Special Report

中堅・中小企業によるグローバル価値共創の実現を目指して

坂本 雅純
RIETI コンサルティングフェロー / 経済産業省 関東経済産業局 総務企画部 国際課 国際企画係

2017年、経済産業省に入省(関東経済産業局)。地域経済分析システム(RESAS)普及やSDGsビジネス支援等に従事した後、2019年より貿易経済協力局貿易振興課にて、デジタルインフラの海外展開や第三国市場協力、サプライチェーン強靭化関連施策等に従事。2021年より関東経済産業局 総務企画部 国際課にて、中堅・中小企業の海外展開支援や外国企業の対日直接投資促進、安全保障貿易管理関連を担当。早稲田大学卒(歴史学士)。

北角 理麻
経済産業省 経済産業政策局 アジア新産業共創政策室 室長補佐

新卒で外資系医療機器メーカーJohnson & Johnson社に入社後、臨床検査薬部門にてマーケティングや研究開発に従事。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)国際事業部にて、アジア地域との共同研究等の連携推進を担当。2018年に中途入省後、生物化学産業課にてバイオベンチャー支援等を担当、2021年8月より現職。

徳田 勝也
EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 国際公共チーム マネージャー

英国大学院にて開発経済学を専攻し、修了後に現EY ストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)に入社。企業のガバナンス強化や業務効率改善等のビジネスコンサルティング業務を経験後、EY新日本FAAS事業部国際公共チームに転籍。国際開発関連業務に従事しており、新興国における社会課題に対して日本企業の進出を通じて解決を目指す仕組み構築を検討する案件を中心に担当。

経済のグローバル化が成熟する中、持続可能で公正な経済社会の実現に向けた社会的要請が、政策上にも企業経営上にも求められている。他方、新興国の経済的発展に伴い、日本の中堅・中小企業における海外展開の在り方も変化しつつある。
本動画では、関東経済産業局で取り組んできた、価値共創調査事業を通じた調査及び試行的案件組成の取組をご報告すると共に、地域の支援機関の皆様向けに今後の支援の新たな方向性について視聴者の皆様に提案する。
その上で、価値共創型ビジネスの創出に向けたポイントや取組について、政策担当者等によるブレインストーミングやディスカッションを通じて、課題や方向性に関する本音の所見を視聴者に伝えていく。

モデレータ:佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター / 経済産業省大臣官房参事)

本コンテンツはrietichannel(YouTube)にて提供いたします。

参考

講演

この動画では関東経済産業局のグローバル化推進の取り組みを紹介するのですが、なぜそうした取り組みに至ったかをお伝えします。

これまで日本企業は、中小企業を含め、戦後の高度経済成長期には円安による輸出で稼ぐモデル、1980年代のプラザ合意後には円高を背景とした海外製造拠点を設立し生産を行うモデルが主流でした。

特に新興国については、安価な労働力市場として見ていた節が大きいと思います。

しかし次第に台頭する韓国企業や中国企業等の影響もあり、日本は市場で競争力をなくしていくばかりか、最近では新興国も急速に成長し、外国企業からは、「日本企業は決断が遅くて組みづらい」といった声までもが聞かれるようになってしまいました。

その中で、日本企業は今後どのようにマーケット獲得や競争優位性の確保を図るべきなのか、そもそも追求すべきことはそうした経済的な側面だけで良いのか、ということを、あらためて考えていく必要があるように思いました。

特に中堅・中小企業の皆さまを支援する関東経済産業局で、こうした問題への解を検討するに至った次第です。

最初に前提となるファクトや整理学をおさらいし、関東経済産業局で進めてきた調査内容についてご説明いたします。いくつか私見も交えたコメントをさせていただきますことをご了承ください。

