執筆者 | 久貝 卓 (上席研究員) |
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発行日/NO. | 2010年8月 10-P-006 |
研究プロジェクト | 知的財産戦略のレビューと今後の課題 |
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概要
本稿は、2002年から始まった日本の知的財産戦略についてこれまでの進捗の評価と今後の方向についての分析を目的とする。
概要を述べると、
1 知財戦略は、知的財産の創造、保護および活用促進により産業の国際競争力の向上と経済活性化を図る政策である
2 知財戦略本部の発足により、知財訴訟を専門一元的に扱う知的財産高等裁判所の設置や、特許審査を迅速化するために特許庁の審査官を500人増員するなど、従来は実現が難しいと考えられた政策が実現したこと、また国民各層に知的財産に関する認識が広がった点は評価できる
3 他方、各施策の目指した目標の達成度については、知財の創造、保護、活用、コンテンツ産業の振興のいずれの分野においても道半ば、ないし一部は停滞しており、また制度ユーザーである産業の視点や、国際的な制度調和の視点からみても課題は残る
4 知的財産を巡る内外の環境は、知財本部の設置後10年を経ずして、再び大きく変貌している、アジア・新興国の経済の拡大やインターネット技術がさらに発展する一方で、リーマンショック後の世界金融危機や、昨年の新型インフルエンザ感染、地球温暖化問題の深刻化に見られるように、世界が一体となって対応しないと解決できない問題が生まれている、知的財産分野においても、従来の戦略のレビューを踏まえつつ、こうした世界的な環境変化に対応し、国際的な視点からの新たな知財政策を開始することが必要であり、特に以下の3点が重要である
1) 日本企業は、リーマンショック後の経済の低迷を契機に、アジア・新興国市場に経営資源を一層シフトさせており、出願行動にもアジアシフトが見られる、海外事業展開においては、技術が日本企業の競争力の源であり、海外における日本の知財を守ることが決定的に重要である、知財の保護に関する国際協力への積極的な取り組みが期待される
2) デジタル技術とインターネットの世界的な普及により、あらゆるコンテンツのデジタル化とデータベース化を巡る世界的な競争が始まっている、日本のコンテンツは世界的に評価が高いが、現在焦点となっている電子書籍や電子図書館構想の実現に向けての競争に出遅れることは、コンテンツ産業だけの問題ではなく、研究や教育も含めた日本全体に大きな損失をもたらす、日本のコンテンツ産業はインターネットを敵視するべきではなく、これを活用して新たな発展の道を進むべきである、著作権制度についても同様の趣旨から所要の改革が急がれる
3)大学は知財の重要なプレイヤーである、最近はバイオ分野を中心に、日本の大学の優れた研究成果が、外国企業との連携により世界中で活用され、難病の克服、患者の救済に大きな役割を果たしている、このような大学の知財による国際貢献は、日本のソフトパワーであり、今後さらに積極的に進めるべきである、そのために大学の知財を支援する制度のあり方について早急に検討することが必要である
といったことである。
なお、本稿の作成にあたり、(社)知的財産協会の協力を得て、特許出願上位200社に対し、リーマンショック後の特許出願動向についてアンケート調査を実施し、その結果を図表として掲載している。