自由貿易協定(FTA)の経済的効果に関する研究

執筆者 浦田 秀次郎  (ファカルティフェロー) /安藤 光代  (慶應義塾大学)
発行日/NO. 2010年12月  10-P-022
研究プロジェクト FTAの効果に関する研究
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概要

自由貿易協定(FTA)の経済的効果を質的および量的な面から分析した。質的分析ではFTAの条文に記載されている内容を自由化水準の観点から検討した。量的分析では分析の視点をFTA発効前後で区別し、発効前の分析では一般均衡(CGE)モデルを用いたシミュレーション分析を行い、発効後の分析では実際の統計を用いてFTAの利用度と貿易への影響を分析した。

質的分析では、財・サービス貿易、直接投資、セーフガードを対象とした。財貿易では原産地規則と農産品の自由化度について分析を行った。分析から原産地規則は途上国のFTAと比べて先進国のFTAで自由化度が低いこと、また農産品について他のFTAと比べて日本のFTAは自由化度が低いことが示された。サービス貿易では自由化の範囲、最恵国待遇、内国民待遇、国内規制、直接投資では市場アクセス・出資規制、内国民待遇、承認審査、取締役会の構成、外国投資家への査証の発給、パフォーマンス要求を取り上げて自由化度を分析した。サービス貿易と直接投資の質に関しては、発展途上国と比べて先進国で自由化度が高い傾向が確認された。FTAでのセーフガード規定の分析では発動条件、実施条件および手続き条件に着目した。分析結果からは貿易や投資でみられたような先進国と発展途上国の違いの傾向はみられない。

FTAの経済効果に関するシミュレーションによる事前分析では、自由化対象分野が大きいほど、また加盟国が多いほど経済厚生やGDPの引き上げ効果が大きいことが示された。さらに、自由化だけではなく円滑化や技術協力を含む場合に、より大きな効果が認められた。FTA効果の事後分析では、FTA利用度は時間の経過と共に上昇していること、中小企業に比べて大企業で高いこと、MFN関税率とFTA優遇関税率の格差が大きい場合に高いことが明らかになった。FTAの貿易への効果に関してはグラビティ・モデルを用いた推計結果から、先進諸国同士のFTAでは多くの商品について貿易創出効果が認められたのに対し、発展途上国同士のFTAでは貿易転換効果が認められた。

日墨FTAの経済的効果に関する分析では、FTAの対象となった品目については日墨間の貿易が増大したことが認められた。日墨FTAは貿易自由化だけではなくビジネス環境整備など包括的な内容になっているが、それらの分野でも期待された効果が確認された。