まずお伝えしたいのは、持続可能性・公平性が追求され、新興国が成長する中で、日本の役割は変化している、ということです。

第二次世界大戦後、特に西側諸国では、資本主義・自由主義経済の成長が志向されてきました。

他方で植民地宗主国から独立した東南アジアやアフリカ等の発展途上国は、先進国との構造的格差を抱え続けました。

日本はこの中で、円安を背景とした製造業中心の輸出事業で高度経済成長を実現しつつ、政府開発援助(ODA)を途上国向けに実施する国となりました。

20世紀末には、冷戦の終結もあって一層グローバル化が進行し、多国籍企業等の活躍や、株主至上主義のような市場経済の深化、FTAやEPA等のような二国間・多国間での経済連携の活発化が起こりました。

途上国も次第に工業化を進めますが、日本はまさにその資本の出し手として、円高を背景にしながら対外直接投資を進め、現地への技術移転を行いながら生産活動を継続してきました。また、製品ではなくインフラ市場の獲得を目指し、単なるODAからのグレードアップを図った側面もあります。

しかし2010年代以降、世界では持続可能で公正な社会への要求が高まっています。気候変動やパンデミック、さらにはロシアによるウクライナ侵攻などを受けて、一層SDGsの重要性が高まっているように感じます。

他方で新興国ではデジタルの普及等も相まってスタートアップが勃興しており、資料5ページにあるように、ユニコーン企業数では日本を圧倒しています。アフリカでもナイジェリアでユニコーンが誕生していますし、日本総研の岩崎薫里上席主任研究員のレポートによれば、すでに東南アジアのスタートアップは(B2CのみならずB2B領域にまで進出し)第二ステージに達したという指摘がなされています。

東京大学の伊藤亜聖先生が説いていらっしゃるように、日本はこうした情勢を踏まえて、協業や出資等を通じて現地企業と協業する「共創パートナーとしての日本」像が求められているように思います。

ESG投資という言葉はすっかりおなじみになりました通り、世界的には持続可能な社会への実現要請は引き続き上昇傾向にあります。

とりわけ新興国では、先進国に比して食料農業・健康福祉に対する需要は引き続き高いところです。

併せて、世界を取り巻く通奏低音についていくつかおさらいさせていただきます。まずはデジタルです。

世界でデジタル市場が拡大していますが、「デジタル」と一口に言ってもさまざまな業種に派生するのが特徴です。

例えばモビリティなら公共交通システムのアップグレードやライドシェア、金融ならフィンテックやeコマース等です。

また、資料7ページのグラフにオレンジの折れ線で示している通りですが、年間平均成長率が総じて高いのもデジタル関連分野の特徴です。ページ下に示した分野は市場規模としては大きくないように見えますが、個社単位で考えれば(その大きな年間平均成長率から)莫大な利益が出るケースもあるわけです。

続いて、新興国の若者世代の社会認識です。

アセアン生活者研究2021のレポートによれば、タイやインドネシアの若者から、well-beingや社会貢献活動に関心があるという生声が聞かれます。

「ブランドが果たすべき役割」としても、「自分の個性を高める」「熱意を増幅させる」といった、ある種文字通りの役割にも勝る重要な項目として、「地域の課題解決に貢献」という役割が上位にランクインしていることは重要です。

例えばインドネシアは人口約2億7000万人で平均年齢30歳程度ですが、日本社会よりも若年層がはるかに大きなウエートを占めるわけですから、現地ビジネスの際にはそうした社会課題解決のマインドが求められるというふうに考えられます。

そして、サプライチェーンリスクについてです。

私は2021年、経済産業研究所にて、世界のサプライチェーンに関する論文を約450本分析して結果を取りまとめたのですが、Just in Time や コスト削減といった経済面のみならず、脱炭素等の環境面、新興国での児童労働等に配慮する人権面、さらには地政学リスクといった、ESG関連のリスクマネジメントの重要性を論ずるものが増えていることが分かりました。

