| 執筆者 | 服部 崇(ファカルティフェロー) |
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| 研究プロジェクト | 東アジアにおける国際協調メカニズムに関する研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「東アジアにおける国際協調メカニズムに関する研究」プロジェクト
研究の背景と方法
台湾は国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に締約国として参加できない一方、アジア太平洋経済協力(APEC)には1991年から「Chinese Taipei」として加盟しており、APECは台湾にとって数少ない主要な多国間参加の場である。APECでは、加盟エコノミーが作業部会等を通じて、政策対話・調査研究・能力構築等の協力事業(APECプロジェクト)を提案・実施している。本研究は、APEC Project Database(PDB)を用いて、台湾が2006年以降に提案した全309件のプロジェクトを悉皆調査し、気候変動との関連性を独自の基準で分類した。首脳宣言や政府文書といった「言説」ではなく、事業レベルの「行動」から台湾の国際的関与を捉えようとする試みである。
主な結果
- 気候変動関連は約3割:台湾の単独提案の約31%が気候変動関連であった。この比率は2006~2010年の14.3%から、2011年以降は32~34%台に上昇し、定着している。
- フォーラムによる使い分け:エネルギー作業部会では96.3%が気候変動関連である一方、台湾最大の提案先である人材開発作業部会では8.2%にとどまり、フォーラムごとに異なる役割を担わせる多層的な構造がみられた。
- 他エコノミーより積極的:気候変動関連案件の多い5つのフォーラムへの提案比率は、台湾が34.5%で、台湾以外のエコノミー全体(23.9%)を約10ポイント上回り、20エコノミー中5番目に高い(図)。間接的な比較ではあるが、台湾の気候変動分野への取り組みはAPEC内で相対的に積極的と推測される。
- 専門センターによる継続的供給:台湾がホストする4つのAPEC専門センター(台風研究、緊急事態対応、バイオ水素技術、エネルギースマートコミュニティ)が、気候変動関連案件の約4分の1を継続的に供給していた。
- 中国との協働は馬英九政権期に限定:中国との共同提案6件はすべて2009~2015年に集中し、日本主導の低炭素モデルタウン(LCMT)に加え、ペーパーレス貿易や車両間通信(ITS)にも及んでいた。2016年以降、中国との共同提案は確認されない。
政策的インプリケーション
第一に、APECは、台湾が国際的な気候変動対策に実質的に関与するための現実的な場として機能している。「主権的地位は認めないが機能的参加は認める」というAPECの性格のもとで、台湾は技術・実務面での貢献を積み重ねてきた。日本は米国と並んで台湾の最多の共同提案相手(各9回)であり、日本主導のLCMTは台湾と中国がともに参加する場ともなった。日本がAPECの気候変動・エネルギー分野でプロジェクトを主導し、台湾を含む多様なエコノミーの参加を促すことは、地域の気候変動対策の推進と台湾の国際的関与の確保の双方に資する。
第二に、専門センターのような恒常的な制度は、単発の提案に比べ、継続的な知識の供給と存在感の確保に有効である。日本も東京にアジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)を擁しており、こうした拠点を軸とした継続的なプロジェクト形成は、日本のAPEC戦略を考えるうえでも示唆を持つ。
第三に、非政治的な技術協力の枠組みは、政治的緊張を抱える当事者間でも、条件が整えば実務協力の窓口となりうる。中台の共同提案が馬英九政権期に限られていたことは、こうした協力が政治状況に左右されることも示している。平時からAPECの技術協力の場を維持・活用しておくことが、関係改善の局面で協力を再開するための基盤となる。
第四に、PDBのような事業レベルのデータは、各エコノミーがAPECをどの分野でどの程度活用しているかを把握する有用な手段である。日本自身の提案ポートフォリオの点検や他エコノミーとの比較など、政策立案の基礎資料として活用する余地は大きい。