国際的な労働移動と貿易

執筆者 佐藤 仁志  (研究員)
発行日/NO. 2013年6月  13-P-011
研究プロジェクト 日本経済の創生と貿易・直接投資の研究
ダウンロード/関連リンク

概要

労働の国際移動の自由化は、貿易や国際資本取引の自由化以上に論争の的になりやすい。現在、日本は外国からの高度人材の受入れを促進する一方、単純労働者の受入れを抑制する方針をとっているが、少子高齢化に伴う労働力不足、競争力の維持、労働需要の実態などの観点から外国人労働者の受入れの在り方についての議論が続いている。本稿は、労働移動の国際化に関するこれまでの経済学的な分析のサーベイを行い、今後の研究の方向性を探った。近年、国間の全要素生産性の大きな違いを前提として、労働の国際移動の自由化は貿易や国際資本取引の自由化に比べ、非常に大きな経済厚生の増加をもたらすという推計が提示されている。また、労働の国際移動を貿易や海外オフショアリングと併せて考察することで、(1)交易条件の変化、(2)規模の経済性、(3)タスクの分業といった視点からも、労働移動の国際化の影響が明らかにされつつある。経済成長に関しては、高度人材の受入れが研究開発を促進するという実証研究がある一方、海外からの労働受入れが経済成長率を高めるとしても経済厚生水準の上昇にはつながらない可能性があることも指摘されている。今後、外国人労働者の受入れに関する更なる実証研究とともに、貿易政策と外国人受入れ政策の決定を分析する統一的な枠組みが求められる。