つまり、社会課題へのアプローチは、各社がボランタリーに取り組むという動機以外にも、取引先から要請がある事項、すなわち取り組まないことがリスクである事項になりつつあるのだと言えます。

逆に取り組むことが取引先の増加やビジネスチャンスの増大につながる側面もあるといえるでしょう。

こうした前提を踏まえた上で、目指すべき方向は「持続可能で、公正な社会の実現」、「共創パートナーとしての日本」ではないかと、関東経済産業局では考えました。

では、関東経済産業局が主にご支援させていただいている地域の中堅・中小企業は、どのようにしてグローバル市場に挑んでいけば良いのか、調査事業(令和3年度「グローバル課題の解決に向けた日本の中堅・中小企業と海外企業等との共創に関する調査」)を実施しましたので資料11ページをご覧ください。

今後の中堅・中小企業が海外ビジネスチャンスを拡大するには、社会課題や市場ニーズに基づき新たな製品やサービスを創出したり、現地企業のM&Aや、現地企業と合弁会社の設立、現地企業との協業による、「価値共創」型のビジネスが求められるのではないか?という仮説を立てました。

その上で、具体的に展開すべき地域および分野等の特定、実際の先行事例の調査分析、マッチングイベントを通じた価値共創事業の試行的な組成、そして政策の在り方検討を行いました。

実施に当たっては、EY新日本有限責任監査法人さまのご協力を得ております。

はじめに、地域および分野等の特定について解説いたします。

国や地域の選定に当たっては、GDPやGNI、日本との政治・経済的関係といったマクロ情報を基にロングリストを作成し、その上で実際の日本企業のビジネス動向やカントリーリスク等から、ビジネス実現可能性を絞り込んだ10カ国程度のショートリストを作成していく作業を行いました。

社会課題の特定に当たっては、各国の政策文書や国際機関の発行するレポート、現地報道など数百本を分析し、課題の頻出度合いや中堅・中小企業の参入可能性などを鑑みて、農業生産性をはじめ、食品加工・流通・小売りといったフードロス対応も含む「食料と農業」、健康衛生や病気予防、診断や創薬・治療等といった医療アクセス系も含む「健康と福祉」を大テーマとしました。

そして地域と分野をさらに細分化した上で掛け合わせ、資料12ページに記載の6つのターゲットを定めました。食料と農業では、農業生産性×東南アジア、フードロス対応×東南アジア、南アジア、東アフリカ、健康と福祉では、健康衛生・予防×南アジア、医療アクセス×東南アジアといった分野で、各地域の経済規模や国同士のつながりも鑑みた上で、個別の国名まで特定した形で調査対象を設定しています。

次に、実際の先行事例の調査分析です。

新興国で価値共創事業を行えている日本の中堅・中小企業等に加え、対象地域・分野で社会課題解決に取り組む現地企業、そして企業サポート等を行う国内の官民支援機関へのヒアリングを実施しました。

それによってまず、価値共創事業に合致する日本の技術を、資料13ページにある通り整理できました。

政策検討のところでもご説明しますが、例えば「東南アジアの食料生産性にビジネスチャンスがある」と言われても、イマイチ企業の皆さまにはピンとこないのが実態だと思います。

そこで、具体的にどのような技術を持っていればこうした地域や分野への参入可能性があるのかまでを分析し、お示しすることが重要ではないかと考えました。

例えばフードロス対応であれば運搬・食品加工技術、医療アクセスであれば、遠隔診療の技術などが挙げられます。

また、先行事例の調査分析を通じて、一般的に課題分析の項目として挙げられるヒトモノカネ情報の切り口から、成功要因や課題を整理しました。

例えばヒトの面では、社内の外国人活用や現地パートナーとの協業体制の成否が重要だと分かりました。

モノや技術は総じて言われている日本の強みや課題がありますが、お金の側面では高額な現地コンサルフィーなど、情報の側面では規制対応などにそれぞれ課題があると判明しています。

