の文脈に鑑みた判断と言える。ゴーサッチ判事が同意意見で述べているように、重大問題法理は、曖昧な法の文言の解釈について行政府の意向に従い、議会を無視することによって三権分立が機能せず、大統領の独裁化に陥ることを防ぐことに資する(Gorsuch, J., concurring pp.16–17)、という理解に基づく判断なのだろう。

もっとも、重要問題法理については、行政府の弱体化、保守派優勢の党派性を反映した判断が惹起する最高裁の正統性に対する懸念、法理としての不確定性といった問題点が指摘され(Levin 2024: pp.961–967)、学界の大勢はこの法理に批判的だという(Capozzi 2025: pp. 513–514)。また、カバノー判事は、そもそも外交問題には重要問題法理の適用はないと主張している(Kavanaugh, J., dissenting, pp. 45–57)。加えて、冒頭に述べたとおり、この部分(多数意見II部A-2)のみ、ロバーツ長官と同じく保守派のゴーサッチ、バレットのみが賛同し、リベラル派の3名は賛同しなかった。本件は6-3でなく、実は本件は3-3-3と言われるゆえんである(Squitieri 2026)。重大問題法理それ自体の妥当性、そして本件における適用の是非をめぐって、多数意見には批判的検討の余地が残されている。

III. トランプ関税の今後

■続々と示される「プランB」

トランプ関税はIEEPAに基づく相互関税と国別関税に加えて、1962年通商拡大法232条に基づく品目別関税の3本柱で構成されるが、今回IEEPAに基づく2本が無効になった。筆者のみならず、おそらく大方の専門家の予想どおり、トランプ大統領は早速1974年通商法122条に基づく一律10%関税の賦課を2月20日の大統領令によって決定し、翌日にはこれを15%に改めるとSNSで発信している。122条では、大統領は「大規模かつ深刻な(large and serious)」国際収支赤字への対処や「急迫かつ相当の(imminent and significant)」ドル下落の防止等に対応するため、現行の関税率に最大15%を上乗せできる。

筆者が122条を予想した理由は、大統領にとって、これが全世界・全品目に包括的かつ一律に課税できる唯一のツールであるからだ。加えて、これまでの2国間合意を参照すると、日本、EU、韓国は15%、低いところではイギリスの10%、高いところでも東南アジア諸国の19%と、15%±5%の数字が多いことに気づく。相互関税を発表した4月2日(「解放の日(Liberation Day)」)からふた月とたたない5月28日には、V.O.S Selections事件を扱ったCITが、翌日にはLearning Resources 事件を扱った連邦ワシントンDC地裁が、それぞれIEEPAに基づくトランプ関税を認めない判断を示した。各国との交渉が大詰めを迎える7月末の連邦高裁の口頭審問でも、裁判官からは政権に厳しい意見が相次いだという(Inside U.S. Trade, Aug. 8, 2025)。それゆえ、トランプ政権は早くからこの結末を予想し、その代替手段として122条が念頭にあったとすれば、上記の15%を中心とした各国との関税率の設定も納得がいく。加えて、トランプ大統領が最高裁判決後、122条措置を発動すると即刻発表したことからも、前々から準備があったことをうかがわせる。また、当初10%と公表したのも、相互関税のベースライン(相互関税は10%+国別関税で構成されている)を意識したのだろう。

もっとも、122条関税は全世界一律、無差別でなければならない。一部の国を適用除外とできるが、相互関税や国別関税のような国別の税率設定は許されない。グリア通商代表は一部の国は15%より高くなる、と述べているが(フォーブス2026.2.26)、その根拠は不明だ。また、150日間しか課税できず、期限を迎える7月末に延長のために議会の承認(法令の文言は“Act of Congress”とあるので、正確には立法)を要する。

しかし今秋の中間選挙を控え、議会の協力は見通せない。昨秋の世論調査では米国民の7割が物価上昇の原因を高関税であると捉え(ジェトロ2025.11.20)、最高裁判決直前の米ABCによる調査でも6割以上がこれに反対している(毎日東京朝刊2026.2.22)など、関税は不人気だ。加えて、ニューヨーク連銀は関税の9割を米国民が負担しているとの調査結果を公表し(Amiti et al. 2026)、トランプ大統領がかねてから繰り返してきた「関税は外国が負担する」というナラティブも客観的に否定された。政権幹部は否定しているものの、「アフォーダビリティー」重視で、もはやトランプ政権でさえ鉄鋼・アルミ232条関税の適用範囲を絞り込むことも視野に入れているという(ロイター2026.2.13; 日経電子版2026.2.14; ブルームバーグ2026.2.25)。こうした状況を受けて、2月11日には共和党から造反者が出て、対カナダ関税無効化法案が下院で可決されている(日経電子版2026.2.12)。実際、下院共和党の中には、中間選挙との関係で既に122 条関税及びその延長に否定的な意見を示す議員がいる(Politico, 2026.2.23)。今回の判決を受けて、ジョンソン下院議長もトランプ関税の立法化は難しい、と述べており、この発言からも122条関税の延長への下院共和党の協力は期待できないだろう(Politico, 2026.2.23)。

