日本の所得格差の動向と政策対応のあり方について

執筆者 井上 誠一郎 (上席研究員)
発行日/NO. 2020年6月  20-P-016
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概要

日本経済は、バブル崩壊以降の「失われた二十年」のもと、成長率が低迷し、非正規雇用が増大した。こうした中、マスメディアの報道の影響もあり、日本の所得格差が拡大しているとの認識が広がってきたが、実際、所得格差はどのように推移してきたのであろうか。

本稿では、所得格差に関する先行研究のサーベイなどを行い、日本の所得格差の動向を確認する。その上で、所得再分配を巡る政治哲学上の思想も踏まえつつ、所得格差への政策対応のあり方を議論する。本稿の結論は、以下の2つである。

第一に、所得格差の動向について、日本全体としては、社会保障制度や税制による所得再分配が機能しているため、再分配後の所得格差は1980年代に比べて若干高まったが、2000年代以降、概ね横ばいで推移している。しかし、年齢階層別にみると、高齢者層で所得格差の縮小がみられる一方、若年・中年層で所得格差が拡大する動きがみられる。

第二に、政策的な対応としては、社会保障や税制による所得再分配機能の強化について民主的な議論を行っていくことも必要であるが、若年・中年層の所得格差が拡大する動きがあることを踏まえれば、若年・中年層の非正規労働者や求職者の人的資本投資の促進に早急に取り組み、再分配前の所得格差の縮小を図ることが重要である。このため、政府は産業界や大学等と連携してリカレント教育などの教育訓練を行う環境の整備に取り組むべきであり、特に非正規労働者も対象とした「教育訓練休暇」の導入の義務化を検討すべきである。