それぞれの側面で海外ならではの課題があると感じますが、特に中堅・中小企業が大きく課題とするのは、ヒトや情報等の「ネットワーキング」ではないかというのが素直な感触です。

こうしたことをどのように政策の在り方に反映させるべきかは、後ほどご説明したいと思います。

ここまでさまざまな分析を行った上で、実際にどうすれば、価値共創ビジネスを創出できるのか、仮説を基にパイロット事業を実施しました。

プロセスの仮説は、資料15ページ左の「仮説」で示している部分や、中央の図の通りです。

まず、精緻な社会課題情報を抽出すること、その上で、日本企業が持つ技術要素、現地企業のニーズや技術シーズの抽出を行うこと、そして、特定の社会課題テーマを設定した上で、要素を掛け合わせればマッチしそうな日本企業と現地企業をイベント等で引き合わせること、これがビジネス組成に向けて重要になることではないかと考えられます。

調査事業の中では、農業生産性と医療アクセスの2テーマについて、技術要素を持つ日本企業とニーズ等を持つ現地企業数社を引き合わせ、それぞれマッチングイベントを開催しました。結果は資料15ページ下に記載の通りです。

オブザーバーとして参加いただいた支援機関を含め、全体的に参加者の満足度はかなり高かったというのが率直な印象です。

イベントで出会った企業の中には継続的に商談をしているところもありますが、単にイベントで終わらせず今後実際の協業につなげていくには、やはりサポート人材や各種情報提供などを継続的に実施していく仕組みが重要であるということが判明しています。

そして、政策の在り方検討を実施するに至りました。

まず、資料16ページ左の図で表している通り、支援の在り方は、価値共創の基本理解である「知識・経験」を身に着けることをベースとし、人材や情報等の「繋がり・場」を企業に提供していくことが有効とした上で、支援機関同士の連携が重要であるというふうに整理しました。順を追って解説いたします。

まず、「知識・経験」です。先ほど事例調査のパートでもお伝えしました通り、企業の効果的なビジネスにつなげていくには、単に社会課題情報を伝えるのではなく、技術情報まできちんとバリューチェーンを分解するというノウハウが重要です。例えば農業生産性であれば、バリューチェーンの中に元肥(もとごえ)・追肥(おいごえ)というプロセスがあり、さらにその中には「製造・加工」があります。それを技術まで分解すると、測量技術や温度制御技術にまで解像度が上がり、ここで初めて企業が自社で持つ技術と照らしてその市場への参入可能性を検討できることになります。もともと食料関係の業界ではない企業にもこうしたバリューチェーンの分解を通じた理解を促せれば、さらにグローバル展開いただける日本企業が増えると考えております。

次に「繋がり・場」です。現地に詳しい現地外国人材をコーディネーター人材として活用することは非常に重要であるという示唆を調査の中で受けました。官民機関による人材マッチングの場を整えることは、企業が抱える「ヒト・情報」の課題を解決することにつながります。また、現地情報や支援施策情報を提供するポータルサイトや、本調査で試行的に実施したようなマッチングの場の提供を支援機関が行うことも、企業支援に有効な方法でないかと思われます。

そして、「有機的な連携」です。政策検討を行うに当たって、当省や支援機関が提供する既存の海外展開施策もあらためて調べ、整理してみました。

もちろん、社会課題起点の施策や、企業の技術要素を抽出する施策などの数は多いとは言えないところですが、人材支援や情報提供支援、マッチング支援はかなり既視感もあるのではないでしょうか。

ポイントは、企業がビジネスのフェーズに応じて必要とする支援策や情報が、適時適切に届けられていないのではないか、ということです。

企業情報を囲い込むことなく、日頃から支援機関が連携して一体的に企業を支援していく「エコシステム」、これを醸成することが、価値共創ビジネスの創出や、それによる社会的・経済的価値の恩恵の還元へとつながります。

