欧州共通エネルギー政策の実情と問題点

執筆者 戒能 一成  (研究員)
発行日/NO. 2008年4月  08-P-001
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概要

2008年2月第1~2週において、国際エネルギー機関(IEA)国別政策審査の一環として、欧州共通エネルギー政策についての訪問審査が実施された。本稿は、当該訪問審査に日本代表審査専門家として参加した筆者が体験した見聞を整理し、エネルギー政策の制度設計に知見を有する者の目から見た、欧州共通エネルギー政策の現状とその課題を分析・解説することを意図するものである。

欧州共通エネルギー政策については、これまで問題毎に個々に指令が発出されてきた状況にあり、包括的なエネルギー政策は2007年にようやく合意・形成された。

当該欧州共通エネルギー政策は、電力・ガス域内市場問題での発送電・ガス資本分離や、エネルギー環境問題における「2020年での3つの20%」などの意欲的な政策目標を掲げ、各加盟国の努力を促すという独特の政策手法が採られていることが特徴である。

しかし、過去の電力・ガス自由化、再生可能エネルギーや省エネルギーに関する指令の各加盟国での実施状況は全く好ましくない状態にあり、一部の政策では実態と乖離した過去の指令の目標を単に長期的目標に置換えたに過ぎない状況が観察された。

確実な履行・実施を伴わない政策目標の設定程空虚なものはない。

現状では政策毎に部分的な強制力の付与・強化と目標延期を繰返しているが、今後履行・実施についての抜本的な変革を遂げなければ、欧州共通エネルギー政策は政治的決定の単なる形式手続と化すことが懸念される。