執筆者 | 安田 武彦 (東洋大学) |
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発行日/NO. | 2010年12月 10-P-025 |
研究プロジェクト | 起業家、潜在的起業家等の動向に関する調査研究 |
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概要
我が国では今世紀に入り起業に対する支援が推進されている。
この背景には起業によるイノベーションの促進と雇用創出が存在する。だが、実際の起業家はそうした期待に応える者なのか。
起業家の中には「満を持して」起業する者もいれば、突然のリストラ等により起業を選ばざるを得ない者もいる。前者と後者ではイノベーションや雇用への影響は大きく異なり、経済社会への影響も異なる。
本論では起業のパターンについて(1)ビジネスチャンスを見出し、起業を能動的に選択するという「プル型起業」と(2)諸事情(失業、リストラ等)により、起業を選択する「プッシュ型起業」に分け、どちらが主なのかを検証する。
なお、こうした起業形態の分類は起業支援施策の力点の置き方に影響を及ぼす。起業実現者にプル型が多い場合、起業における資金面等の支援が重要なものとなる一方、起業実現者の多くがプッシュ型である場合、起業に踏み切る前の事業計画の精緻化等の指導助言が重要になるからである。
本論での検証では、(1)起業を相対的に容易に実現した者ほど、起業後、黒字基調とはなりにくいという結果が出た。ここからは我が国の起業がプル型というよりプッシュ型主導であることが推察される。また、(2)起業選択と起業後のパフォーマンスに影響を与える個別の起業家属性についてみても、起業選択を促進する属性の多くは起業後のパフォーマンスには負の影響を及ぼすことが分かり、(1)同様の結論が支持される。
こうした本論の結果は、政策的に見ると今までの数を増やす起業政策から上質の起業を増やす政策への転換を促しているといえる。