以上、調査事業のポイントをお伝えさせていただきました。ここからは少しばかり補足をさせていただきたいと思います。

先ほど申し上げたサプライチェーンの分析を実施した際には同時にサプライチェーンマネジメントに関する支援策提言も行ったのですが、とりわけサプライチェーンマネジメントの可視化や強靭化についてはテーマ自体が新しく、支援策を新たに作る必要があると感じました。

他方で中堅・中小企業の海外展開は古くて新しいテーマですから、支援策はすでにいくつもあります。むしろ現実的な課題としては、支援機関同士の連携が(支援機関内の)人事異動等によって途絶えてしまったり、ついつい自分の担当する支援策だけを持って企業支援に当たってしまったりするという縦割り文化などがあるのだと思います。こうした壁を乗り越え、継続的・かつ有機的な連携支援体制を構築していくことが大事ではないでしょうか。テーマの違いが施策課題の色合いの違いを表す、良い比較例であると思います。

最後に、関東経済産業局についてです。

関東経済産業局は、経済産業省の施策の執行や普及を行う企業支援プレーヤーであると同時に、地域の支援機関のコーディネーターとしての役割を担い得る組織です。

資料19ページ右下に示している通り、関連支援機関の施策も取りまとめた海外展開支援施策集を策定・公表していますし、左に示すように、地域と本省との接続、そしてローカルとグローバルの接続を担える機関となっています。

今後もグローバル価値共創の取り組みを推進していきますので、この動画をご覧いただいている支援機関の皆さまはぜひ連携させていただければと思いますし、企業の方はお気軽にご相談くだされば幸いです。

また、関東以外の地域の方も、本内容に関するご質問等ありましたら、まずは関東経済産業局まで遠慮なくご連絡ください。


ディスカッション

佐分利:
中小企業は、日本における全企業のおよそ99%、全従業員の約70%を占め、日本経済活性化のためには中堅中小企業の活躍が不可欠です。日本企業の海外展開、海外直接投資による収益は増加傾向にあるので、企業の海外展開を後押しすることは、日本の稼ぐ力確保のために重要です。

こうした状況などを踏まえ、日本の中堅・中小企業の海外展開の状況を、改めてどのように見ていらっしゃいますか?

坂本:
企業や支援機関と話をしていて本当によく感じるのは「日本製だから海外で売れる」という時代は終わったということです。製品の質だけではない、かといって価格を下げて安く売る等の手法でもない勝ち方を見つけていかなければいけないと思います。

例えば、経済産業省が実施している事業再構築補助金を活用して海外展開に乗り出す採択事業者もいます。ある有識者からは、「後継者の育成や、会社の事業再編こそ海外ですべき」というような話も聞きました。市場環境等も日本と海外では違いますから、日本で成功したビジネスの延長を海外でやるのではなく、思い切って別事業をやってみるというのもありかもしれません。

北角:
経済産業省の施策では、日本企業とアジア、インドの企業の協業によって、デジタル技術を活用した新事業を創出する「アジアDX実証事業」で支援しています。令和元年度から第1回、2回とあわせて60件近く支援していますが、農業、医療、水産、モビリティとさまざまな分野で、大企業のみならず、中小企業、スタートアップが現地企業と共創している事例を目にしており、ファクトとしても肌感覚としても海外展開の実態を感じています。支援先の企業を見ていると、創業時、もしくは創業間もない時期から海外市場展開をしており、ものすごいスピードで変遷する市場の変化に対してアグレッシブに突っ込み、リスクテイクをしていく姿が見て取れます。そういう企業の中には英語がペラペラで、現地で積極的に営業もできる人材が多い印象です。

徳田:
2年前にEY新日本有限責任監査法人と経済産業省アジア新産業共創政策室で東南アジアや南アジア等で調査・ヒアリングを実施しました。その時現地の企業が日本の企業に求めていたことは、質の高いロボティクス技術や製品の提供、多様なデータの使い方、データに関する知見、それから課題先進国としてさまざまな社会課題解決をしてきた視点などでした。

