デジタル時代を支える市場と法

執筆者 矢野 誠 (所長,CRO)
発行日/NO. 2019年10月  19-P-024
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概要

第四次産業革命を支えるソシオ・エコシステムの形成を阻む大きな原因として、システム内の構成要素のスムーズな循環を阻む垣根の存在があげられる。我が国には、大正時代に高等学校を文科と理科に分離して以来、文系と理系の間には非常に高い垣根が存在する。また、一口に社会科学といっても、法学、政治学、経営学、経済学、社会学などなど、さまざまに分割されていて、分野を超えて、物事を考えることができる人材が非常に少ない。そのため、法と経済学研究を推進する必要があると考えるわけである。

若い時代に身につけたモノの見方、考え方を大きく変えることは難しい。職業を持ち、その経験の中で積み上げられた見方や考え方を変えていくのはさらに難しい。最近、欧米の研究者と科学技術振興や企業ガバナンスについて話しをすると、サイロ効果という言葉や、サイロ(silo)を壊そうという掛け声を耳にすることが少なくない。サイロというのは、ヨーロッパやアメリカの農場で使われ、農産物や家畜の飼料を貯蔵しておくための数メートルから十数メートルの高さを持つ円筒形の倉庫である。放っておくと、職場で専門性が強まり、働く人たちの視野が狭くなってしまう。それが生産性の低下につながる。そうしたサイロを打破するためには、意図的な努力が不可欠だと考えられているわけである(矢野, 2017)。

我が国の政策決定プロセスの根底にある最大の問題は法と経済との間に存在する高い垣根ではないか。それが健全なソシオ・エコシステムの構築を阻み、今の長期停滞があると考えると見えてくるものがたくさんある。法学と経済学の垣根を取り去り、両者を統合する総合的な視点から政策研究を行うことで、健全なソシオ・エコシムテムの形成に貢献する第一歩が形成できるはずである。