JOBS Actsによる米国の株式資本市場改革と周回遅れの日本

執筆者 田所 創 (経済産業研究所)
発行日/NO. 2020年9月  20-P-022
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概要

本稿では、米国の2012年のJOB Actの制定とその後の拡充(JOBS Acts)による一連の資本市場改革を概観し、米国と日本の株式資本市場の構造と関連する法制度を比較対照する。

問題意識は、日本の株式資本市場は、中堅・中小企業・スタートアップが資本を調達する手段として十分に機能しているのかという点にある。背景には、日本の企業が未上場のときに私募等により資本を集めて、エクイティ・ファイナンスに基づきリスクのある事業に大胆に投資し成長することが、かなり困難な状況にあることへの危機感がある。

株式資本市場の実態をみると、米国の多層的・分散的な構造に対して、日本では、東京証券取引所一極集中構造であり、未上場株式の店頭市場などのプライベート・マーケットは、極小規模な制度を除き、ほぼ存在しない。

米国では、13の証券取引所を頂上に、OTC(店頭)市場、州内市場と広がり、パブリック(公募・上場)とプライベート(私募・未上場)、プライマリー(発行)とセカンダリー(流通)の2×2の4種類の市場が発展し、企業の成長段階に応じた資本調達を可能にしている。JOBS Actsで、これらをさらに改善し・拡充している。

証券法制の比較対照の結果は、日本独自の市場構造の要因が、1)証券取引所並みの開示義務を免除される範囲の狭さと、2)その範囲での簡易な開示義務を伴う小規模公募(ミニIPO)・私募等の制度(プライベート・ストック・オファリング)の未整備にあることを示す。さらに、3)未上場株式への投資ができる適格機関投資家の範囲が狭い、4)証券会社が未上場株式の投資勧誘を禁止されている等の状況もある。