一方で、日本企業にもう少し頑張ってほしい点として、事業決断のスピード、現地のニーズに応じて柔軟に製品や技術を適応させていくことなどの要望がありました。こうした観点から、大企業より中小企業の方が(一般論として、事業決断が早い、柔軟に事業計画を変更できるという意味で)強みを生かせるのではないかと考えております。

佐分利:
次に、関東経済産業局の調査事業について深堀りしていきます。この調査では、現地の社会課題解決に貢献しながら、現地企業との協業によって事業展開ができている日本企業や、関連分野の現地海外企業などにヒアリングを実施したとのことでした。

また、食料生産性の欠如と医療アクセス不足の2テーマを「現地の社会課題」として取り上げ、これらに関する「日本の技術」と「現地のニーズ」を整理して、現地企業と日本企業とのマッチングを促すパイロット事業を、社会課題テーマごとに実施したとお話がありました。

経済産業省をはじめとする支援機関にとって必要となる支援策を明確化するために、こうした調査事業を実施してみての所感をお伺いできますでしょうか。

坂本:
ヒアリングやパイロット事業等を通じて、「必要な情報を、必要としている企業に届ける」ことの難しさを感じました。例えば、支援機関の施策を調べて全てテーブルの上に並べてみると「ある程度出そろっているじゃないか」と思うことも正直ありました。また、支援策や現地企業を日本企業に紹介するなどの「コーディネート人材」の不足はずっと課題として言われてきたことですが、根本的に解決はしていません。このように、海外展開に関する人材に悩んでいる企業がまだまだ多いことも、必要な情報が必要な企業に届かない要因であろうと思っています。ですので支援機関同士の有機的な連携=エコシステムは非常に重要です。

北角:
「必要な情報を届けること」の難しさについては私も感じています。イベント前の準備段階で、あえてガチガチに頭作りをしないように、参加企業へ情報提供しすぎないことが思いもよらない化学反応を生むケースもありますが、一方、具体の連携につなげるためには、連携するならどんな連携ができるのか、事前にある程度しっかり頭の体操をしておくことが重要なケースもあると思います。なので、どういう場合に、どの程度企業に寄り添って支援すべきか、コーディネートの伴走の在り方について考えさせられました。

あとは、政府が提供する日本企業の海外展開支援策はさまざまありますが、今回の取組は「現地社会課題解決ビジネス」を主軸に置いたのが、他の海外展開支援策とは異なる新しいポイントだと思います。その意味では、日本企業と現地の企業が「アジアの医療不足を解決したい」「農業を効率化したい」という切なる思いを一緒に実現していく「当事者間の課題解決に向けた共感・空気感」の醸成も、コーディネーターとしての重要な役割だと思いました。

徳田:
技術の情報、社会課題の情報、現地のニーズの情報をいかにマッチングしていくかが価値共創ビジネスでは重要であるという前提に立って、調査を進めてきました。コーディネーションの観点から申し上げると、いかに「価値」を「メタ化」、すなわちお互いがわかるレイヤーに落とし込んで共有するか、また(英語で言うところの「on the same page」に基づいて)同じ社会課題解決という目標に向かって価値共創するかが重要です。そのために、必要な情報を必要な人に、必要な粒度で届けることが特に重要であるということが、この調査を通じてよくわかりました。

北角:
調査事業で実施したイベントの中で、われわれコーディネーター側が想定していなかったマッチングがありましたね。

徳田:
1回目のパイロット事業では日本企業と現地企業の共創が生まれましたが、その副産物というか、われわれが想定していなかった点として、共通の社会課題解決に向けて、何か一緒にできるのではないかという日本企業同士の連携模索がありました。

