第23回──RIETI政策シンポジウム「女性が活躍できる社会の条件を探る」直前企画

女性が活躍できる社会に変革するには何が必要か?

橘木 俊詔
ファカルティフェロー・研究主幹

男女雇用機会均等法による法的環境整備や育児・介護休業法や保育所の整備等、均等法成立以前に比べると、外的支援環境整備も一定の前進を見ているにもかかわらず、我が国では女性の登用がなかなか進みません。RIETIでは来る2004年11月9日(火) に港区北青山のTEPIAホールにて、RIETI政策シンポジウム「女性が活躍できる社会の条件を探る」を開催し、労働市場や子育ての外的支援環境にまつわる問題点を踏まえつつ、従来、政策論としては十分には議論されてこなかった「教育」の役割や、本人と家族との関わりにおける問題点および女性の就業形態は男性型のキャリアばかりではなく多様な形態がありうることを踏まえるなど、新たな視点からの議論を行います。本コーナーではシンポジウム開催直前企画として、シンポジウムの論点の見どころ等についてシリーズで紹介していきます。第1回目はプロジェクト・リーダーである橘木俊詔ファカルティフェロー・研究主幹にシンポジウムの独自性やなぜ日本では女性活用が上手くいかないのかといった点についてお話を伺いました。

RIETI編集部:
日本ではなぜ女性活用が上手く行かないのでしょうか?

橘木:
今から30年位前の日本では、専業主婦になることが女性にとっての夢だったんです。それ以前は豊かな家庭に育った女性か、お金持ちの男性と結婚した女性しか専業主婦になれなかった。その他の女性は商売にしろ農業にしろ働かざるを得なかった。その後女性の教育水準が高くなり、女性も男性と同じように高等教育を受けるようになった。次第にせっかく高等教育を受けたのに、自分達の技能を生かせる職場がないという不満が女性の中で高まってきたわけです。

しかし、日本では現在まで性別役割分担が機能しています。男性からすると戸惑う部分があるし、女性で働く意欲がある人には機会がないし、今が過渡期なんだと思います。

RIETI編集部:
男女雇用機会均等法が成立した後でも、女性にとって働く機会はまだまだ与えられていないということでしょうか?

橘木:
女性にはどうしても出産、育児がつきまといますから、結婚もしたい、仕事もしたいという女性にはかなりの負担がかかります。しかし、出産・育児などで一回職場を離れた女性には、社会で蓄えた技能がなくなり、再び職場で働きたいと思っても、自分の望む職に就けない、というのが現状です。
夫も含めて社会がそういった女性をどう助けるか、どういう支援対策をするかが非常に大事です。この話は今度のシンポジウムでも大きな問題として取り上げます。松田茂樹氏(第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部副主任研究員)は、男も子育てをしないといけない時代が来ていると言っていますし、彼自身も実践しています。

RIETI編集部:
最近は経済状況の悪化によって、女性の労働意識が低下しているといった報告をマスコミなどで耳にすることもありますが、基本的に女性の労働意欲は定着しているとみていらっしゃいますか?

橘木:
そうですね。ただ、女性に苦言を呈すると、女性の方がいい職を得たいという希望が男性より強い傾向にあります。男性は生きていかなければいけないという脅迫観念があるから、希望の職につけなくても働き続けなくてはならないという意識が女性に比べて強いです。

RIETI編集部:
平等な労働市場を形成するには、そういった女性の意識の甘さも改善する必要がありますよね。

橘木:
社会にも女性側にも両方に責任があると思います。女性の側にも働くことは辛いことだという現実をわかって欲しいと思います。そうならないと、本当に働きたい女性に機会が与えられないですしね。

それから、日本の企業の働かせ方がいびつなんです。今一番働いているのが大企業に勤める30代40代初期の男性ですが、毎晩11時12時まで働いて帰宅したらバタンキューという働き方を変えないといけない。企業の意識改革も必要ですし、労働者側の意識も「働くだけが人生ではない」という風に変わっていかなければいけないと思います。

RIETI編集部:
シンポジウムの見どころをお聞かせ願えますか?

橘木:
今回のシンポジウムでは非常に面白い研究内容をお見せする予定です。まず、セッション2:「女性の活躍と教育のあり方」では女性の教育問題にスポットを当てます。女性が高校なり大学なりで教育をうける時、昔であれば文学部や家政科が主流だった。しかしそれでは職業人として生きるには厳しい。もっと就職に役立つような、経済学や理数方面を勉強しなければならないということを、2人の女性の教育学の専門家が発表します。

また、自分にあっているキャリアを形成するには、ただ良い大学へ行くだけでは駄目なんです。世の中にはどういう選択肢があるのか等を教えていかなければならない。大学を卒業してからじゃ遅いですから、中学・高校から女子に対する職業教育をしっかりやる必要があります。

たとえば医学部を出たら、職には困らないでしょう。女性も薬学部や工学部といった分野に進出していくべきだと思います。シンポジウムでは、女性はよく理数系に弱いといった通念があるけれど、それは違うと主張する非常に面白い論文を発表します。女性は実は理数系の能力が高いということが証明されるのです。

教育から女性の社会活用を考えるということはあまり世間で言われていませんし、理系に弱いという通念を打破しますから楽しみにしていて下さい。

それから、セッション3:「女性のキャリアと経済効率」がまた面白い。中田大悟氏(横浜国立大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー講師(中核的研究機関研究員))と金子能宏氏(国立社会保障・人口問題研究所部長)の研究内容ですが、男性のみ、女性のみの職場は効率性が悪く、男女一緒に働く職場の方が効率がいいということを経済学的に証明するという、非常に興味深い内容です。私も男子校だったのでわかりますが、男子だけだと荒れるんですよ(笑)。ですから、彼らの研究には納得しました。

RIETI編集部:
橘木先生の考える理想の社会というのはどのようなものでしょうか?

橘木:
理想というのはなかなか難しいですね。私は基本的に本人が幸せだと思っていれば、それでいいと考えています。しかし、今回の論文では書かなかったのですが、仕事がなく離婚してしまった女性がその後とても不幸になるというケースが多いんです。そういう意味で、私は男女両方が働き、労働時間を短くするのがベストな社会だと思っています。

RIETI編集部:
先生が理想となさる社会に日本が変革していくには、どのような政策が有効でしょうか?

橘木:
実現するにはいろんなハードルがありますから特効薬はありません。北欧のケースが実現可能には一番いい制度をとっていると思います。北欧ではパパクォーターという制度があって、男性も女性と同じように育児休暇をとっています。ただ日本はまだそこまでは無理でしょうね。社会がまだついていきません。やはり日本企業では上司がパパクォーターで休業をとる部下を出世させないでしょう。そうすると男性は企業での地位の為に家庭を犠牲にして働かざるをえない。まずは企業経営者の意識を変えないといけないでしょう。

しかし今後は少子化で労働力不足になりますし、女性が働かなければならない時代になれば、女性の要求に企業経営者も応えるようになると思います。ひとつひとつ地道に政策を実現していけば、やがては社会も変わっていくと思います。

取材・文/RIETIウェブ編集部 谷本桐子 2004年10月19日
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RIETI政策シンポジウム「女性が活躍できる社会の条件を探る」

2004年10月19日掲載

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