そもそも122条の発動要件が充足できるのかも問題だ。同条が求めるのは国際収支(balance-of-payments)の危機であって、いわゆる貿易赤字ではない。トランプ大統領は物品貿易の赤字について危機感をあらわにするが、国際収支はサービス取引や投資収益、さらにはこうした経常収支以外の金融収支や資本移転収支も含めたより包括的な概念になる。早くも多くのエコノミストがドルは底堅く、「米国が債務を支払えない、あるいは海外投資家に対する義務を履行できないことを示す証拠がない」と言い、有識者たちも米国には国際収支の危機は見当たらないと述べている(ブルームバーグ2026.2.23)。このように発動根拠が脆弱であれば、少なくとも向こう150日間は納めることを余儀なくされる関税の還付を求めて訴訟が起きないとも限らない。ある共和党下院議員は既に敗訴を予想しているという(Politico, 2026.2.23)。

他方、国別関税や相互関税の上乗せ部分が実現する国別の税率設定は、1974年通商法301条が援用されることが予想される。実際、グリア米国通商代表は主要国の大半に対してこれを行うことを表明している(ロイター2026.2.21)。また、追加の232条調査も予定されていることが報じられているが(Bloomberg 2026.2.24)、ベッセント財務長官は122条が301条、232条への「つなぎ」となる、と説明している(ブルームバーグ2026.2.23)。ただ、いずれも法令上は原則として1年程度の調査期間や措置の検討を要するため、仮に122条措置が7月下旬で失効する場合、空白が生じる可能性もある。

また、232条、301条は時間的・手続的な制約に加えて、発動理由にも制限があることに留意しなければならない。先に述べたように、232条は安全保障、301条は海外の不公正貿易慣行が対象である。したがって、IEEPAに基づく国別関税を発動した際に依拠した政治経済・外交上の理由(例えば貿易赤字、不法移民、国内政治、ロシア産原油の購入など)では232条や301条を発動することはできない。

なお、301条調査についてはどの程度の件数が見込まれるかは不明だが、グリア通商代表が主要国の大半、と述べていることから、おそらくはカナダ、メキシコ、日本、EU、韓国、インド、ブラジルなど、貿易額や貿易赤字が大きい相手国やIEEPAで国別関税を課していた国々を優先し、4月2日の相互関税発表日のように、ペンギンしか生息しないニュージーランドの離島(ノーフォーク島)までくまなく、ということではないようだ。「ペンギン島」どころか、オーストラリア、ニュージーランド、中南米諸国などの「中間層」まで調査対象から外れ、122条関税の失効後はトランプ関税後に戻る、との観測もある(日経電子版2026.2.24)。USTRの組織的リソースの制約もあり、貿易量が少ない国については基本的にMFN関税でも差し支えない、と割り切ることはあり得るだろう。

■関税だけではなく…

しかし注意すべきは、今回の最高裁判決は、IEEPAを根拠とする関税に関する大統領権限を否定したに過ぎないという点である。5月のV.O.S. Selections 事件CIT判決は、相互関税・国別関税が移民問題の解決に間接的であることから、IEEPAが規定する「異常かつ特別の脅威に対応する(deal with any unusual and extraordinary threat)」行為に該当しないと判断したが、今回、最高裁多数意見はこの点に一切言及していない。よって、上記のさまざまな政治経済・外交上の理由でIEEPAを援用することは、依然として妨げられていない。

また、IEEPAは輸出入を規制する権限を大統領に付与しているので、関税によらない通商措置は依然として妨げられていない。実際、IEEPAは、古くは80年代のニカラグア紛争時、直近ではウクライナ侵攻に対する対ロシア輸入制限など、禁輸措置の発動に援用された例が少なくない(CRS 2025: pp.79ff)。カバノー判事少数意見も原告も多数意見もこの点は認めていると述べており(Kavanaugh, J., dissenting, p.4)、ベッセント財務長官はむしろ大統領の影響力はある意味大きくなる、とさえ述べている(ロイター2026.2.21)。筆者もかねてから、貿易赤字が問題ならなぜ輸入制限を用いないのか、その方がトランプ政権もIEEPA適合性が予見できるのになぜあえて関税かについては疑問を抱いていた(おそらくは減税の財源となる税収と、例えば「中国に100%!」のようなポピュリズム的わかりやすさとインパクトが理由だろうが)。今回の判決を受けて本来の形に戻るかもしれないが、依然として米国市場へのアクセスを武器化できることに変わりはない。