佐分利:
それでは求められる政策的支援の在り方について深堀りしていきたいと思います。坂本氏の講演でお話があったとおり、「価値共創」のためには、「現地の社会課題情報や市場ニーズの抽出」、「日本企業が持つ技術要素の抽出」、「これらを踏まえて現地企業と日本企業とを適切にマッチングする『場』の提供」、「共創に向けた伴走支援や公的補助金情報の提供といった取組」が重要という指摘がなされました。その上で、広く関連する支援者等を含めた「エコシステム」の形成が不可欠であることを提言として取りまとめたと承知しています。

こうしたグローバル価値共創の方向性を提言されるにあたり、どのようなことが支援の在り方として重要になってくるでしょうか。また関東経済産業局の本調査事業の報告書のポイントや、読者に特に見ていただきたい箇所をご説明ください。

坂本:
資料27ページをご覧ください。これが今後の支援の方向性のグランドデザインとなります。社会課題から技術情報を整理し、企業へ情報提供するというのは、海外展開ではあまり行われてこなかったかもしれません。こうした整理と情報提供は難しいことですが、幅広い中小企業にビジネスのチャンスをつかんでいただくためには必須のノウハウです。「場・つながり」の外国人材活用は鍵になります。やはり海外展開する際には、現地に詳しい人材に活躍してもらうのが一番ですので、現地の知日人材等といかにコラボレーションしていけるかが非常に重要だと思います。

「仕組み」の創出には、継続的に個別の企業さまのご相談案件に対応していくことが必要となります。ですから、まずはぜひ支援機関の皆さまと連携していきたいですし、企業の皆さまもお問い合わせやご相談をお待ちしています。関東地域以外の方もお気軽に関東経済産業局(国際課 048-600-0261 kanto-kaigai@meti.go.jp)までご連絡ください。

北角:
今回の取組を振り返って、「共創」が生まれる土台として、企業間もそうですし、コーディネーターと企業間、コーディネーターや支援機関間の「生身の人同士のつながり、コミュニケーション」が重要だと感じましたし、オフィスで自席に座っているだけではなく、外部とのコミュニケーションを求めてオフィスの外に出ていく、そういった日々の活動も、自戒の念も込めて必要だと思いました。

また、今後のADX(アジア新産業共創政策)室の取組として、ADXを目指している企業同士の横の連携がまだまだ不十分だと感じているので、ADXの同志連合を組んで、みんなでアジアDXを目指す、というコミュニティ論というのも、政策の方向性として一つあり得ると考えています。

ちなみに日ASEAN間の事業創出を支援するアジアDX実証補助金については、6月末まで公募中ですので、企業の皆さま、ぜひご応募をご検討ください。

徳田:
今回の調査で日本企業にヒアリングし、意見や困っている点を伺った中で、海外展開での課題やサクセスファクターとして人材について一番多く質問がありました。

事業プロデューサーと、現地のパートナーを探してくるコーディネーターといった人材が、価値共創事業では特に重要だと感じました。

海外展開×外国人材に非常にポテンシャルがあると、調査を通じて改めてわかりました。現地の社会課題を解決したいと思っているのは、やはり現地で生まれた方です。その中で、日本で就職した方は、日本の技術を習得し、その技術を母国に持って帰りたいという思いを持つ方が多くいらっしゃいます。そういう方々といかにコラボレーションしていくかが、今後の日本企業の海外展開のキーポイントになると思います。

最後に、この調査事業では、現地の社会課題についてさまざまな情報収集し、現地企業にヒアリングして、どういったニーズがあるのかを取りまとめて報告書に掲載しました。ぜひそこが見ていただきたいポイントです。少しでも参考になれば幸いです。

佐分利:
とにかくまずは、支援機関に連絡したり、補助事業に応募したり、身近な人のネットワークを使って情報収集したりする等の「最初の第一歩」が重要だと感じました。今後さらに、中堅・中小企業の海外展開が促進されることを祈念いたします。

2022年6月1日掲載