| 執筆者 | 邵 洪範(一橋大学) |
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| 発行日/NO. | 2026年3月 26-P-002 |
| 研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VII期) |
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概要
本件は、メキシコが2023年の大統領令に基づき実施していた遺伝子組換え(Genetically Modified(GM)/ Genetically Engineered(GE))トウモロコシの使用を制限する特定の措置について、USMCAの諸規定に違反するとして米国が申立てを行った事例である。USMCAの紛争解決章の下で提起された初のSPS事案と位置づけられる。本質的には、GMトウモロコシの輸入に関する締約国の食料主権、特に人の健康、先住民族の権利、生物多様性を保護しようとする締約国の規制裁量と、遺伝子組換え生物(GMO)食品に対する市場アクセスの確保、すなわち、貿易自由化に関するUSMCA締約国の義務との衝突と調整が問題となった事例といえる。本件では、USMCAの下でSPS措置を「適切な危険性評価」に基づいて実施する締約国の義務、並びに、SPS措置の「必要性」及び「貿易制限性」に関する締約国の義務が主たる争点となった。他方で、本件措置については、在来種トウモロコシと密接に関連する先住民族の生計や食文化遺産の保全、及び先住民族の権利を保護するためのメキシコの法的な取り組みなどの非SPS上の目的を有するとも主張され、本件措置の非SPS上の目的に関わる側面については、「一般的例外条項」及び「先住民族権利例外」による正当化の文脈で検討が行われた。本件では、SPS章の下でなされた認定(特に危険性評価に関するもの)が、例外条項の援用に関するメキシコの主張にも不利に作用するなど、本件の様々な争点に影響を及ぼしている。本稿では、本件の経緯及び各争点に関する当事国の主張を確認した上で、パネルが提示した解釈について批判的に検討・考察する。なお、本件ではWTO法との類似性が見られるいくつかのUSMCAの条項につき、注目すべき解釈的アプローチが導入されており、本稿では、WTO紛争解決への示唆を念頭に置きつつ、このような解釈基準の意義についても検討・評価する。