コロナ危機を経て変容した国際貿易・海外直接投資

執筆者 冨浦 英一(ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2023年11月  23-P-024
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概要

世界貿易は、コロナ危機により急速に縮小した。中国における厳格なロックダウンもあって、初期におけるショックが甚大であった。その中で、かつてはジャスト・イン・タイムの効率性を評価されたグローバル・サプライチェーン(国境を越えた供給網)について、寸断の脆弱性に注目が集まり、ジャスト・イン・ケースに備えた強靭さが求められるようになった。これまでも企業は在庫の積増しで短期的に対応してきたが、輸入途絶が長期化すれば供給網を伝って影響は増幅して波及する。世界貿易は、速やかにコロナ危機以前の水準に回復した。グローバル化した企業は、従前から標準化し透明性の高い業務執行等を行っていたこともあって、危機に際してもテレワークを積極的に導入するなど回復力が高かったと見ることができる。しかし、世界貿易の潮流は、今世紀初頭に見られた急拡大から停滞に様相を変えた。その背景には、ロシアのウクライナ侵攻だけでなく、先端技術を巡る米中対立の深刻化があげられる。貿易制限の影響は、米中二国間にとどまらず、サプライチェーンを通じて多国間に及んでいる。「デリスキング」や「フレンド・ショアリング」が提唱される中で、グローバル・サプライチェーンは見直しを迫られている。世界の主要国をカバーする巨大経済圏を形成するメガFTAの動きが一段落する一方で、WTO上級委員会の紛争処理は機能停止状態に陥った。財の貿易は停滞に転じたとはいえ、知財を含むサービスの貿易やデータの越境移転は拡大を続けており、地球温暖化などのグローバルな課題は残っている。このため、データによる正確な実態把握に基づいた政策対応が従来にも増して必要になっている。