CPTPP電子商取引章に関するワイタンギ審判所判断:マオリ族のデータ主権はCPTPPによって制限されたか?

執筆者 渡辺 翔太(野村総合研究所)
発行日/NO. 2026年8月  26-P-018
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VII期)
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概要

本稿は、CPTPPの電子商取引章の規定、特にデータの越境流通に関連する規定が、ワイタンギ条約で保障された先住民マオリ族の権利を侵害しているか否かが争われた、ワイタンギ審判所(Tribunal)の判断を分析する。第一に、こうした規定の解釈を扱った司法判断は管見の限り見当たらないため先例として重要な意義を持つ。第二に、ニュージーランドはデジタル貿易分野で先進的なルール形成を行う国の一つであり、交渉における関心事項を把握する上で重要である。第三に、先住民のデータに対する権利と通商協定におけるデータ流通関連ルールの関係性を考える上で重要である。

結論として、審判所はワイタンギ条約上、マオリ族に自らに関するデータの国内保管等を求める権利を認めた。そして、従来の学説における解釈を踏襲しつつ、マオリ族の権利を侵害するリスクがあるとして、CPTPPのデータの越境流通に関する規定がワイタンギ条約に反すると認めた。しかし、救済として特段の是正措置などを勧告しなかった。

本判断は今後ニュージーランド政府がマオリ族の権利を保護する例外の交渉を強化する可能性を示唆する。他方、本判断でも先住民の権利保護と、具体的なローカライゼーション措置等の必要性は十分明らかではなく、我が国としてはこの点を明確にして今後の国際的なルール形成を進めていく必要がある。