協同組織金融機関の「地区」に関する考察

執筆者 神吉正三  (流通経済大学)
発行日/NO. 2006年6月  06-P-001
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概要

協同組織金融機関の定款には、「地区」を定めなければならない。そして、組合員・会員は、地区内に居住するなど、地区と一定の関わりのある者である必要がある。このように、地区は組合員・会員の資格を制約する要因となり、協同組織金融機関が事業を行う地域を間接的に制約する効果を持つ。また、地域金融機関においては、貸出先が特定の業種に偏りやすいとの指摘があり、協同組織金融機関が特定の地域を基盤として金融事業を行うことは、経営の健全性維持の観点から潜在的に問題を含むと見ることもできる。本稿では、明治33年に成立した産業組合法に関する文献を手がかりとして、信用組合に地区を定めることが求められた当初の理由を明らかにする。その理由として、(1)協同組織金融機関としての組織に内在する要請に基づく側面、(2)行政監督・金融監督の側面の2つを指摘することができる。(1)はさらに、協同組織としての人的結合の確保に関する側面と、融資運営の厳格化に関する側面の2つに分けられる。産業組合法は、信用組合に「区域」を定めることを求めることにより、協同組織としての人的結合の拠り所を地縁に求めるとともに、無担保融資を的確に行うために必要となる定性的な情報を確実に収集することを担保し、融資の事後管理にも万全を期したのである。そして、この理由に照らして、現在の多くの協同組織金融機関にとって、地区を定めることの必要性が消滅していることを主張する。