持続可能な経済社会形成に向けた新たな産業政策の論点

執筆者 大橋 弘(ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2023年11月  23-P-027
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概要

新型コロナウィルスの感染症上の位置づけが5類に移行するなか、持続的な社会経済の新たな形成に向けて、今後の産業政策のあり方が問われている。本稿では、コロナ禍における政策を振り返ったうえで、わが国が直面する課題のうち、4つの論点を取り上げて議論する。①価格形成について、マークアップと市場支配力との関係を論じつつ、近年のマークアップの推移にわが国独特の傾向があることを指摘する。このわが国におけるマークアップの傾向は、人口減少・少子高齢化の進展と整合的である点を論じる。②デジタル化(DX)について、データ蓄積・利活用の中央集権的な取り組みに効果がある点を文献に依拠しつつ指摘する。デジタルによるリコンビネーション化は、新たな産業構造転換を促す下地になることを論じる。③経済安全保障について、エネルギーの観点から論じる。わが国での電力システム改革を振り返りつつ、経済効率性と脱炭素を推し進めてきた結果、安定供給との間にリバランスの必要が生じている背景を議論する。最後に、④脱炭素化(GX)について、投資支援の考え方に触れつつ、体制面での新たな仕組みの必要性について論じる。加えて、競争政策との関係についても論じる。これら4つの論点に対応するため、市場メカニズムのみに依拠するガバナンススキームからの転換が求められる。市場メカニズムを前提としつつも、官民の連携を踏まえた新たな産業政策の仕組みが、持続可能な経済社会の形成に向けてのガバナンスとして求められる点を指摘する。