産業別労働生産性の国際比較:水準とダイナミクス

執筆者 滝澤 美帆 (東洋大学)/宮川 大介 (一橋大学)
発行日/NO. 2018年4月  18-P-007
研究プロジェクト 企業成長と産業成長に関するミクロ実証分析
ダウンロード/関連リンク

概要

供給サイドの制約(例:労働力人口の減少)に直面する日本において、生産性向上が実務・政策面における最重要課題の1つとなっている。生産性向上に向けた効果的な方策を検討するためには、生産性を巡る現状を正確に理解する必要があるだろう。こうした問題意識を踏まえて、本稿では、まず、分析用のデータセットが入手可能な最新年次である2015年の産業レベルデータを用いることで、近年の日本における産業別労働生産性が他の先進諸国(米、独、英、仏)に比してどの程度の「水準」にあるのかを確認する。その上で、2015年までの約20年間に亘る産業別労働生産性に関する成長パターン(ダイナミクス)を、その構成要素である「付加価値」(アウトプット)と「労働投入」(インプット)の変動に分解して描写する。本稿での主たる発見は以下の通りである。第1に、日本の非製造業における近年の低労働生産性水準は、労働投入の減少ではカバー出来ない付加価値の低下を主因として生じている。第2に、製造業の幾つかの業種では、これらの両要素に関する多様な変動を通じて労働生産性の成長を実現している。第3に、これらの結果を他国の産業別労働生産性水準でベンチマークした場合、ごく一部の業種(例:対事業所サービス)を除いて、ほぼ全ての日本の産業において米国に比して労働生産性水準が低下している。第4に、こうした過去20年に亘る産業別労働生産性のダイナミクスを各年毎に対前年比で記述したところ、長期のダイナミクスの背後に、短期における多様なダイナミクスが存在していることが確認された。