概要
産業協力は、通商産業省(現経済産業省)を中心に長きにわたって通商戦略のツールとして位置付けられてきた政策用語である。一国の国際産業政策の文脈では、産業協力は「国家間でお互いの産業が協力する」ことへのコミットだと解される。本論文では、戦後の国会会議録から産業協力という単語が出現する一連の関係する質疑を取り出し、それをテキストアナリティクスの手法で定量的に評価することで、戦後日本における産業協力まわりの国際産業政策の持つ意味合いを分析した。我々の分析によれば、産業協力という政策用語は1960年代から国会論戦で使用されているが、それが本格的に出現するのは日本の産業競争力が際立った1980年代からである。テキストを詳細に分析することで、当初の日米・日欧貿易摩擦への対応から、国際資源確保の問題、アセアン経済の伸長とその経済的取り込みというように、産業協力が政策ツールとして供される国際産業政策上の問題が変遷してきたことがわかった。本論文における産業協力の分析から示唆されるように、同じ国際産業政策のツールであっても、時代背景や文脈を意識してそれを理解することが重要である。