近年における原油価格の上昇と背景および影響

執筆者 長谷川 榮一  (上席研究員)
発行日/NO. 2008年9月  08-P-008
ダウンロード/関連リンク

概要

NYMEX原油価格は、97~98年のアジア金融危機により一時$10近くまで下落したが、2004年頃に中国での需要急増、米国でのハリケーン襲来、ロシアでの供給力への不安などが発生し、それ以降、世界的に油価は上昇基調に転じた。そして08年初に$100の大台を突破し、その後、米国でのサブプライム問題が世界的に拡がり、4月以降は世界に溢れる大量の資金とそれを巡る投機が商品先物市場に押し寄せたことを受けて再び高騰し、今やバレル当たり$150を視野に入れた展開となっている。



我が国にとってこうした原油価格上昇の影響は甚大で、たとえば今後年内の原油価格がバレル当たり$140で推移した場合、わが国から産油国へ約$2300億(24兆円)の所得移転が発生することになり、これはGDPの5~6%に匹敵する。また、わが国の「負担増分」は07年から08年への値上がり幅がバレル当たり$30だと約4.7兆円に、$50だと7.9兆円近くになり、それぞれ消費税2%、3.4%に匹敵する金額となる(($1=105円で計算)。これに加えて、天然ガス、石炭、ウランなど他の鉱物資源価格の高騰も我が国の負担増になるのである。



他方、ロシアを含めた産油国は、原油価格上昇による増収分を国内での福祉や経済開発や、海外投資に活用することにより、国内の政治的基盤が堅固になり、国際的な場での発言力を高めている。また中国は、増大する国内でのエネルギー需要を確保するために、資金力、中国市場が持つ購買力、政治力を梃子として、世界中で資源権益を拡大している。



米国は、最大の消費国であると同時に、世界の石油開発の中心的役割を演じたメジャーを有し、また中東湾岸諸国への安全保障供与国、通貨・決済システムの基軸国など、世界のエネルギー需給の中核といえるが、ロシア、中国、イラン、イラクといった国際情勢、また国内でのエネルギー価格の上昇、ドル低下など自国関連要因により、世界への影響力低下の懸念が生じている。



我が国にとって大きな影響を持つ原油価格について、現在の爆発的な高騰の原因の端緒は、04年に中国、中東、米国、ロシアなどで起こっている。その後、産油国による油田への国家支配度が高まる反面、経済原理とは異なる行動原理を有するプレーヤーが複合して石油市場を構成し、原油価格決定を巡る環境は複雑な様相を呈している。また、油価高騰の過程で、供給サイドではサウジアラビア、ロシアなど、需要サイドでは米国、中国などにおいてそれぞれの戦略に基づく動きが生じている。



本稿においては、主要国で行った石油関連のキーパーソンとのインタビューを含む現地調査により収集した情報に、各種の公開情報を併せ体系的に整理、分析し、今後の石油消費、石油価格の動向等を展望するとともに、我が国としての対策を提示した。