【WTO等国際通商判例解説㊹】EU-パーム油規制(DS593及びDS600)-ILUCリスクに基づくパーム油規制-

執筆者 清水 茉莉(大阪大学)
発行日/NO. 2026年3月  26-P-003
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VII期)
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概要

本件は、EUが、気候変動対策として、食物・飼料用作物を原料とするバイオ燃料に関し、当該原料作物による間接的な土地利用変化(ILUC)リスクを理由に再エネ使用目標値の計上に当たって消費比率上限を設定したうえで、特にパーム油系バイオ燃料のみを高ILUCリスクと分類し、より厳格な消費比率上限及びフェーズアウト義務に服さしめる等の規制を講じたのに対して、パーム油生産国であるマレーシア及びインドネシアがWTO紛争解決手続において提訴した事案である。本件パネルは、TBT協定2.1条・2.2条、GATT無差別原則及びXX条の分析において、気候変動対策のグローバルな性質を強調して目的の正当性や目的貢献度を肯定的に評価した。また、規制上の区別及びその適用方法に合理的根拠があるか否かを審査基準としたうえで、EU需要とILUCによるGHG排出の間に定量的・厳格な因果関係が示される必要はないとして、係争措置の各種の核心的要素について、合理的根拠があるとし、協定不整合性を認めなかった。これらの判示によって、事実上、今後、気候変動対策措置については、措置国が何らかの合理的根拠を示すことができる限度で、協定不整合とされる可能性は低減したといえる。他方で、本件パネルは、実施細則や裏付けとなるデータの更新の遅延については協定不整合性を認めており、その限りでは実施細則等の整備が遅延しがちなEUの各種規制を牽制する意義がある。その他、TBT協定上の強制規格性並びに関連するフランスの租税措置に関する補助金協定上の資金的貢献性、所得支持概念及び著しい害要件についても興味深い判示がある。