多死社会における産業振興のあり方に関する一試案

執筆者 藤 和彦 (上席研究員)
発行日/NO. 2019年12月  19-P-036
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概要

超高齢社会から多死社会に移行しつつある日本では、「終末期ケア」の必要性が高まっているが、「死」をタブー視している社会通念が災いして、市場における価値はいまだに低いままである。

先進国経済における成長を生み出す源泉として、潜在的な需要を引き出す新たなモノやサービスの誕生(プロダクト・イノベーション)の重要性が高まっているが、「ケア」はいわゆる消費社会に残された最大の成長分野である。特に「終末期ケア」は今後の成長産業の柱の一つになるポテンシャルを有していると考えられることから、日本の現状を打破することができるベンチャー企業の振興が喫緊の課題である。

筆者が注目したのは、一般社団法人日本看取り士会の活動である。

来たるべき多死社会に備えて、在宅での「看取り」の質を向上させるために看取り士の養成に努めている柴田久美子会長は、「望ましい死」という概念を提唱するなど「終末期ケア」の分野で新たな価値を創造しつつある。このことは「終末期ケア」全体の活動の価値を高めることにもつながり、ひいては、日本にポジティブな死生観を醸成する一助となると考えられるからである。

柴田氏は「全国ベースで看取り士の活動を展開したい」と抱負を述べているが、そのためには組織力の強化に加えて、サービスの価値のさらなる向上のために学問的知見を積極的に取り込む必要がある。具体的には、「抱いて看取る」ことの効果をより確かなものにするために身体心理学等の専門家と連携するとともに、死生観に関する知見を多分野の専門家の協力を得ながら体系的にまとめていくことである(柴田氏は「看取り学」という学問分野を提唱している)。特に死生観については、多死社会における日本の今後のあり方を決定づけると言っても過言ではないほど重要な問題である。

本稿では、死生観の中でも日本人が潜在的に有しているとされる「生まれ変わり」という観念に着目し、科学的な方法で「過去生の記憶を有する子ども達」のことを世界全体で調査・分析しているヴァージニア大学の取り組みを紹介するとともに、「生まれ変わり」の観念が人々(特に高齢者)の幸福感に寄与することを確認した。

また、日本の思想家の中で唯一「生まれ変わり」の観念を自らの思想の土台に据えた平田篤胤の現代的意義について触れながら、「生まれ変わり」の観念が日本社会の変革のために有効であると主張した。

さらに、多死社会の到来が資本主義において「母性」という特性が重要視されるとの仮説を展開した。

以上の考察を踏まえ、必要となる政策を最後に提示した。