■混迷が予想される払い戻し

最後にもうひとつ判決が「言わなかったこと」に焦点を当てるなら、払い戻しの問題である。正当な課税根拠を失った相互関税・国別関税は還付されるべきだが、その額はペンシルバニア大学の試算によれば、1,750億ドルに上るという(ロイター2026.2.20)。今回の最高裁判決が遡及的還付を命じなかったことから、今後、個別訴訟で払い戻しが争われることになるが、既に1,500件とも1,800件とも言われる訴訟が提起されていると報じられ、それらの訴訟は数年に及び、返還のプロセスには困難を伴うという(ロイター2026.2.24; ブルームバーグ2026.2.24; 日経電子版2026.2.27)。

また、返還と言っても、誰に返すのかも問題だ。納付した輸入者に対する還付は納付の記録があれば比較的容易だが、既に税は川下に転嫁され、輸入者に返還すると、彼らの二重取りの可能性がある(Kavanaugh, J., dissenting, p.113)。また、輸入業者が関税還付までの時間と手間を嫌って、還付の権利を転売する取引市場まで出来つつあるというが(日経電子版2026.2.27)、もうこうなればなんでもありだ。

既に本件原告はCITでの還付に向けて動き出しているというが(ブルームバーグ2026.2.25)、カバノー判事が反対意見で述べているように(Kavanaugh, J., dissenting, p.6)、還付は「混迷(mess)」に陥ることは不可避のようだ。

IV. 日本はどうすべきか

この最高裁判決を受けて、トランプ大統領は、自身のSNSでゲームに興じる国にはより高い関税を課すと恫喝し、最高裁判決を受けて再交渉を求める声が起こることを牽制している。2月24日の一般教書演説でもまた、全ての国がはるかに悪い事態を恐れて、これまでの合意の遵守を望んでいる、とあくまで強気だ。これに対して、EUは欧州議会における米国との二国間協定の承認を保留した(European Parliament 2026.2.23)。またイギリスは10%で合意した関税の引き上げにつながることから、英米協力の継続を希望する一方、対抗措置も排除しないという(Independent 2026.2.22; 日経電子版2026.2.21)。

さて、日本はといえば、自動車の232条関税を15%で合意し、またキッチンキャビネットに対する232条関税でも優遇措置を受けていることから、再交渉等を申し入れる状況にないという(時事2026.2.22)。また、日米同盟の堅持のより大きな文脈に鑑みても、「成果を出す同盟国」を期待するトランプ政権に対しては再交渉を持ち出すことは賢明ではなく、投資は政治的なプロジェクト、事業を通して日米の経済安全保障や重要産業の強化が進むことや「多面的な日米の協力関係」を考慮して実施すべきだという(ハドソン研究所・チョウ日本担当副部長、産経2026.2.21)。

しかしながら、日米関係の現実として、強硬策や再交渉を容易に取り得ないにせよ、7月の日米合意の前提となるトランプ関税の先は見通せない以上、このままトランプ大統領の言いなりで日米合意の履行を進めることは危うい。赤澤経済産業大臣は合意済みの5,500億ドルの対米投資は搾取ではない、というが(2026年2月20日閣議後記者会見)、今後の展開次第ではその可能性もないとはいえない。もし搾取でない、というなら、「まさかの時の友こそ真の友」たらんとここぞとばかりに前のめりに米国に売り込むのではなく、あくまで日本の利益になる投資を前提に、今後のトランプ関税の推移を見極めながら、慎重に案件の選定を進めることだ。

その一方で、米国の通商政策がますます不透明感を増す中で、貿易立国としての日本の存立基盤となる国際通商体制の維持のために、先日のダボス会議におけるカナダのカーニー首相の演説(日本語訳はこちら)にあったように、カナダ、EUなど他のミドルパワーと協力の上、CPTPPの拡大交渉やEUとの連携、WTO改革を進めて行くべきだ。添谷芳秀慶應義塾大学名誉教授は、カーニー演説は事実上、日本の対米外交への警告だ、と断じた(毎日2026.2.17朝刊)。単に今回の判決を好機とばかりにトランプ政権に取り入るばかりでなく、大多数の法の支配を尊重する国々との連携をリードすることが求められる。

脚注
  1. ^Learning Resources et al. v. Trump, No.24–1287, Slip. Op. (Super. Ct., Feb. 20, 2026).
  2. ^ 口頭弁論の様子はFleetwood 2025を参照。
  3. ^ 元々はV.O.S. Selections事件と別に、オレゴン州ほか12州による訴訟が提起されていたが、CITでこの2件が併合されている。よって今回の最高裁は実質的に3件の訴訟の上告を審理したことになる。
参考文献

2026年2月27日掲載