日本企業における災害時リスクファイナンスの現状と課題

執筆者 澤田 康幸 (ファカルティフェロー)/眞崎 達二朗 (眞崎リスクマネジメント研究所)/中田 啓之 (上席研究員)/関口 訓央 (コンサルティングフェロー)
発行日/NO. 2017年2月  17-P-002
研究プロジェクト 大災害に対する経済の耐性と活力の維持に関する実証研究
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概要

本研究では、国内の自然災害に対する日本企業の保険加入率が低く留まっている原因を探ることを目的として、企業に対してアンケート調査を行い、独自に収集したデータを元に災害リスク認知・保険加入・リスクファイナンス方法決定要因に関する分析を行った。本調査により収集されたデータによると災害保険への加入率はそれぞれ、中堅・大企業は59.5%、零細・中小企業は47.0%であった。データから、被災可能性の高い自然災害の特定、BCP・BCMの策定、災害保険への加入、リスクファイナンス方法の概要を把握した。記述統計によれば、大半の企業が潜在的に重篤な被害を与えうる災害を事前に特定化しているものの、具体的な被害額の規模についての想定には改善の余地があること、災害リスク管理に関する経営層のコミットメントと具体的なBCP/BCMについては、約半数の企業のみで定められているにしか過ぎないこと、災害保険は加入率が比較的制約されている一方、保険加入の場合でもそのカバレッジが財産保険に偏重していることがわかった。想定されているリスクファイナンス行動については、企業規模に関わらず、「自己資本(自己金融)」と「銀行融資」の組み合わせ、あるいは「災害保険」と「自己資本」の組み合わせが、自然災害による損失とかかるキャッシュフロー不足に対処するための方法として最も多い。これは災害による潜在的な損失に対する自己資金の役割を「過信」する傾向を示唆していると考えられる。他方、災害保険未加入の理由としては知識の欠如と保険料の高が挙げられており、企業活動や経済全体に大きく影響する自然災害に対してフォーマルな保険メカニズムを拡大することは必要不可欠である。本研究では、2016年に発災した熊本地震被災地域の企業についても分析を行っているが、以上の分析結果は、経営層の災害リスク管理や災害保険への認知やコミットメントを改善するような介入の重要性を浮き彫りにするものである。