WTO協定における経済安全保障の位置づけ~貿易自由化と安全保障利益のバランス

執筆者 米谷 三以(コンサルティングフェロー)
発行日/NO. 2023年7月  23-P-010
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概要

WTO協定は、安全保障の観点から軍需貿易と民需貿易とを区別し、前者の制限は安全保障上の必要がある限り許され、後者については、GATT21条(b)(iii)の下で、国際法上の戦争の当事国間及びその帰趨から安全保障上の重大な影響を受ける第三国による一方当事国に対する支援としての貿易制限のみが許容されていると解釈すべきである。制限が許容される「その他の国際関係の緊急時」を「戦時」より広く解している先例は妥当でない。対外経済依存が利用されるリスクを拡大し、貿易自由化のインセンティブを失わせるからである。また同規定の趣旨を、違法行為の撤回等を求める対抗措置を正当化する一般国際法に準拠して理解する点で、「緊急時」に対する責任の所在を問わない柱書の文言に矛盾する。民需貿易の制限は、戦略産業の保護のためであっても許されない。必要があるならば、非MFNベースでの貿易制限を許容する安全保障例外でなく、関税譲許をMFNベースで撤回することを認めるGATT28条の利用を追求すべきである。鉄鋼・アルミ製品に関する米国232条措置や中国が追求する軍民融合は、民需貿易と軍需貿易のかかる区別を無効化する点でいずれもWTO協定上問題である。