日本の潜在成長率向上に何が必要か:JIPデータベース2023を使った分析

執筆者 深尾 京司(ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2023年11月  23-P-028
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概要

2020年以降、人口減少による労働不足、コロナ危機後の需要回復、インフレーションの進行等を背景に、日本の経済成長を考える上で、供給制約を分析する重要性が高まっている。本論文では、経済産業研究所の「産業・企業生産性向上プログラム」が一橋大学経済研究所と共同で作成・更新している日本産業生産性(JIP)データベースの最新版(JIPデータベース2023、以下JIP 2023と略記する)や、このプログラムによる産業・企業レベルの分析結果を用いて、新古典派経済理論の均整成長の仮定を置いた上で、日本の潜在成長率を試算した。その結果、ほぼ足元の状況の持続を前提とするケース1では2023−2033年の自然成長率は0.67%、労働の質上昇とTFP上昇についてもう少し楽観的な前提を置くケース2では2023−2033年の自然成長率は1.13%となった。最近の動向から判断すると、日本の潜在成長率はほぼゼロに近いと言えよう。ただし、TFP水準について技術フロンティア国との間に大きな格差があること、非正規雇用により、多くの女性や高齢者を有効に使っていないこと、人的資本の格差や有形資産・ソフトウェアー装備率の格差を主因として中小企業の労働生産性が低いこと、詳細な産業別データで見ると、日本における2010年以降のTFP上昇の低迷が、電気業、自動車関連、半導体関連など、一部の産業に起因していること、等から判断して、TFP上昇や労働の質向上、資本蓄積の促進、電気業の経済合理的な改革や産業空洞化の抑止などの産業政策、等を通じて潜在成長率を高める余地は大きいとの分析結果も得た。